ともがら大いに疑い誘う、花火の夜――

 夏休みも終わりに近づいた頃、宿題の仕上げにかかって図書館で勉強をしていた。珍しく一心不乱に。静かな図書館で勉強に集中していると、色々忘れる事が出来る。異世界のこととか、奏汰かなたのこととか。

 なんてことはないただの現実逃避なんだ。でも自分じゃどうにもできない以上、そのことを忘れようとする以外、私にできることなんてないじゃんか。その上忘れることなんでできそうもない。頭の中で異世界ベルエルシヴァールと奏汰のことがぐるぐる駆け回っていた。あまりにも邪魔くさくて、叫んで頭の中から追い出してしまいたいくらい。でもさすがにここでそんな事したら周り中の人から白い目で見られることは必定。なのでぐっと堪える。


 夕方も五時過ぎたので帰ろうとする。


 図書館の駐輪場には意外なのがいた。

 たけやん、るっち、さご


 何してるのか問うと、私を待ってたって。そりゃそうか。


 七時から河原で花火大会があるからみんなで一緒に行こうかって話らしい。


 今までずっと疎遠にしてたからそれくらいならいいかって、ついて行った。


 ちゃんとるっちが場所取りまでしてあって、さごが夜店でいろいろ買ってきてくれてた。私はさごが買って来てくれたラムネをちびちび舐めながら、花火が上がるのを待つことにする。


 私の前にはるっち、右隣にはたけやん、左にはさごが座っていた。


 花火が上がり始めると周りからは歓声が上がった。


 来年の2020年になったら私たちも受験だからもう花火なんて見てられないよな。なんて話していると一瞬奏汰のことを忘れてた。


 わいわいと花火が上がるのを眺めていたら、たけやんが小声で私に訊いてきた。なんか悩み事とかあんのか、って。あの桶狭間のこととか関係あるのか、って。


 くっそ、はめられたわ。そう思ってるっちとさごを見てみると、暗がりの中でもこっちに聞き耳を立てているのは丸わかりだった。


 だからこうしてすぐに逃げられないような布陣を敷いたんだな。策士め。こういう時は悪知恵が働く。


 私は、実はね、なんて言うふりをしたところで目の前のるっちの背中を跳び箱のようにしてぽーんと飛んだ。前の人たちとぶつかりそうになったけど謝りながら人ごみの中にまぎれた。ふふ、小中って体操やってたのを忘れてたな。


 私は振り返ると大きな声でやなこった!と叫んでから人ごみの中に消えていった。心臓がバクバクする。


 花火も見ていたかったけど、またあいつらに捕まるかも知れないと思ったら、あまり楽しい気分になれそうもないので諦めた。かわりに紅蓮神社の神籬まで走って行った。自転車置き場にはあいつらがいるかも知れないものね。


 花火の音が聞こえて、時々少し明るくなるそこに行くとやっと少し胸のドキドキが収まった。


 うん。確かにね。確かに私悩んでるよ。


 でも話しても君たちじゃ理解できないじゃんか。


 存在すら忘れ去った友達がいて。


 その友達が異世界で戦っていて、片腕を失う大怪我をして、彼のいるところに行くこともできない。還ってこれるのかもわからない。


 で、私はその彼が好き。


 その彼が異世界で死んじゃうんじゃないか、もう決して戻ってこれないんじゃないか、そう思ったら頭がおかしくなりそう。


 受験どころじゃないよ。


 なぜか持って来ていたラムネを口にする。


 ああもう、この味じゃだめなんだ。


◆次回

 アレンダの会戦、一騎打ち――

 2020年11月1日 21:30 公開予定

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