異界の戦目の当たりにし、邂逅す――

 私たちは呆然として水盤の向こうの様子を眺めていた。

 これは私がベルエルシヴァールに行った時とは違う場所だ。あまりにも荒涼としている。


「ここはどこ?」

「あの火山変な形してるな」

「まるで映画だなあ」


私たちが景色を眺めている地点と火山の間にちらほらと人らしきものの姿が見える。剣や槍や斧や盾や弓矢を持って、ん? 何かと戦ってる? でもこの敵って、まるで私の見た大作ファンタジー映画のオークとかゴブリンとかにそっくりなんだけど。


と思ったらいくつもの岩がびゅんびゅんうなりをあげて飛んできた。


「きゃ!」

「なんだ? 噴石なのか?」

「こっちまで飛んでこないよな?」


 よく見てみると兵隊さんたちがその岩に次々となぎ倒されていく。なんて言うか敵味方問わず? 押し潰されてってる。


「あんなの当たったら死んじゃうよ!」

「散開しろ! 散開するんだ早く!」

「敵に喰い付かれてたらきついんじゃないか……」


 それでも散り散りになった兵隊さんたちの内、十数人がこの水盤の見える辺りに集まってきた。リーダーらしき人二人が何か指示を出している。一人は十五、六歳の金髪ミディアムで女の子みたいにきれいな顔立ちの男の子、もう一人は四十近い無精ひげの黒髪の、あイケメンオヤジ。

この人たちを追ってオークだかゴブリンだかが犬、いやオオカミに乗ってわんさかやってきた。

 やばい、これって絶体絶命ってやつじゃん。私たちは固唾をのんでことの成り行きを見守るしかなかった。


「六国王陛下、お迎えに上がりましたぞ。このゾアルゴが、地獄ボリモアムへの」


 片目のないオークが高笑いをする。


「地獄に堕ちるのはそちのようだがな」


 きらびやかな剣を振るう“六国王”と呼ばれた男の子は言い放つ。その威厳に満ちた表情にはいささかの恐怖も怯えも見えない。


 ん? でもなんで日本語? これって吹き替え版?



 オークのゾアルゴはニヤッて笑い、顎で配下のオーク共に指示を出す。するとオークたちは一斉に六国王に襲い掛かった。


 たちまち十匹以上のオークの腕が、喉が切り裂かれる。その時まで私たちもその存在すら忘れ去られていたイケメンおじさんが肩に背負った剣を一閃させたんだ。すごい。ヴィゴ・モーテンセンか。

 オークたちは更にわらわらと集まってきて数を増やした。それに一気に襲い掛かるよう命令を下すゾアルゴ。

 二人はすっごく強いけどさすがに多勢に無勢。今度こそヤバいかも。私たちははらはらして声も出ない。


 すると次々にオークが勝手に倒れていく。みんな矢が刺さっている。水盤の視界が変わると、空の上からおっきなワシに乗った人二人が弓とゴツゴツした大砲のようなものを持って撃っている。いや、人じゃないや、これってきっとエルフとドワーフ。びっくりした。ベルエルシヴァールってどこまでファンタジー映画なんだよ!


 ドワーフは「ドゥー・ベイ・ガー!」って叫びながらワシから飛び降り三十メートルもの下の地面に着地した。そのまま巨大なハンマーを振り回してオークたちを次々に吹き飛ばしていく。エルフもそのそばに飛び降りてすごいスピードで雨あられと弓を接射していく。


 一転して形勢不利になったゾアルゴは歯がみをして護衛を連れて退却しようとした。


 だけど、その振り向いた先にいたのは。

 赤い服を着た女の子と私たちよりちょっと年上くらいで二振りの剣を両手に構えた男の子。

 ゾアルゴは絶望的な絶叫を上げると重たい偃月刀を振り上げた。


 あれは、あれは!


奏汰かなたー!」

「えっ!」

「なんだって!」

「いや、ちょっと遠くてよく見えない」

「見えなくても分かるの! 私には分かるの!」

「でも危ないんじゃない?」

「こいつ強そうだぜ」


 みんなの心配は杞憂に終わった。

 奏汰が二振りの剣を一閃するとゾアルゴは首を刎ねられ地面に倒れ伏した。

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