禍(まが)き輝きを憎悪すれど、誘いの声止む事なし――
魔装具、
いや、正しくは転送具と言えばいいのだろうか。
僕をこの世界に連れてきた元凶。
アステアナも四千年前にこの
彼女が英雄として戦った際の相手は、やはりかつてベルエルシヴァールに
つまりはそういうことなのだ。
ベルエルシヴァールは、人間、僕たち地球人が変異した魔物どもに常に脅かされており、それに対抗するには地球人を召喚するしかない。なぜならその魔物と化した地球人を倒せるのはやはり
だがその魔物を倒した地球人はベルエルシヴァールでは不死の存在で、何千年も過ごすうちに変異し強大な魔物になってしまう。
ベルエルシヴァールはこうして僕たちを召喚しては世界を救済してもらい、何千年かすると今度は魔物と化したその人を新たに召喚した人に殺してもらい、さらに何千年か後にはまた…… といったループを繰り返している。
ベルエルシヴァールの魔法では、僕たちを召喚する事はできても送り還す事はできないのだと言う。
これは、僕もまたいずれ魔物になってしまうということだ。この世界でたった一人異界人として生きるうちに魂がねじれてしまうからなのだと言う。
僕は怒りの眼で碧月涙を見つめた。
これが、こんなものがなければ僕は!
僕にはアステアナよりこのペンダントの方がはるかに憎かった。
そしてあることに気付いた。
泥水のついた碧月涙をゆっくりと手に取る。
そう、孤独に押し潰されて魂を歪めるのであれば、孤独でなければいいということだ。
ならばこれを。
これを。
いや、違う、何も孤独にまみれて魔物になるばかりではなく、そもそも人間の心は無限の命に適応できてやしないのだろうし、冥王の誘惑を何千年も受け続けるから、とかいろいろな要因もあるはずだ。
だから誰かがいるという理由だけでは僕の魔物化が食い止められるかわからないし、大体僕が
そう頭の中で議論を戦わていても僕は碧月涙を懐に収めるのをためらわなかった。
僕はもう何も考えられなくなり、その後とるべき道の
玉座の間を見つける。
長らく手入れされておらず、闇の軍勢によって穢されてしまった玉座には、かつてはドワーフ王の六人のうちの一人がこの玉座に鎮座していたのだ。
右手の壁がぼんやりと光り始める。驚いて目を凝らすとそれは間違いなく
僕は水袋の水をかけると、案の定水盤が出来た。そして場所は、やはり
僕は何も考えず衝動的に碧月涙を手にした。
それをそのまま水盤に突っ込む。
僕の手は「向こう側」に突き出され、そこで僕は手を放した。
碧月涙が地面に落ちる音がすると僕は手を引っこ抜き、走ってなぜか誰もいない屋上へ出た。三つの月を眺めながら僕は動悸が止まらなかった。夜風に吹かれ、全身が凍えるほど汗が冷たい。
これがどのような結末をもたらすのか僕には全く見当がつかなかった。
これで僕は遥香にあえるようになるんだろうか。
それとももっと悪いことを引き起こしてしまうのだろうか。
僕は微かに震えながら二つの月を見上げていた。
◆次回
銀と緑の蠱惑(こわく)。碧月涙(エディルナ)――
2020年11月4日 21:30 公開予定
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