醜悪なる魔王、おぞましき鎧――

 僕を背中に乗せたチェルは蒸気と噴煙と噴石をかいくぐり、ガルバゼスがいるであろう場所を目指す。


 火山灰や小石の様な噴石がパラパラと僕たちに降り注ぐ。僕の脚はまるでチェルの背中に吸い付くように離れることはない。ウェイクボード? か何かに乗っているような爽快感や疾走感すらある。まあ、僕は乗った事ないけど。


 やがてカルデラの中心に辿り着く。奴がいるとすると、ここが一番可能性が高い。チェルが危険をおして高度を下げると噴煙の下に出る事が出来た。目の前に赤と黒の輝きを見せる何かがいる。


 あれか? あれなのか? だとするとあまりにも。


 直径はゆうに20mを超えている。学校のプールがすっぽり収まりそうだ。そんな直径の半球形の黒い塊。ひび割れが生まれそこから溶岩が溢れ出す。火山弾が次々とその身体から打ち出されていく。数十個の目玉が溶岩の涙を流しながらこちらを睨んでいるが、瞼の下のその眼は人間のものではなくハエの複眼そっくりだった。

 岩石と溶岩でできた幾本もの触手が勢いよく伸び、僕とチェルを捕らえようとするが、チェルは余裕でこれをかわす。


 この半球状の溶岩の塊はガルバゼスの鎧に違いない。すると10mもの装甲を引き剥がさないと本体にはたどり着けないのか。

 僕はこの半球形の溶岩にほど近い場所へ降り立つ。光背が伸びていくようないくつもの光弾を打ち込むがやはりあまり効果はない。

 ガルバゼスは火山弾を撃ってくるが、聖剣オルティアと神剣アルクレストでことごとく切り捨てる。

 目を狙えば多少はダメージを与えられるかもしれない。二振りの剣から閃撃光を放ちガルバゼスの眼が眩んでいる間に半球状の岩と溶岩の上に飛び乗る。

 聖剣オルティアで目を突くとしっかり手応えがある。足元に激しい振動を感じ低周波の呻き声のようなものが発せられる。噴石がいくつも飛んでくるがそれは神剣アルクレストと閃撃光で叩き落とす。


 これでガルバゼスの視界を閉ざせば少なくとも仲間の軍への正確な“砲撃”は止むはず。そう思ってさらに人のようにもハエのようにも見える眼を潰そうと聖剣オルティアを振り上げた時だった。


 足元がずぶりと沈む。はっとして足を引き上げようとするとさらに沈み込む。まるで下から引っ張られているかのように僕の脚はずぶずぶと沈み込んでいく。

 これに恐怖を感じた僕は剣を突き立てたり手で身体を押し上げようととしたけど、逆にそれらも溶岩の中に沈み込んでしまい、僕はあっという間に首から下が埋もれてしまった。耐熱魔法と聖鎧が効果を表しているからいいがその持続時間だって三十分がせいぜいだろう。もし時間切れになったら僕は……


 そこにチェルが雄たけびを上げて飛んでくる。そして突然真っ赤な光を発すると共に赤龍に進化しガルバゼスに火弾を矢継ぎ早に吐き出す。が、そもそも属性一致である事と、厄災魔エグォリエガルバゼスは僕たち来訪者エフィジアでないと倒せないこともあってチェルに勝ち目はない。

 僕は大声で彼女に逃げるよう叫んだが今度は僕を引きずり出そうとガルバゼスに接近し過ぎて、特大の火山弾を胸に受け倒れてしまった。


 まずい、万事休すか。


 僕はどぷん、とみっともない音を立ててガルバゼスの中に呑み込まれてしまった。


 さすがにもう無理かも、これは……


 遥香…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る