胸を刺す逢えぬ苦しみ、誘(いざな)いの予感――

 その夜るっちがLIMEで謝ってきた。


 ごめんね。でもみんな心配してるから。はるはるずっと変だったんだもん。何かあったら何でもいいから言ってね。って。


 ごめん。


 ありがとう。


 でも何も言えない。


 だって、みんなからすっかり忘れられている人が異世界に行ってて、死ぬ思いしているのが辛いんだ。


 なんて言ったら頭おかしいって思われるだけだし。


 だから、ありがとう。でもなんにもないよ。心配いらないからね、って返すしかなかった。


 それから何となく私たちは私たちは少し気まずくなった。


 三人は私を探しに図書館に来ることはなくなったし、私の方からみんなに連絡を取ることはしなくなった。


 静まり返った図書館にある学習室。いつもの私にしては信じられないほどのペースで宿題は進んでいる。私は英語の問題集の最後のページを片付けながら思った。あと一週間で夏休みも終わる、って。奏汰かなたがいないまま夏休みが終わる、って。

 いや、夏休みどころじゃないかも知れない。冬休みになって年が改まっても、春休みになって学年が変わっても、奏汰は帰って来ないかも知れない。

 いや、多分帰って来ない。


 そう思ったら胃が重たくなるような嫌な気分になった。


 気晴らしにレオナルディでジンジャーエールを買って河原に行く。


 最近の雨で増水している河に向かって石を投げる。


 練習の成果もあってか、かなり水切りが上手くなった。


 奏汰に見せてやりたい。


 河原で一緒にいたい。

 一緒に水切りしたい。

 ジンジャーエール飲んでどうでもいい話をして楽しくしたい。


 逢いたい。


「くそっ」


 石を投げる。ぴぴぴっ、と石は河の上を三回跳ねる。


「なんでっ」


 石を拾ってはまた投げる。今度は四回。


「なんでかなすけがさっ!」


 石はどぼっと音を立てて沈む。


「なんで奏汰だけ遠くに行っちゃうのさっ!」


 今度はゆるやかに左に曲がりながら六回も跳ねてはとぷん、と音を立てて沈む。


「なんで……」


「帰って来てよ……」


 いつの間にか私は泣いていた。みっともないくらい泣きながら、やみくもに石を投げていた。

 胸の奥が苦しい。人に逢えないって、それだけでこんなにも苦しいのか。



 その瞬間何か考えが浮かんだ。閃いた。


 紅蓮こうれん神社の神籬ひもろぎに行こう。いや、行かなくちゃ!


 何かある。あそこで、あそこに何かがある!


 私はジンジャーエールの半分残ったプラカップを自転車の荷台に放ると、自転車に跨って全速力で走りだした。


◆次回

 禍(まが)き輝きを憎悪すれど、誘いの声止む事なし――

 2020年11月3日 21:30 公開予定

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