銀と緑の蠱惑(こわく)。碧月涙(エディルナ)――
ここに何かあるんじゃないか。ここで何かがあったんじゃないか。そんな予感が止まらない。
だとするとそれはやはり
荒い息で神籬に目をやると特に何もないようだ。
なんだ、何もないのか。
でもこの予感は何だか普通じゃない。周囲を隈なく見回す。
すると足元に緑色にきらっと光るものを感じた。身を屈めてみると銀色と緑色の何か。なんかのアクセ? とってもきれい。銀色をした絡まり合う細長い木の葉の中にエメラルドの様な緑色の大きな宝石が入っている。そのエメラルドが時折微かにきらっ、きらっ、と小さく光っている。
ん、でもエメラルドって自分から光らないよね。
これって誰かの落とし物じゃなくて、もしかしてもしかすると「あっちの世界」のものなんじゃない?
でもどうしてここにあるんだろ。
神籬を通して奏汰が置いて行ったのかな。
だとしたら、私の為? これは私への贈り物? この間色々あげたお礼なんだろうか。だとしたら奏汰、あっちで上手くいっているってこと? なんだかすごく物騒な世界みたいなんだけど。
じゃあこれ貰っちゃっていいのかな? 警察に届けなくてもいいよね。
「何やら面妖な気配がすると思えば、あちらから何ぞ送り込まれてきたようじゃの」
背後で聞き覚えのある声がして、ぎょっとした。
「!」
驚いて振り向くと私のすぐ背後にあのお婆さんがいた。
「あ、あの」
もう真っ暗闇に近いのに、お婆さんの表情は何故かよくわかる。いつものように不機嫌そうな顔。
「ほれ、見してみい」
私は黙ってこの銀とエメラルドのペンダントを見せた。
お婆さんは何も言わずそれを眺めている。
初めて見た。このお婆さんが不機嫌そうな顔以外をしているのを。それは目を丸くして驚いている表情。ごくりと喉を鳴らす音が聞こえるくらい喉が動いた。
「あの、これってなんなんでしょう……ね」
お婆さんは驚きの表情も変えず小さな声で呟いた。
「魔装具じゃ。転送具、
「転送具? エ……ディルナ?」
「ぬしが惚れこんどる男をあちらへ送り込んだ張本人じゃ」
「えっ!」
今度は私が言葉を失う番だった。誰がどうしてこれをここに、だなんて考える余裕はなかった。これを使えば「向こう」、お婆さんが言うベルエルシヴァールへ行く事が出来る。
私、行けるんだ! 奏汰のところへ!
◆次回
謀(はかりごと)に手を染めたれば、後悔の念治まる事を知らず――
2020年11月5日 21;30 公開予定
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