フレンドプレイヤー
「裕樹君!?」
「大丈夫だから。ちょっと休憩……。ああー……足が痛い」
寝転がって体を休めているみたいだ。
怖い思いをしながらあんなに走ったのだ。
いっぱい疲れちゃったよね。
『ノーダメージクリア! トロフィーゲット!』
「うん? なにこれ」
ピロンという電子音と共に、突如私の前に小さなスクリーンが現れた。
そこに文字が表示されていく。
『サポーターガチャ 一回券ゲット!』
サポーターガチャ?
首をかしげていると裕樹君のびっくりしている声が聞こえてきた。
「うわあっ、なんか出てきた!」
どうやら裕樹君の前に現れたようで、空中を突いている裕樹君が見える。
あ、もしかして……。
「裕樹君もゲームみたいな画面が出てきたの?」
「ゲームみたいな画面? ああ! それっぽい。ノーダメージクリアでゲットしたアイテム? とか出てきた。君……えーっと?」
「ゆりだよ! 最初に言ったのに~」
「悪い。さっきので記憶がふっとんじゃったよ。で、ゆりの方もゲームみたいな画面が出たのか?」
「うん。よく分からないけれど、ガチャの券を貰ったみたい」
「ガチャ? ガチャっていうと、ゲームだとアイテムとかカードとかキャラクターとか当たるやつか? だったら使ってみたら?」
「そうだね……」
どうすればいいのだろう。
使うと言ってみたらいいかな?
「これ、使います! うわっ!」
使うといった瞬間に券が私の手から離れ、浮かび上がった。
パアッと光を放ちながら消えたかと思うと、目の前にガチャガチャマシーンが現れた。
これを回せということ?
おそるおそる回してみると、中でカプセルが転がっている音がした。
コロン
転がり落ちてきたカプセルが勝手に開く。
白い光が溢れてきて……またさっきと同じような画面が目の前に表れた。
『フレンドプレイヤー招待』
「うん?」
「おい。ガチャを回したのか? どうなった?」
「回したんだけど、よく分からな……」
「!?」
言い終わる前に、裕樹の近くに異変が起きた。
黒いマンホールのようなものが現れ、そこからなにかが吐き出されるように落ちてきたのだ。
ドサっと地面に転がったそれは、すぐにむくっと起き上がった。
「いってー! ……うん? ここはどこだ?」
背中をさすりながらきょろきょろと周りを見渡しているのは、柔らかい癖毛の可愛い男の子だった。
あ……あの子は!
「裕樹? え? なんだその格好。もしかして撮影中!?」
「波川葵君だー!!」
「呼んだ? なに? え、どこから?」
テレビで裕樹君と同じくらい見かける有名人の波川葵君。
確か彼も年は私たちと同じだったと思う。
背は私よりも高そうだけど、裕樹君よりは低い。
キリッとした目の裕樹君はかっこいい系だとすると、ぱっちりとした大きな目の葵君は可愛い系。
もちろん人気も裕樹君に負けないくらいある。
クラスでもよく裕樹君派か葵君派の話になっている。
「僕、楽屋で寝ていたはずなんだけどなあ? 裕樹、どうなっているの?」
「えーっと……。おれもよく分かってないから、状況を整理しようか」
「そうだね」
「あれ!? 僕、いつの間にこんな服着たんだろう!? どう見ても王子じゃん!」
葵君も裕樹君とは違う色の王子様の格好になっている。
ゲームでもフレンドを招待してプレイ出来るのだが、その時の服と同じだ。
私がガチャで引いた『フレンドプレイヤー招待』で招待されてしまったとしか思えない。
私のせいでこんなところに来ることになってしまったなんてごめんなさい。
どうしよう、葵君怒るかな!?
