一人現世に取り残される。眠りの淵――

 私は紅蓮こうれん神社の神籬ひもろぎの前で呆然と立ち尽くしているしかなかった。

 三十分以上立ち尽くしていたけれど、こんな事をしていても何の意味もないと自分に強く言いきかせて、ようやくうちに帰った。


 ずっとずっと不安で不安で心細かった。異世界の女神さまに会うなんてありえない体験をしたことなんてどっかに行っちゃってた。そもそもあのお婆さん、いや大地母神エクスウェラさん、神様とはいえ本当に大丈夫なんだろうか。


 そんな事を考えながら夜道をゆるゆると自転車で帰る。ずっと考えながら自転車を漕いで帰った。


 ずっとずっと苦しい。


 奏汰かなたの事を思い出してからずっと苦しい。


 こんな事なら思い出さなきゃよかった。


 あ、いやでも、思い出さなかったらここまでの流れにはならなかっただろうから、やっぱり思い出して良かったのか。だけど、それだって大地母神エクスウェラさんが奏汰かなたを助けてこの世界へ戻してくれなくちゃ意味はない。


 ……結局私は無力なままか。


 ぽつりと呟いてうちのドアを開けた。




 お風呂でずっとシャワーに打たれながらボーっとしちゃってて弟の蒼佑そうすけにブツブツ言われちゃった。


 すっかりのぼせた頭でベッドにごろりと横になると、ちょっとぶりにるっちからLIMEが着た。


 明後日明々後日の土日七箇町ななかまちの大祭があるから行ってみないかって。それでも気を遣ってるみたい。ムリだったら全然気にしてないんで大丈夫だから、って言ってくれてる。

 そのちょっとした気持ちがなんだか嬉しかった。

 それに私一人でやきもきしても何かが変わるわけじゃない。奏汰のことは少し置いといて、三人とどこかに行くのはいいかも知れない。そんな気がした。


 だから、いいよ、いこ。とだけ返信をした。


 片手にスマホを持って天井を眺める。今日は疲れた。色々なことがあって疲れた。


 ふう、とため息を吐くと、すーっと視界が暗くなる。私は電気も消さずそのまま眠りについた。

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