瘴気に閉ざされし禍き者と、灼熱の魔神
払暁に合わせ予定通り戦は始まった。
たけやんの桶狭間レポートの片隅の走り書き、十字砲火や斜行陣形、入念な準備射撃といった要点も抑えたからか、敵軍は思った以上に脆い。
これなら僕の出る幕はなさそうだ、と対アステアナ戦の時と同じようにチェルに乗ってガルバゼスの元へ向かおうかとしたところで、大きな変化が起きた。
尖塔のようなメギア山のそこかしこから火と噴煙が吹き上がる。数分後、耳をつんざくような轟音が我が陣営にまで届く。
僕は“探求者”グラースルを初め全員に声をかけ、更に全軍に防御態勢を敷くよう叫んで伝えた。
だが、無駄だろう。僕は自分の至らなさに唇を強く噛んだ。
考えてみれば当たり前のことだ。ここにガルバゼスが引き籠もっていたということはそれが有利な地勢であることに他ならない。僕たちはそれを単に地形上の利点だけなのだと早合点してしまった。
だがよもやガルバゼスが火山のルーンを持っていたとは。あれは硫黄と火山の神ゴーザのものではなかったのか。逆神ゴーザの。
そう思う間もなく低い風切り音や呻りをあげて大小さまざまな噴石が落下してくる。天に盾を掲げた人間が、エルフが、ドワーフが、小さき人が次々になぎ倒され一瞬で肉の塊と化していく。各々の陣営の元に走って行った仲間たちを除けば今ここにいるのは“探求者”グラースルと亜龍のチェルだけだ。グラースルはねじれた樫の木の杖を天高く掲げそこからシールドのようなものを展開している。初めて見る魔法だ。それに呪文の詠唱に使う言語も上のエルフ語ではない。チェルはまるで溶岩のような火球を矢継ぎ早に撃ち出して噴石を器用に狙い撃ちしていく。
グラースルが僕にガルバゼスの元へ行くよう大きな声で指示をする。あとはこの老いぼれ一人で何とでもなる、と。
僕はその言葉に甘えてチェルと目配せをする。彼女が巨大な赤竜の翼を生やし羽ばたいて身体を水平に傾けると僕はその背に乗った。それと同時にチェルはとてつもない速度でメギア山を目指して羽ばたいた。
だが僕たちは気が付いていなかった。僕たちの背後で起きていた出来事を。
グラースルの背後の大地がせり上がり、溶岩を吹き出す。それはまるで小さな噴火だった。そして噴き出す溶岩とともにせり上がるように姿を現したのは、痩せさらばえた老人のように見えなくもない岩石と溶岩でできた身体を持ち、それとそっくりな材質でできた朝星鎖棍を持った悪魔、ゴズモグ王だった。
「
溶岩の瞳を真っ赤に光らせてゴズモグ王は呻り声をあげる。
「
“探索者”グラースルは振り返るとゴズモグ王に応え、ねじくれた灰色の樫の杖を構えるグラースル。やはりその言葉はエルフ語ではなかった。
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