3階
初戦闘
「よし、3階に到着!」
「とりあえず、地図に情報を入れてくれるか」
「任せて!」
3階で思い出せることを呟き、地図に載せていく。
まずは重要なイベントのある場所、手紙のありかやボスが出てくる場所――。
そして罠やアイテムの場所も出来る限り思い出していく。
「覚えているものは全て地図に載せたよ。ルディの手紙が近いから、そこに行く?」
私が更新した地図を見ながら裕樹君がうなずく。
「そうだな。手紙から行くか。あー……ゆりの武器がいるな。これ、片方ずつ持っていよう」
そう言って裕樹君はシルバーシザーズの片方を渡してくれた。
貴重な武器を分けて貰って申し訳ない。
でも、手ぶらでは進めないし、自分の身は自分で守らないと裕樹君にも迷惑をかける。
「ごめんね。ありがとう」
「気にするな」
笑顔を見せてくれた裕樹君に笑顔を返す。
こちら側に来てしまってとても不安だったけれど、裕樹君と一緒ならなんとかやれそうだ。
「んー、ごほんごほん。僕もいますよー」
寂しくなったのか、葵君がせき払いをしながら会話に入って来た。
分かる!
放送室にいると忘れられちゃっている気がしてくるんだよね。
「葵君、頼りにしてるね!」
「お前はおとなしく実況してろ」
「なんだとー!」
「さあ、地図を見ながら進もう」
「うん!」
葵君がまだなにか喋っているけれど、相手にしないで裕樹君は進み始めた。
ごめんね、葵君。
私も余裕がないから、裕樹君について行くことに集中します!
「3階は今までより明るいんだな」
長い廊下を進んでいると、裕樹君が周囲を見てそうこぼした。
1、2階はほの暗く、カンテラの光りも弱かった。
自分の周囲がぼんやりと見えたくらいだが、3階は全体的に明かりがついている。
家の電気のような明るさはないけれど、見渡すとちゃんと色が見える。
1、2階は見渡すと暗闇だったからなあ。
それに今までは壁や床がボロボロだったり、壊れたものがちらばっていたりしたが、3階は違う。
お客様を招いてもいいほど綺麗で、廊下に敷かれている真っ赤な絨毯もふかふかだ。
「ここは人形姫のために綺麗にされているんだよ。だから出てくるアンダーシーカーも騎士――ナイトだよ」
「ナイトか。強そうだな」
「そうだね。……話題にしていたらやって来たよ」
「本当だ。呼んだわけではないんだけれどな」
前方から2体のナイトがやって来る。
身につけている鎧は銀色だが、銀色の兜の奥に光る目は赤い。
2体のナイトは私達を見つけたようで、こちらに向かって駆けてきた。
「構えるぞ」
「うん。裕樹君、ナイトは視界が狭いから、足元の攻撃に弱いの。それと3連攻撃をするけれど、3回目は大きく振りかぶって隙ができるから、上手くうしろに回り込めれば転ばせることができる!」
「分かった!」
裕樹君に情報提供はしたけれど、果たして自分は上手くやることができるのか不安だ。
でも、不安だからといってアンダーテイカーは待ってくれない。
1体は裕樹君に飛びかかり、もう一体は私に飛びかかってきた。
シルバーシザーズで攻撃を受け止め、押し返す。
ナイトが引いたところで足を払い、体を倒した。
転んだアンダーシーカーの鎧をぐさりと刺すと、その姿はなくなった。
無事に倒せたようだ。
え……私、凄くない!?
もしかしたらここでは、私達はある程度戦える能力にアップしているのかもしれない。
そうじゃないと、運動神経には自信がない私がこんなに戦えるなんておかしい!
私がかっこいいなんておかしい!
でも嬉しい!
「ゆり、やるじゃないか!」
「裕樹君もね!』
もちろん裕樹君もナイトを倒し終えている。
勝利のハイタッチだ。
「裕樹君がいるから大丈夫! それにちょっとわくわくしてる!」
こわいけれど、こんな体験できるものじゃない。
興奮気味に微笑むと、裕樹君が固まった。
あれ? どうしたの?
「あ! こんなときに思いきり笑ったりしたらだめだよね! ごめん!」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「裕樹君?」
「きっ、気にするな」
「ああああ! 僕もそっち行きたい! ゆりちゃん、僕にもニコッてしてよ! 仲間はずれ反対!」
ニコッ?
「こう?」
「えー……なんか違う。それはちょっとわざとらしいというか。なんかイラッとする」
「イラッと!?」
言われた通りに笑ったのに、けなされるなんて理不尽だ!
