31 ワタシってばお荷物


 いつの間にかとんでもない重荷がワタシの肩にかかってる。

 こんなのっておかしいよ。ワタシは誰かに背負ってもらうために異世界ここまで来たのに、逆にワタシが背負うことになるなんて……。


 これもあのショタ神様の導きか……絶対楽しんでるでしょ!?


 脳裏に浮かんできたあの耳障りな笑い声に威嚇を返してたら、ノノイさんに睨まれた。


「頼んだわよ!」


 凄く強い視線を送ってくるけど、強制するとかそういう感じでもない。あくまでもワタシが自分の意思でそう動くことを信じてるって目をしてた。


「……ぅうう! わ、分かりましたよ! こうなったらヤケだ。やってやる! でも、どんなことになっても知りませんよ!」


 破れかぶれに叫んで、四つん這いで地面を踏みしめた。

 意識した訳じゃなくて、自然と体がこの態勢を取っていた。きっと理性じゃなくて本能の部分で、これが最善だって察知していた。


 ワタシの言葉を待っていたように、さっきからねっちこい話し方をしているリーダーっぽい奴が一歩前に出た。


「相談は終わりましたか? まぁ、どれだけ策を練ろうとも無駄ですよ。君たちが逃げおおせることはない。なぜならこの街の住民のほとんどが我々の味方。正義は我々にあるんですよ」


 大仰な身振り手振りをしながら歩を進める姿は、まるで芝居か何かだ。


 胡散臭くて鼻が曲がりそう。でも、なんだかんだこっちの話が終わるまで待ってくれていたみたいだし、もしかしたらいい人かもしれない……いや、ないか。


 というか、この人。リィルさんと一緒に壇上にいた人だ、今気づいたわ。

 確か……バハートとか呼ばれてたな。


 なんか話し方にネバついた感じの性根が現れてるよね……しつこい人は嫌われますよ?


 生理的に無理な感じが全身から溢れていて、思わずジリッと後退る。

 ノノイさんも同じみたいで、嫌悪感を隠そうともしないで盛大に顔を歪めながら毒を吐いた。


「その臭い口を閉じなさい、誘拐犯。アンタらがやってること知らないとでも?」

「ふふふ、人聞きも悪ければ口も悪い。やはり混ざりモノは品がなくていけませんね。我々が行ってるのは善意の保護ですよ。

 貴女方が監禁している子供たちに、救いの手を差し伸べているのです。我々はたとえ混ざりモノでも子供なら差別しないのでね」

「種は割れてんのよ。アンタは自分の言操魔法を他人経由で使ってる、まるで感染病ね。お似合いの魔法だわ。だけどその分だけ洗脳の力は弱いわね。だからこの街で信頼を得てるリィルをわざわざ使って説得力の補強をしてる。違うかしら?」


 小馬鹿にしたように首を傾げたノノイさんに、バハートから不穏な気配が流れてくる。空気がヒリついてきたのに、尻尾がピンッと張りつめた。


「小娘が……まぁ、いいでしょう。貴女たちに打つ手がないのは変わりない。丁寧にじっくりといたぶって差し上げますよ」

「ハッ! 獲物を前に舌なめずりするのは三流の素人よ。そして、淑女を前に舌を見せて涎を垂らす男は三下のクズ野郎。覚えておきなさい」

「……もういい。これ以上の問答は不要だ。やれ」


 ザッと統率の取れた動きで包囲が狭まってくる。


 もう勝った気でいるのか、あのバハートとかいう奴はフードの下から嫌らしい笑みを覗かせながら高みの見物を決め込んでいた。


 ワタシは背中合わせで身動きが取れない二人の足元で震えながら、突破するための一瞬の隙を見逃さないように神経を研ぎ澄ませた。


 手を伸ばせばもう手が届きそうなくらい相手との距離が縮まったその時、ニヤッと口角を吊り上げたノノイさんが何かを呟いた。


 ――瞬間、視界のすべてが白に染まった。


「あ゛ぁあああ!?」


 汚い悲鳴が響く。


 あまりにも急で、何が起こったのか分からなかった。

 思考まで白く染まって、時間が止まったみたいに体が動かない。

 固まったワタシは、誰かがひょいと持ち上げてきたのにも抵抗できず、そのまま運ばれるしかなかった。


「お生憎様! 時間稼ぎは終わってんのよ!」


 してやったりと言うような喜色に満ちたノノイさんの声が頭の側で響いた。

 急激に目が眩んだせいなのか、匂いとか音まで判然としなくて、ワタシを運んでるのがノノイさんなのかシュルカさんなのかも分からなかった。


「おのれ、混ざりモノ風情がぁ!」

「んなッ!?」


 バハートの怒号が響く。

 それに合わせてノノイさんの驚きに染まった声が聞こえてきた。


 ガクッと急ブレーキをかけたみたいに体がつんのめるを感じる。

 お腹に回された誰かの手に力がこもった。


「クソッ、まさか魔動人形まで」

「ヤバいッス、ノノイさん。用意してある罠は全部、対人族のッス」

「分かってるわよ! あと少し、あと一歩だってのに!」


 悔しげに歯噛みする音が聞こえてきた。

 ようやく視力が戻ってきて、霞む目を仕切りに擦りながら顔を上げた。


 ――なんということでしょう。


 あれだけ薄暗くかび臭かったワンルームが、陽の光が燦々と降り注ぐ開放的な廃墟に様変わり。これならたくさんの友人を呼んで和やかな雰囲気で語らうことも……できてないな。


 押し潰すんじゃないかってくらい乱暴に目を押さえたバハートが、凄い形相でワタシたちを睨んできた。


「やってくれましたね、この代償は高くつきますよ! ……しかし、奇跡は二度続きません。これが混ざりモノと純粋な人たる徒人の差というものですよ」


 目一杯の悪役ムーブをかましてくれてるけど、涙でぐずぐずに崩れちゃった顔をしてるせいで、なんだか可哀想な感じにしか見えないな。


 ノノイさんもそんな彼に応えるように、精一杯小馬鹿にした顔で小さな体を思いっ切り反らし、高いところから見下してみせた。


「ハッ! 今のが奇跡? 冗談はその声に染みついた腐臭だけにしなさい。

 今のは準備を重ねて引き寄せた必然よ。ワタシがアンタみたいに準備を疎かにするわけないでしょ」

「フンッ、なんとでも吠えなさい。どんな策を巡らし、準備を整えようと、所詮は穴住まいの蛮族。この最新式の魔動人形の前ではすべて無駄なんですよ!」


 バハートを守るように人形が一歩前に進みでてくる。風にあおられてフードが捲れ上がる、機械的な光沢を放つボディが見せつけるみたいにあらわになった。




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