ガチャ

「あれ、2つゲットしたよ!? ノーダメージだ! 凄い!」


 大きな怪我をしている様子はなかったけれど、全く攻撃を受けていなかったなんて!


「ゆりは無事トロフィーをゲット出来たようだな。よかった。おれ達にも報酬があったぞ」

「僕は武器だ! ブラックダガーだって! かっこいい!」


 葵君が自慢げに掲げたのは短い剣だ。

 果物ナイフより大きい、包丁くらいのサイズだ。

 暗闇の中で黒い刃がキラリと光ってかっこいい、と思ったが……。


「黒光りしてるね。Gダガー……」

「ゆりちゃん? 本気で怒るよ?」

「真に申し訳ありませんでした!!」


 私の姿が見えないことは分かっているけれど、葵君に向けて深々と頭を下げて謝った。

 だって葵君の声が本気だったんだもの!


「おれも武器だな。シルバーシザーズ……ハサミ?」


 裕樹君が持っているのは1メートル近くある大きなハサミだ。

 アンダーテイカーのメイドが持っているハサミよりも大きい。

 それにメイドのハサミのように恐ろしいものではなく、見た目がとても綺麗だ。

 銀色ハサミに細かい模様が彫られてあり、ダイヤモンドやサファイヤの装飾がついてある。

 メイドを倒すとごく稀に入手することができるのだが、確率がとても低く、クラウンさんは入手するためにメイドを1000体くらい倒していた。

 その時の実況動画はかなり長かったので、編集でかなり短くなっていたけれど私は寝てしまった。

 ちなみにプレイしているクラウンさんもたまに寝てしまっていた。


「それ、レアで凄くいいものだよ! さっきのメイドみたいにチョキチョキ攻撃も出来るけど、留め具を外すと両手剣になるんだよ!」


 攻撃力も高いから最後まで使える武器だし、見た目もかっこいい。

 色々な使い方も出来るし、いいものをゲットしたね!


「ずるい! 裕樹の武器の方がかっこいいじゃん! なんで僕はGダガーなんだよ!」

「ゆり、葵がGダガーって認めたぞ」

「あ! つい言ってしまっただけで認めてない!」

「葵君! ブラックダガーだってかっこいいよ! 悪者だったけど後から仲間になるヒーローとか、反対にヒーローだったのに誰かを守るために悪くなった悲しい敵が持っていそう!」

「それは……いいじゃん」


 怒っていた葵君が満足げにうなずいた。

 よかった、納得してくれて……。

 そういえばクラウンさんがよく言っていたよ。

 正義の味方が敵側になるような『闇落ち』とかが好きなのは、厨二病って言うんだって。

 葵君、厨二病なんだね。


「これからはこの武器でいこう。イスも壊れてもう使えないし、丁度よかった」

「モップももう火はつけられないし、折れちゃったよ」


 部屋を出ると同時に二人の武器が限界になっていた。

 こんなときにいい武器が手に入るなんてツイているね!


「で? ゆりちゃんはガチャやった?」

「あ、まだ。今からやるね! 2枚、使います!」


 言葉で宣言すると、前回のように消えた。

 ちゃんとガチャ券を使用できたようだ。

 現れたガチャガチャマシーンを2回まわす。

 なにをゲットできるだろう!

 ドキドキワクワクと、また誰かに迷惑をかけてしまうようなものを引いてしまわないか、緊張しながら結果を待った。


『共有MAP獲得!』


「共有MAP?」


 表示された文字を読み上げながら考える。


「どうやって使うんだろう」

「MAP……地図か。共有ってことはおれ達も使えるのかな。そうだとすごく助かるが」

「地図があったら進みやすくなるね! ゆりちゃん、使いますって口で言ってみたら? ガチャ券を使用するときもそうだっただろう?」

「そうだね。共有MAP、使います! わ!」

「うわ!」

「なんか出た!」


 目の前に地図――というか、お部屋探しをしているときに見る間取り図のようなものが現れた。

 ゲームで小さく左下に表示されていた地図と一緒だ。


「目の前に地図が見える」

「僕も!」


 私の前に現れた地図は、二人の前にも現れたようだ。


「地図の中に何種類かマークがあるな。二つある人型マークは、おれ達のことを指しているんだろうな」

「そうだろうね。っていうか、これがあると進む道がはっきり分かるから凄く便利じゃん! やったね、ゆりちゃん! 助かる~!」

「えへへ」


 ガチャを引いただけだけど、褒められると照れる。

 役に立つものを引き当てられて嬉しい。


「廊下の先にあるドクロマークみたいなのはボスか?」

「そうだと思う。この階のボス、アンダーテイカーの『シェフ』がいるはずの場所だから」

「そうか。このあと向かわないといけないんだよな」

「強い? あ、だめ。言わないで。やっぱり聞かない! それより、もう一つのガチャはなんだったんだ?」

「あ、そうだった! えっとね。ポジ……え?」


 画面の文字を見た瞬間に固まってしまった。


『ポジションチェンジカード』


 ポジションって位置とか役割とか、そういう意味の言葉だったと思う。

 つまり、私と裕樹君達のどちらかが交代する、ということ?

