友がら遂に異世界を覗かん。水盤――

「い、異世界って、どこ? 日本とか地球とかじゃなくて?」

るっちがぽかんとした顔で言う。


「なぜ異世界に、その、連れていかれたんだ?」

たけやんは不思議そうな顔をしている。


「だいたいなんでその月原つきはら奏汰かなたって奴のことを俺たちは忘れちゃったんだ?」

合点がいかない顔のさご。


 私は説明した。

 奏汰が連れていかれた世界は“ベルエルシヴァール”。

 恐らく私のように偶然碧月涙エディルナを手に入れ、紅蓮こうれん神社の神籬ひもろぎを通して異世界へと渡ったんじゃないか。

 そしてみんな記憶を忘れる理由は分からない。だけど私はこの仲間の中で一人足りない違和感がずっとあって、そのことを考えて記憶を手繰り寄せるうちに次第に記憶を取り戻し、最終的には奏汰本人に異世界で逢って全部の記憶を取り戻した。


「やっぱり愛の力だねえ、愛。ふひひ」

「行ったって? 異世界に!」

「それなら俺たちも直接会えばそいつの事を思い出せるのか?」


 でもみんな本当に全部忘れてるの? 初めの頃の私のように、違和感や物足りなさのようなものはないの?


「言われてみれば確かに」

「るっちはさっき『男子』って言ったじゃないか。名前しか聞いていないのに何で男子、つまり多分同年代、を意識した言葉が出たんだ?」

「あれ? それもまた言われてみれば確かに」

「きっと、完全に忘れてるわけじゃないんだ。やりようによっては思い出せるかもしれないなあ」


「あ」


るっちが声をあげる。

「手っ取り早くその彼に会えばいいんじゃない? あたしも異世界行ってみたーい」

「ベルエルシヴァールってどんなところなんだ」

「そ、そこの食い物とかも食えるのかな?」


 今奏汰はそれこそ満身創痍で戦っているみたいで多分すっごく危険なところだと思う。それに異世界に行くのに必要な碧月涙エディルナはもうお婆さん、じゃない、女神にあげちゃった。


「女神様!」

「ここに? 異世界の女神さまが? いたの? もしかして」

「どんどんスケールがでかくなってくなあ……」


 私は神社の奥、ほとんど人の入ってこない神籬の前まで三人を連れて行った。


「これが……」

「異世界への入り口……?」

「ただのでかい岩にしか見えん」


 この丸い窪みに水をかけると水盤になって、そこから異世界が覗けるよって説明した。るっちが全速力で御手水をペットボトルに詰めてきて、それを窪みにかけてみる。すると、自分でも驚いた事に直径二十センチほどの窓のような水盤が出来た。


「えっ、えっ、何これすごい!」

「水が窪みに張り付くようにして窓と言うか鏡のようになってるのか」

「じゅ、重力とは……」


 そこには朝焼けに覆われた荒涼とした荒れ地が映っていた。枯れかけた草以外には生きるもののない岩だらけの荒野。そしてその彼方には激しく噴火をする錐のように尖った山があった。

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