異な世より稀人来る(いなよよりまれびときたる)、見知らぬ影――
僕は懸命に走る。切断した右腕の痛みなんか忘れて。
来る。誰か来る。理由は分からないけど、とにかくこのペンダント――
見晴らしのいい丘に向かおうと森を出る。月明かりに
森を抜けるとなだらかな丘。そしてその丘の頂上には――
あれは!
野営時の偵察ではあんなものなんてなかったのにどうして。とにかく一目散にそこへ向かって走る。
やっぱり誰かが来るんだろうか。とにかく何かが起きようとしている。間違いない。
もしまた誰かここに呼びよせられるのであれば、それは防がないといけない。死ぬ事もできずにひたすら苦痛を塗り重ねるだけの生を送らせたくない。そんなのは僕一人で充分だ。還れるかも定かでないのに。
やっぱり! ここの神様ってどんだけ僕たち異世界の人に横暴なんだよ!
煌々とした二つの月に照らされているのにその人影は黒々としてその姿がよく分からない。もう十メートル近くまで近づいたがやはり影がそのまま立ち尽くしているような姿は変わらない。
ただ暗い影ではなく…… そうだ、凪いだ湖面がそのままこの影を覆っているような、そんな姿。その影を覆う湖面は満天の星影を映し心地よい風に小さなさざ波が立つ。だけどこの影が水でできているわけではないのも判る。
だけど、なんか引っかかる。僕と同じ年頃の女性、背格好、髪の感じ、誰かに、似ている…… 誰かに。
誰だ? 誰だったかな。
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