こんこんちきと林檎飴

うるう

こんこんちきと林檎飴

 一旦客足が途絶えたところで、徐々に暮れだした空を仰ぎ見る。稲荷神社の夏祭りに店を出すのも四度目だ。

 今年もあの娘は来るだろうか?

 毎年お客として現れる朝顔柄の浴衣を着た女の子。見た目は二十歳くらいに見えるが、まるで子供のように幸せそうに林檎飴を食べる。その姿がとても可愛くて、今日も密かに楽しみにしていた。


 お、噂をすればなんとやら。見覚えのある浴衣姿でこちらに向かってくる女の子を見つけた。同時にその隣にいる人影に気がついて、俺は目を見開いた。彼女は紺色の甚兵衛を着た小さな男の子と手を繋いでいる。

 店の前までやってきて立ち止まった彼女と男の子を交互に見やる。

「子供が、生まれたのか?」

 彼女は答える代わりににこりと笑って、人差し指を立てた。「ひとつくださいな」という意味だと気付いた俺は、平静を装いながら小銭を受け取り、林檎飴を手渡した。彼女は一口も舐めることはせず、そのまま隣の男の子に持たせる。

「あんたはいいのかい?」と聞くと、彼女はこくりと頷いた。あの笑顔を見られないのか、と少し残念に思う。

 しかし今日は男の子の方からこぼれんばかりの笑みを貰えた。一口舐める度にうっとりとした表情を浮かべている。

 林檎飴は男の子の小さな顔のほとんどを覆い隠し、まるでお面をつけているかのように見える。これはとても一人では食べ切れまい。男の子が残したものをあとで彼女が食べるのだろう。


 目的を遂げて去ろうとした二人の後ろ姿を見て、俺は慌てて彼女に言った。

「見えてるぞ」

 男の子の尻には筆先の形をした黄色いしっぽが揺れている。彼女がハッとして男の子の尻を軽くぽんと叩くと、しっぽは途端に消えてしまった。

 ぺこりとお辞儀をして人混みに消えていく二人。そういえば四年前に初めて林檎飴を食べに来た彼女も、感動のあまりしっぽが出てしまったんだっけ。

「親子だなぁ」と笑いながら、来年は小さいサイズの林檎飴も用意しようと考えた。二つ並んだ笑顔を見られるに違いない。

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こんこんちきと林檎飴 うるう @uruu_n

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