女神、火山のルーンを用いて新たなる魔装具を生み出す、丹閃歓(エディリア)――

 女神様がどうして僕やはるはるの事を知っているのか今一つはっきりしない。僕がそのことを問うてみても女神エクスウェラは笑顔ではるはるに訊いてみれば分ると言うばかりだった。


 女神がヒキガエルの背に触れるとそこから輝く何かを取り出した。そしてそれを片手に持ち、もう片方の手にヒキガエルが吐き出した碧月涙エディルナを持つ。

 そしてなにやら念じる様子を見せると、両手に乗せたものが十秒ほど激しく輝く。

 輝きが失せた女神の両手を見てみると、一方の手には何もなく、もう一方の手には碧月涙エディルナそっくりの魔装具があった。それは金とオリハルコンでできていてその中に大きなルビーがはめ込まれている。


 女神が言う事には火山のルーンが持つ力のひとつ「岩をも融かして動かす流動性、可変性」の力を応用して、碧月涙エディルナの持つ効果の一部を変えてみたのだという。

 僕は驚いた。ルーンの効果は絶大だが、それは神々ですら容易く手に入れられるものではないのだ。だが、やはり女神は笑って、僕を元の世界に戻すことを遥香と約束したのでこれくらいはどうと言うことはないと。

 それに、もともと神聖呪文によって碧月涙エディルナを創ることをベルエルシヴァールの人間に教えてしまったのが神々で、その責任を神々自身も負うべきだったのだ、とも女神は言った。

 碧月涙エディルナの創り方を覚えてしまったこの世界の人間は、ことあるごとに異世界人を召喚し、しかもその救世主はいつか必ず世界に災いをなす存在となる。その災いから世界を救うためにまた異世界人を召喚し戦わせるという、果てしないループが起きているこの世界を真に救うためには、僕たちのような異世界人がちゃんと元の世界に還れるようにすることが必要だ。

 女神はその円環を断ち切るために僕を元の世界に返してくれるというのか。遥香との約束がどういったものかはよく分からないけれど……


 だが、僕は安易にはいそうですかと還る気にはなれなかった。僕は数々の失敗で多くの人を死に至らしめた。それだけではなく、大切な仲間のチェルも。

 しかし女神はにこやかに彼女をよく見てみろという。

 見れば、巨大な赤龍がむっくりと身を起こしやがて僕と同い年くらいの女の子の姿に戻る。あれぐらいの火山弾なら硬いうろこに覆われた赤龍にとっては青あざが出来る程度のものだそうだ。

 それに僕がいなければ世界はもっと大きな災いに巻き込まれもっと多くの人が傷ついていた。僕は救世主であることに変わりはなく、僕が罪に思うことはない。女神はそう言うと僕の手を握ってくれた。


 女神エディルナは言った。

 この丹閃歓エディリアを持っていれば元の世界に還れる。そしてフォレスの向こうに遥香とみんなが待っている。それは僕らが飛び立った場所にほど近いところにある。急いでみんなのもとに向かい、そしてそこから元の世界にお帰りなさい、と。


 僕は丹閃歓エディリアを受け取った。そして要領を得ないチェルにお願いして元の場所まで乗せてもらうように頼むと、彼女の背に乗り、女神にお礼を述べて大急ぎでフォレスに向かった。

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