鬼一口(おにひとくち)を前にし足掻(あが)き進退谷(しんたいこれきわ)まる、歌声――

 灼熱と高圧の中に閉じ込められた僕はもう動く事すらままならない。


 僕はまた判断ミスで僕自身のはおろかチェルの命まで失わさせてしまった。猛烈な怒りと悔しさでもがこうとするけれど思うように身体が動かない。


 このまま耐熱魔法や呼吸魔法が切れたら僕は間違いなく死ぬ。一体どうすればいいのか見当もつかない。焦りと恐怖にもがき、あがき、少しでも上へ上へと身体を動かそうとしていた。


 万力のような溶岩の力で締め付けられ、呼吸魔法があっても窒息しそうな恐怖。まるで胸にダンプが乗っているようだ。熱気で耐熱魔法の効果範囲外に出た髪や服が一瞬で焼けて消える。


 一体どれくらい無駄な試みをしていたのか。だが、僕の魔力ももう尽きる。もしそうなれば僕は一瞬で消し炭と化す。


 いやだ、そんなのはいやだ! 僕は必ず帰る! 遥香に約束したわけじゃないけど必ず帰る! そして今度こそ本当に遥香に告白するんだ! だから僕は決して負けたりはしない。絶対にガルバゼスに勝つ!


 だけど、呼吸魔法が切れた瞬間僕は恐怖でいっぱいだった。

 息が出来ない。

 苦しい。

 溶岩から吹き出る毒ガスが僕の顔にかかる。


 すーっと僕の意識が遠くなる。

 何も考えられなくなる。

 ああ、さすがにもう無理なのかな……


 ごめん、ごめん遥香ごめん、もう告白なんてできないかも知れない……

 やっぱりあの時ちゃんと……


“真夏の 真白な 入道雲が

私の涙を ばかだねって 見下ろしてる

悔しくて 思い切り 小石を蹴った”


 遠くから微かな声が聞こえる。

 遥香の声?

 だけじゃない、たけやん、るっち、さごの声もする。


“二人の 歴史は もう誰も知らなくて

タイムカプセルにも 仕舞われないまま

私の机で 眠ってるよ”


 なんだっけこれ。

 あ、そうか「明日、君がいない」の曲だったけか。

 一時期はるはるずっとこれ歌ってたな。


“Ah, 貴方がいなくて

Ah, 辛い時ばかりだけど

それでも 私は 歩いてくんだ”


 ごめん、ごめんな。遥香一人にしてごめんな……


“Ah, あの空の向こう

Ah, 決して褪せない日々

私は 忘れず 生きてゆこう

二人の歴史は もう誰も知らない”


 ……いや、違う、違うんだ。

 このまま終わらせちゃだめなんだ。

 誰も知らないまま終わりにしちゃいけないんだ。

 そのためには絶対僕は。僕は!

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