 あの怖い場所に行かないといけないの?


「ポジ? ゆり? なんだったんだ?」

「え、えっとね……」


 言わないといけないのに、迷ってしまう。

 代って! と言われたらどうしよう……。

 葵君なんて私のせいで来ているのだから、代ってあげるべきだと思うのに言葉がでない。


「どうした? なにかあったのか?」

「ゆりちゃん大丈夫?」


 ずるい考えをして、なにも言えずにいる私のことを二人は心配してくれている。

 こんな大事なことを、優しい二人に黙っていていいわけがない。


「あ、あのね、ポジションチェンジカードっていうものだったの。多分、私と裕樹君、葵君のどちらかと場所を入れ替わることが出来るものだと思う……」

「おれか葵が放送室にいって、ゆりがこっちに来るっていうことか?」

「……多分」


 二人はどんな反応をするだろう。

 すぐに代わって! と言うかな。

 代わって欲しいと言われたら、あちらに行って頑張るしかない。

 私だってやってやる!

 腹をくくって待っていると、予想外の反応があった。


「じゃあ、それはいらないな」

「え」

「そうだね。使わないからポイしときなよ」


 二人はそう言うと、もう興味がなくなったのか、地図を見て話し合っている。

 大問題なのに、そんなに軽く流していいの?


「で、でも! そんな怖いところより、出られないけれど安全な放送室の方がよくない? 私、代った方がいいんじゃないかな!?」


 正直に言うと……自信がない、代わるのが怖い。

 でも、私だけ安全な所にいるのはずるいと思うから、覚悟をして聞いたのだが……。

 二人はきょとんとしたあと、大きな声で笑い始めた。


「姿を見ていなくても分かるよ。こっちに来て戦うのは、ゆりには無理だ」

「そうそう。そこで見ていてよ」

「でも……! 私だけ安全なところにいて……」

「いいんだって。こっちのことは任せろ」

「うんうん! 任せろ!」


 涼しい顔で笑う裕樹君と、拳を上げてぴょんぴょん飛び跳ねる葵君が頼もしい。

 男の子だからって、二人みたいに勇気を持てるわけじゃないと思う。


「私、そっちに行くのが怖くて、カードのことを黙っていようかと思ったの。ごめんなさい」

「そうなんだ? そう思っても黙っておけばいいのに~」

「ああ。ゆりは馬鹿正直だな」

「二人はずるい私のこと、許してくれるの?」


 恐る恐る聞くと、また二人はきょとんとした。


「許すっていうか、別に悪くないんじゃないか?」

「そうだよ。別に僕達、ゆりちゃんに無理矢理戦わされているわけじゃないし。あ、まさか! ゆりちゃんが実は裕樹をここに連れて来た黒幕だったとか!?」

「違うよ! そんなわけないじゃん!」

「そうだろ? だったらおれ達はこんな目に遭わされている仲間だ。おれ達が戦って、ゆりは実況する。これが一番クリアの可能性が高いと思う。だから、気にするな」

「裕樹君……」


 裕樹君の笑顔と声はとても安心する。

 私も頑張ろうと自然に思える。

 裕樹君の人気の理由を知ったような気がした。

 やっぱり、姿がかっこいいだけじゃ人気者にはならないね。


「裕樹、いいところを一人で全部持っていってない? 僕だっていいこと言ったのに。いい奴なのに」

「自分で言うな」

「ふふっ! 二人とも、ありがとう! 精一杯頑張ります!」


 気合を入れなおしてがんばるぞ!


「絶対ここから脱出しようね!」

「ああ」

「えいえいおー!」

「あ、えいえいおーをしたところだけど、メイド100体討伐したばかりだったね? 休憩する?」

「ゆりちゃーん。気合入れて休憩してどうすんのさ。気が抜けちゃうじゃーん」


 葵君ががっくりと肩を落とす。

 ご、ごめん、空気を読めていなかったね、失敗!


「おれ達は大丈夫だから進もう。次はボスを目指せばいいのか? 寄り道をした方がいいところはある?」

「あ、ボスの前にルディの手紙を破りに行こう。進む途中にあるから」

「了解!」

「あ、ここからは敵との遭遇――エンカウントがあるよ! 現れる場所や敵がランダムだから私も分からないの。気をつけて進んで」

「OK。益々ゲームらしくなってきたじゃないか」

「だね!」


 裕樹君と葵君が不敵に笑う。

 真っ白な正義の味方という風ではなく、相手を出し抜いて勝つ! という感じのダークヒーローっぽいくていい!

 あ、私も厨二病ってやつかな。

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