ルディの手紙

「ルディの手紙は、ボスマークのある部屋の二つ前にある小さな部屋にあるよ」

「分かった。あ、今ゆりが教えてくれた場所に手紙のマークがついた」

「ほんとだ!」


 みんな地図を表示したままの状態にしているのだが、私が手紙の場所を言った瞬間に手紙のマークがついた。


「新たな情報があると地図が更新されるのかもしれないな」

「あー、なるほど。じゃあ、ゆりちゃんが知っている情報を喋って貰ったら、どんどんこの地図に記入されていって、僕達にも分かりやすくなるんじゃない?」


 私が「手紙のマークだあ」とのんきに思っている間に二人が話を進めていく。

 頭の回転が早すぎませんか!?

 テレビに出ていると台詞を覚えたりするから、賢くなるのかな……。


「そうだな。ゆり、頼めるか」

「う、うん! もちろん!」

「おれ達は手紙の部屋へ進むから、ゆりは覚えている限り地図に情報をいれてくれ。こちらを気にするより、そちらの作業に集中してくれたらいい」

「新しい武器もあるし、ザコなんて僕らの敵じゃないよ! 心配しなくていいからね!」

「うん。分かった。地図の方を頑張るね。えーと……」


 クラウンさんの実況動画を頭の中で再生する。

 ケージキャッスルの2階……ドッグを倒して……メイドを倒して……ルディの手紙の場所……武器に出来るものが落ちている場所……アイテムがある場所……。

 不思議だ。

 私はそんなに勉強が得意なわけでもないし、記憶力もよくないのに、クラウンさんの動画のことは細かく思い出せる。


『イスがあれば2階の前半は楽ですね~! やっぱりスプーンで行くくらいの縛りがないと燃えないなあ。あ、この本とかも武器になりますね。なんかこう……かっこいい魔法が使えるようになると熱いですよね! メテオフレア! みたいな。ちょっと装備してみましょうか。よし、攻撃! …………って、まさかの物理攻撃! 本で殴るという、実にシンプルな物理攻撃! まあ、そんな予感はしましたよね。あ、本投げちゃった。ま、いっか。もうそこに放置しましょう!』


 クラウンさんが操作間違いで「やっ!」って勇ましく本を捨てちゃったの、すごく面白かったなあ。

 あの本はここにもあるのだろうか。


「おお。すごい! 地図にいっぱいマークがついていく!」


 考え込んでいたが、葵君の明るい声でハッと意識が戻った。

 思い出しながら呟いていたのは、情報として有効だったようで地図が更新されていた。


「ゆりの方こそ天才なんじゃないか? よく動画を見ただけで覚えていたな」

「えへへ」


 裕樹君に褒められて嬉しいけれど、自分でもこんなに覚えているなんて不思議だからなんだか気持ち悪くもある。


「手紙の部屋に到着したぞ。地図のおかげで来る途中に、色々アイテムを拾った。ロープに鏡、ろうそくにフライパン」

「僕は犬のおやつって感じの骨を拾ったよ。あとはこれ、この部屋に落ちていたけど……アルバムかな」

「あ! それは」


 見覚えのある装丁だと思ったら、今さっき思い出していたクラウンさんが誤ってポイッしちゃった本だ。


「ゆり? どうした?」

「あ、なんでもないよ。クラウンさんの動画で、その本を武器として使ってみたことがあったんだけど……。ちょうどそのことを思い出していたところだったから、びっくりしただけ」

「そうか。この本、どうやらアルバムのようだぞ。写真がたくさんある」

「どれどれ……ひいっ!?」


 裕樹君が広げたアルバムを覗き込んだ葵君が悲鳴をあげた。

 どうしたの!?

 葵君は怯えたようにアルバムから離れたし、裕樹君も思いきり顔を顰めていた。

 でも、私からはなにが起こったのか見えない。


「どうしたの!? なにがあったの!?」

「いやあ……これは見なくて正解だと思うよ?」

「どういうこと?」

「アルバムにはさ、リディとルディ、それに王子様の写真がたくさん貼られていたんだけど、見ていると突然写真が変化を始めて……。ルディの顔は全て真っ黒に塗りつぶされたみたいになって、王子様の顔は全部裕樹に変わった」

「ええええっ!」


 それはこわい……というか、気持ち悪い!

 裕樹君も苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

 人形姫――リディは裕樹君を自分の王子様として人形にするつもりでいるのかな。

 人形にされたらどうなるのだろう。

 死ぬこともなく、永遠に人形でいることになるのだろうか。

 自分の意思で動くこともできなくなるのかもしれない。

 そんなことを考えているとすごくこわくなってきた。


「このアルバム、どうする? 裕樹のアルバムになったし、記念に持って帰る?」

「持って帰るわけがないだろ。放っておく。……まったく、勝手に写真に使われるなんて、肖像権の侵害だ」

「うんうん。しょうぞうけんのしんがいだね!」

「ゆりちゃん、意味分かってないでしょ?」

「えへ」


 だって、こわいのをごまかしたかったし、意味は分からないけれどかっこいいことを言っているな、と真似をしてみたのだが……どうしてバレた。


「さあ、手紙を始末するか。どこだ……ああ、ここだな」


 説明をしていないのに、裕樹君は隠された手紙を見つけた。

 最初の時のように光っているが、今回は額縁に入っている絵の裏に隠されていたので、見つけにくいのに……。

 注意力が凄いね。

 絵は手を繋いで立っている男女の後ろ姿が描かれている。

 男女は王子様とお姫様に見えるが、どんな意味で飾られているのか。


「もーらい」

「あ」


 読もうとした裕樹君の手から、葵君が手紙を取りあげた。

 広げてそれを読み上げる。


『彼はあなたを待っている。絶対に現れることのないあなたを待っているわ。でも安心して? 私が彼を慰めてあげる。ほら、彼は私の手を取ったわ。もう、あなたは必要ないわね』


「王子様はルディのことは好きにならなかったんだろう? 嘘をついて、リディのことを傷つけようとしたのかな。ほんと、最悪な奴だよ」


 今回も葵君がためらわず破り捨てた。

 手紙を読む度、悲しくて暗い気持ちになる。

 リディ、可哀想だな。

 かといって裕樹君を人形の王子様にするわけにはいかないけれど。


「さあ、そろそろ進まないとな。あとはボスの部屋を目指せばいいんだよな?

「うん。ボスの部屋の前に大きな部屋があるでしょう? とりあえずその部屋の前まで行って。ここもアンダーテイカーが出てくるから気をつけて進んでね」

「了解!」


 廊下に出るとドッグがいたが、二人はもう慣れた様子で倒していく。

 裕樹君はシルバーシザーズを双剣として使っている。

 ゲームの世界で戦ったことがあるのかな!? と思うほど見事な動きをしている。

 葵君もそうだ。

 スパイ映画を見ているような素早い動きで敵を倒している。


「葵君の新武器、Gダガーの切れ味は良さそうだね!」

「……もうGダガーでいいや」

「くくっ。ゆりの勝ちだな。おい、部屋の前まで来たぞ」

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