得体知れぬ凶禍(きょうか)の王、ガルバゼス――

 僕たちが軍隊の再編を推し進めた結果、前回の同盟軍を上回る二十三万程度にまでその規模は膨れ上がった。

 さらに、大鷲や亜龍たちが協力して空から偵察を行ってくれた。現在の魔王軍は三十万にも満たないという。また焔滅妃えんめつきの軍勢と違い統制は全く取れておらず、隊列を組むこともままならない、烏合の衆と呼ぶにふさわしいものであったとの報告を受けた。


 これなら、少なくとも兵力のぶつかり合いとしての戦なら力押しでも勝てそうだ。僕たちは少しだけ胸をなで下ろした。


 問題はその中心、魔王そのものだ。


 アステアナは上半身だけでも人の姿を残していた。

 だが魔王ガルバゼスは違う。少なくともそう言われている。この姿を見て生還できた者はなく、我々にはほとんど情報がない。勇敢な大鷲や亜龍が魔王に近づきその姿を確かめようとするも、濃密で煤の混じった蒸気に覆われていて、それを見通すことができなかったそうだ。また彼らは、魔王が溶岩の様な火弾を大量かつ正確に撃つため、容易には近づけないとも言っていた。


 それでも僕たちに出来ることは決まっている。同盟軍が戦で闇の軍勢を殲滅し、僕が魔王ガルバゼスとの決闘でこれを倒す。


 僕は聖剣オルティアと神剣アルクレスト、それと聖王がいの手入れに集中することにした。今の僕にできることはもうそれくらいしかなかったし、こうしていると何より僕のしてしまった事を忘れていられたから。

 手入れと言っても磨き布で擦って磨く事しかできない。ひたすら磨くうちに、まるで博物館の展示物のようにピカピカになってしまった。僕は苦笑すると二振りの剣を収めた。


 兵の集結もほぼ完了し、アフェラス六国王陛下指揮の下、人間の軍隊が秩序だって整列している。六王国のうち四ヶ国の軍も参戦できた。特にアスーテ騎士団領から派遣された重騎士団は、全員が真っ黒い甲冑に身を包んでいる「黒騎士団」だ。これは圧巻だった。

 ドワーフは最終的に六氏族全てから更なる増派を受けた。

 表に出たがらないエルフも自慢の長弓兵だけでなく非常に珍しい長槍兵のオラディエも到着した。

 小さき人々の剣と盾、そして短弓と投石紐や投げナイフを装備し鎖帷子を着込んだ小さな兵士たちが八百名ほど遠路はるばるやってきた。

 それと、これは内密の話だが、旧き民、アルノディンの一族が斥候などのサポートを請け負ってくれるという。

 

 陣容も整いつつある。あとはガルバゼスがこもるメギア山へ進軍するだけだ。

 僕は碧月涙(エディルナ)を頭から振り払って目の前の戦いに集中しようとした。


◆次回

 碧月涙の誘いに耐え、涙す――

 2020年11月8日 21:30 公開予定

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