ゴッラ荒野の会戦前夜、魔王未だその姿を見せず――

 草木もまばらな火山地帯の丘陵に陣を張る。

 この辺りはどこを向いてもわびしい風景だ。枯れかけた草もまばらな砂利混じりの大地に、ごろごろと大きな岩が点在している。数百年前に硫黄と火山の神ゴーザにより地母神エクスウェラが封じられて以来、この世界は少しずつ痩せ衰えてきているのだという。それを象徴するような荒涼とした景色だった。僕は“探求者”グラースルから聞いたり、数少ないゲームやラノベで知った知識しかないのだけれど、地母神がいないというのは相当まずいんじゃないだろうか。


 僕は彼方に見える活火山、メギア山に目をやる。


 尖塔のようにそびえ立つ細くて高い山肌のそこかしこに火口があり噴煙や溶岩を吹き出している。

 その尖塔の周囲も高い外輪山に囲まれた、カルデラ火山だ。


 今回の作戦も同じ、軍勢同士の戦いでガルバゼスの気を逸らし、そこへ僕が単身で突入する。

 ガルバゼスの居座るメギア山に辿り着くには、外輪山の細い小道を抜けていかねばならない。僕がガルバゼスの元に直行するために今回もチェルの飛翔能力に頼ることになる。



 魔王戦を翌払暁に控えた備えた夜。

 僕は頭に何かが閃くような衝撃を受けて目が覚めた。こんなことは初めてだった。

 僕が元いた世界の腕時計はまだ動いていて、それを見ると03:43。空は薄明かりさえのぞかせていない。


 一人天幕を出る。衛兵には一人にしてくれと言い、近くの丘に登る。


 風が冷たい。もう冬も近く、そうするとエルフ以外は戦が出来なくなる。魔王討伐は今を逃すと来年の雪解けの時期が過ぎるまでは不可能だ。今のこの機を逃すわけにはいかない。


 だけどなぜか僕の中には不安が胸のつかえとなって引っかかっていた。それが何なのかはっきりとはわからない。だけど僕は不安だった。


 少し歩みを進めると低い丘に出た。

 ここからメギア山と外輪山が良く見える。赤い炎や溶岩が山腹のいたるところに顔をのぞかせている。あそこのふもとにガルバゼスはいるはずだ。だがその本当の姿は誰も見たことがないという。それが不安なのか。不安の正体なのか。ガルバゼスの得体の知れなさが僕を不安に駆り立てているのだろうか。

 

 いつの間にか亜龍のチェルが僕の後ろからやって来ていて、隣に座ると子供のように甘えてきた。

 はるはるがいなかったら、僕は彼女に情が移っていたんだろうか、いやさすがにそれはないかな、などと思っているといつの間にか彼女は僕の肩を借りてすうすうと寝息を立てていた。まだ四歳なんだから仕方がないか、と苦笑いをする。


 二つの月が傾いた天には三極星イスタリオが輝く。正三角に並ぶ星の中央が真北を指し示している。決して揺るがぬ真っ直ぐなしるし。それは僕のゆらゆらとした不安を笑うかのようにきらめいていた。


◆次回

 未定

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