「さあ、リスみたいに頬をふくらませていないで先に行くぞ」
「……リスなら可愛いから許す」
葵君に抗議をしたかったけれど、スタスタと先に進む裕樹君の後を追った。
「手紙はこの奥の部屋だが……扉がないな? どこから入るんだ」
「まずはここに出るアンダーシーカーを倒さなければいけないわ」
「ナイトか? メイドの時のように100体倒すとか?」
聞きながらうんざりしている裕樹君に思わずに苦笑いだ。
「ここは体力的にはメイドより楽だと思うけれど……」
「体力的には?」
裕樹君は嫌な予感がしているようで、すでに顔をしかめている。
あはは、するどいなあ。
「えっとね、ここは『戦う人』と『人質』に分かれなきゃいけないの」
「まさか、人質はあのかごに入らないといけない……なんてことはないよな」
裕樹君の視線の先にあるのは、綺麗な3階には似つかわしくない錆びた鳥籠だ。
鳥籠とっても大人の身長くらいのサイズで、赤黒い嫌なシミがたくさんついている。
「そのまさかです」
「ははは」
肯定すると、裕樹君は諦めたように笑った。
気持ちは分かるよ。
なんだかもう……不気味なのはお腹いっぱいです! って感じがしてきたよね。
「1人で来た場合は、ナイトがあのかごに放り込まれるの。そしてプレイヤーが戦うんだけれど、プレイヤーが負うダメージはすべてかごの中にいってしまうのね。かごの中のナイトが死んでしまうと、プレイヤーもゲームオーバーになる、という構造です」
「フレンドと来た時は、フレンドがかごに入るってわけか」
「そういうこと」
「なんか、人にダメージ押しつけるとか嫌な感じだよねー」
葵君の言葉に私も頷く。
ここはフレンドと来ない方がいい場所だ。
「じゃあ、おれがかごに入る」
「分かっ……って、ええ!? 私が入るよ!」
「じゃあ、僕が入る!」
「お前は入ることができないだろう!」
「葵君、今は黙っていて!」
「ちぇっ……『どうぞ、どうぞ』ってやりたかっただけなのにさ」
葵君、そんな伝統芸能をするのは今じゃなきゃだめだったのかな!?
空気読んで!
「分かった。とりあえず戦闘の内容を教えてくれ」
「戦闘の内容は、騎士試験なの。まず対ドッグ1体。その次はメイド1体。続いてコック1体、そしてナイト1体。最後は全種1体ずつ現れるよ」
「その内容なら、ゆりでも倒せるだろう。やっぱりおれが入る」
「裕樹君ならノーダメージで戦えるでしょ! だから私が入っても問題ないじゃん!」
「……万が一と言うこともある」
「ノーダメージじゃなくてもいいよ」
「だめだ」
むーと睨みながらお互いを見るが、先に目をそらしたのは裕樹君だった。
「おれのせいでゆりが傷つくのは見たくない……」
「!」
目がカッと開く。
突然こんなところでテレビドラマのワンシーンが……!
さらさらの髪がなびいて、ふせた目を縁取るまつげが長い……美しい…………じゃなくて!
「そんなにキラキラさせて言ってもだめだからね! 私だって裕樹君が傷つくのは嫌だもん」
「ちっ」
「あ! 舌打ちしたなー!?」
「普通さは。痛い思いをするほうが嫌って言わないか? ゆりはおれのことを信用しすぎだ」
「え、でも……裕樹君、凄いし、かっこいいし、良い人だし……」
「…………」
無言になった裕樹君をジーっと見つめる。
今の説得がきいたのかな?
「おや、伊志野裕樹君、かっこいいに照れていますねえ」
「……葵っ! 入ってくるな! フルネームで呼ぶな!」
「ぶー!」
なんだ、かっこいいって言ったのに照れていたの?
裕樹君なんて耳にたこができるくらい言われていると思うけれど?
葵君と言い合っていた裕樹君だが、真面目な顔をすると私を見た。
「ゆりはそう言ってくれるけど、おれのなにを知っているんだ? テレビで見るおれなんて、おれの一部でしかない。おれが悪い奴で、ゆりをかごに閉じ込めたままどこかへ行ったらどうなるんだ? わざとダメージをたくさん食らって、ゆりが死んでしまうように仕向けたら?」
「裕樹君はそんなことしないよ!」
「どこにそんな保証があるんだ」
「保証はないけど……勘!」
「……あのなあ」
裕樹君はボリボリと頭をかいた。
言いたいことは分かるけれど、分かった上で私は裕樹君を信じているんだけどな?
「私、裕樹君のことはテレビとここに来てからのことしかしらないけれど、それでも裕樹君が悪い人じゃないって分かったよ! それに信じているから、戦う方を裕樹君に頼みたいの!」
私の言葉を聞いて、裕樹君はとても迷っていたけれど、根負けしたのか頷いてくれた。
「そこまで言うなら……分かった」
「大丈夫! ゆりちゃんの言う通り、裕樹は真面目すぎるくらい真面目のいい奴だから!」
葵君の言葉にニコリと笑って返しておく。
「かしてくれていたシルバーシザーズは返しておく。じゃあ、裕樹君の準備ができたら私はかごに入るね」
「おれはすぐにでもいい」
私からシルバーシザーズを受け取った裕樹君が感触を確かめながら言う。
早くクリアしたいし、私も早いほうがいい。
うなずくとすぐにかごに向かった。
「よろしくお願いします!」
「任せろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます