ともがらと共に歌い、涙止まらず――
待ち合わせには絶対遅刻するたけやんとさごも、今日ばかりはビシッと浴衣を決めてる。男前度5%増しだ。そう言ったら二人とも5%って数字に多いなる不満を覚えたようだけど。
るっちはたおやかーに浴衣を決めてる。こっちは可愛さ七割増しだって言ったら逆にいつもはそんなに可愛くないのか、猛抗議をされた。
うむ、言葉の使い方は難しい。
三年に一度の大祭なので神社も神輿も町内会のカラオケ大会も夜店も気合の入り方が違う。
ピッカピカのお神輿が、旧道沿いにあるいくつもの神社の間を何度も往復する。そのお神輿がやってくるたびに大歓声が上がりひしゃくで水がかけられる。私たちはその水から避けるために大騒ぎしながら旧道の奥まで逃げる。
水かけから逃れてわき道に入ると夜店が並んでいる。“シャッター街”と化した商店街が華やかになる数少ない機会だ。
るっちは昨年と同じく金魚すくいに燃えている。なんでもお父さんが飼っている熱帯魚のエサにするんだとか。エサ? ちょっと残酷じゃない? と思ったけど、飼い切れず死なせてしまうよりはずっといいじゃん、とるっちは言う。まあ、確かにそうかも。たけやんは何故か小学生に混じって「かたぬき」に真剣になり、さごは食べてる。とにかくまあ食べてる。焼きそばにしろお好み焼きにしろ色々合わせてもう五人前くらい食べてるんじゃないだろうか。
私はそんなみんなを眺めてるだけだった。何かしたい気が起きなくて。最近全然食欲もないし。
みんなそんな私に何を言うでもなく、てんでばらばらに楽しんでいたかと思えば、その結果をいちいち報告しに来る。ほら!二十三匹取ったよ! とか三つかたぬきできたぜ! とか、もぐもぐ、むぐむぐもぐもぐ、むぐむぐ、とか。
ああ、何か気遣われてるなあ私、と思ったらちょっと申し訳なく思った。みんなはみんななりに私を元気づけてくれようとしてるんだ。私の事情も聞かずに。いや少しは聞こうとしてたけど。そしたら私もちょっと付き合ってやるか! って思って、るっちの金魚すくいの援護に行った。るっちからいろいろ教わりながら、それでも二匹すくえたので嬉しい。
そうしたら少し素直な気持ちになれた。
るっちに、ごめんね、ありがとうね、って言えた。
そしたらるっち何だか涙目になってるの。変なの、って言ってやったら自分も少し涙目になった。
たけやんとさごもやってきて私たちを見て少し笑ってた。さごが私たちに円陣を組ませて突然
どんな曲か聞かれたので、一番歌いたかった「
ステージ脇で四人で少し気分を昂揚させながら待っているとすぐに順番が回ってきた。簡単に紹介をされて歌い始める。
だけどこれは失敗だった。選曲ミス。
この詩ヤバい。身につまされすぎる。私は涙をこらえるのに必死だった。特に後半の詩。
“真夏の 真白な 入道雲が
私の涙を ばかだねって 見下ろしてる
悔しくて 思い切り 小石を蹴った
二人の 歴史は もう誰も知らなくて
タイムカプセルにも 仕舞われないまま
私の机で 眠ってるよ
Ah, 貴方がいなくて
Ah, 辛い時ばかりだけど
それでも 私は 歩いてくんだ
Ah, あの空の向こう
Ah, 決して褪せない日々
私は 忘れず 生きてゆこう
二人の歴史は もう誰も知らない
あの夏の 思い出は
私の 胸の中に
私だけの 記憶
君の いない 夏の日”
驚いた事にこの場にいるお年寄りからも結構好評だったみたいで、思った以上の拍手が貰えた。
でも私はそれどころじゃなくて、みっともないくらい涙をダラダラ流してた。それを誤魔化すように笑顔で取り繕うとするもんだから、もう笑っているのか泣いているのか何が何だか分からない顔になっちゃった。
そうしたらるっちがもらい泣きをして私にしがみ付いてきておいおい泣き出してそれを見て更にさごがもらい泣きして私たちの肩を抱いて汗臭いったら。最後はたけやんも肩を組んできて四人並んで観客にお辞儀をして走って逃げるようにしてステージを降りた。
その後はまたなんだかみんなで泣き笑い。
今“かなすけ”は、
でも私の周りの友達はこんなにも優しい。私はそのことに感謝しなくちゃいけないよな。
ありがとう。
私は笑いながら涙を拭った。
でも三人は絶対私が失恋したって勘違いしてるんじゃないかなあ……
▼用語
※1 Altair ― 君のいない夏:
AiAn初のマキシシングル“
当初のタイトルは“Altair”だったが、上記アニメ映画のテーマソングに採用されるにあたって、“Altair ― 君のいない夏”に改題された。最新アルバム“風”では当初のタイトルに戻されて収録されている。
※2 Orion:
AiAnのデビュー曲。作詞作曲もAiAn本人。kee Records。リリース当初は大きな話題を呼ぶほどではなかったが、広島市での「猫騒動」により一躍有名になり爆発的ヒットとなる。
※3 AiAn:
本名清須藍子。14歳で広島から上京しkee RecordsからOrionを発表。が、以降鳴かず飛ばずの状態が続く。翌年の広島城における「猫騒動」によりデビュー曲の“Orion”が空前のヒット曲になると、他の曲も併せて注目されてセールスを伸ばしていった。
その数年後「猫騒動」の際“Orion”を歌っていた謎の少女の姿を求め、広島中を探し歩くが……
★★以上“Orion”および“AiAn”につきましては、三か四角( @sankashikaku )様著「星街戦争」より、作者様の許諾をいただいた上で借用させていただきました。「星街戦争」は拙作以上に大変読み応えのある作品です。是非!ご一読下さいませ!★★
URL→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054891501600
また、“Altair ― 君のいない夏”につきましては三か四角様の許諾を得て作詞も含め長倉が創作した楽曲です。
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