「なあ、ゆりはこの世界のことを知っているんだろう? 教えてくれないか?」
「私もよく分からないんだけれど……裕樹君はケージキャッスルってホラーゲーム知ってる?」
「CMを見たことはあるけれど、プレイしたことはないな」
「そうなんだ。ここね、ケージキャッスルと同じなの」
「同じ?」
「なあ、裕樹。この女の子の声はどこから聞こえているんだ?」
「……葵、今は黙って座っていてくれ」
今、裕樹君達がいるのは上に続く階段がある場所だ。
階段の一段目に裕樹君と葵君は並んで座った。
二人の王子様が並ぶ姿は凄くいい。
写真にしたら私のお母さんだけじゃなく、日本中の二人のファンが「きゃー!」とさわぐと思う。
思わず「ふふっ」と笑ってしまったけれど、今は大事な話をしなければいけないんだった。
ここは多分ケージキャッスルというホラーゲームの世界だということ。
裕樹君は今、人形姫から逃げ切ったばかりだということ。
私はなぜか自分が通う小学校の放送室にいることを、葵君にも説明しながら話したのだが……。
「天の声さんはゆりちゃんね。OK。どこの事務所の子? で、これはなにのオーディションなの? オーディションから撮影するなんて力が入っているね! もしかしてハリウッド映画とか!? 最近はゲームのハリウッド映画化が多いもんね! 二人で王子様の格好をしているってことは、僕と裕樹で主役を取り合うってことだね!? 裕樹、負けないぞ!」
「全然信じてないね……」
「ああ……」
気合を入れる葵君の隣で裕樹君が頭を抱えている。
こんなこと、説明しても中々信じられないよね。
「まあ、そのうち信じるしかなくなるだろ。ゲームを進めること以外に元の世界に戻る方法がないんだったら……」
「……そうだね」
裕樹君とどうすれば元の場所に戻れるのか、夢なら覚めることが出来るのか考えてみたのだが、ゲームを進めてクリアするしかないんじゃないかという結果になった。
私は放送室から出られるか、誰か呼ぶことは出来ないか試したけれど、だめだった。
放送室の扉は開かないし、放送で呼びかけても誰も現れないし、大声で扉の外に向けて助けを呼んでみてもなにも反応がなかった。
裕樹君の方も、城の外に出られないか探ってみようとしたけれど、人形姫から逃げきったときに閉めた扉が開くことはなく、エントランスに戻ることが出来なかった。
だからきっと、ゲームの通りに進むしかないのだ。
「ホラーゲームか。敵を倒しながら進んで、ラスボスを倒したらいいんだよな?」
「うん。このゲームの敵、アンダーテイカーっていうオバケみたいなのを倒しながら進むの。さっきの人形姫との追いかけっこで1階は終わり。あと2階、3階にボスがいて屋上でラスボス戦だよ」
「そういうストーリーの映画なの? エキストラさんもいっぱいいる感じ?」
「葵、今は信じられなくてもいいけど、敵の倒し方とか情報はちゃんと聞いておけよ」
「設定を知っておけってことだね? 台本はないの? あ、アドリブ映画とか? 新しい試みってやつか~!」
「……はあ。ゆり、情報を頼む。というか、ここは安全なのか?」
「そこは大丈夫だよ。二階に上がるといっぱい出てくるけど……」
「いっぱい、か。剣とか、なにか武器はあるのか?」
「あるよ。アンダーテイカーを倒すとゲット出来るものがあったり、宝箱にあったり。あと、あちらこちらに落ちているものも武器になる」
ケーズキャッスルでは、剣みたいな武器らしい武器だけではなく、普段の生活で使っているようなものも武器として仕える。
そういえば……確かクラウンさんが最初の武器として最も優秀なのはものはなにか検証していた。
「あのね、そこにゴミの山みたいなのがあるでしょう?」
階段の脇に、壊れた家具や掃除道具、ぬいぐるみなんかも捨てられている。
最初の武器を持つために用意された場所だ。
「あ! 宝箱がある!」
あまり話を聞いている様子のなかった葵君だが、説明するよりも早くゴミの山に隠れた宝箱を見つけた。
「葵、待て。開けるのは説明を聞いてから――」
「オープン! ……うん? ナイフ?」
裕樹君が言い終わるより早く開けてしまった葵君がナイフを手にする。
なんてことのない、ただのナイフだ。
「ゲームといえばトラップの宝箱もありそうなのに、警戒しないで開けるなんてあぶないぞ!」
「はいはーい。……あぶないことはスタッフさんが教えてくれるだろ。チッ、うっさいなー」
舌打ち!? うっさい!?
天使みたいなイメージだった葵君の口からそんな言葉が出るなんてびっくりだ!
テレビではニコニコしている顔しか見たことがなかったけれど、今は不機嫌そうにツンとしている。
ダークな葵君を見てしまってドキドキしていると、裕樹君が話しかけてきた。
「このナイフは武器なのか?」
「うん。準備されている初期武器って感じのものだよ。でも、動画で今の段階で一番強い武器は……その、すみっこで倒れているイスだって」
「イス? あれか……?」
「うん。それ」
クラウンさんが出した答えは背もたれが長い細身のイスだった。
すぐに壊れそうだが案外頑丈で、クラウンさんもお気に入りの武器だ。
そういえば、ゴミ山の中にあるぬいぐるみも武器として試したけど、すぐに負けてしまっていたなあ。
コメント欄が、クラウンさんが思わず言ってしまった「ですよねー!」という台詞で溢れたのが面白かった。
ぬいぐるみがボロボロになった時の「くまちゃーーーーん!」というクラウンさんの叫びも面白かったなあ。
「イスが武器とかダサい! このナイフは僕が見つけたし、僕が貰うね! よし、主役を貰うのは僕だ!」
「おい! 待て、葵!」
「待たないよ~!」
クラウンチャンネルを思い出してほっこりしている間に大変なことになっていた!
ナイフをもった葵君が階段を駆け上がっていく。
裕樹君がすぐに追いかけようとしたが、なにも持って行かないのは危険だ。
「裕樹君、イスを持っていって!」
「本当にイスでいいんだな!?」
「うん! 信じて!」
戸惑っていた裕樹君だったが、背もたれに手をかけて担ぎ、葵君のあとを追っていく。
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