23 異世界よ、ワタシは帰ってきた!


 ※ お待たせ致しました。連載を再開します! ※



      §      §      §



 開いた口が塞がらないって、こういうことを言うんだな……。


 まだ時間が早いのか、薄く白い朝靄が漂う路地裏で座り込んだままアーセムを見上げた。


 ちょっとヒンヤリした空気が心にまで染みてくるみたいだ……。


「……許せねぇよなぁ、許せねぇよ。こんなの……幼女を何だと思ってるんだぁ!」


 リスポーンが死地からとか、あの神様絶対分かってて楽しんでやがるッ!


 地面を小さな握りこぶしで叩いた。


 ぽすって擬音がつきそう打撃音だ……自分の非力さに殴られるとはね。

 でもいつか、この拳をあの自称神様のショタっ子の左頬にぶち込んでやる。


「はぁ~……でも、まずはこの状況をどうするかだよねぇ」


 愚痴ってもしょうがない。もう一回、上を向いて考えを巡らせる。


 こっちの世界の時間の進みがどうなってるのか知らないけど、地球と同じだと仮定すれば一週間まるまる過ぎてる。


 それだけの時間があればリィルさんもさすがに落ち着いてるだろう。

 でも、仮に今は大人しくなっていたとしても、もう一度会っても大丈夫って保証はない。


「あ゛あ~、どうしよっかなぁ!」


 正直言って不安と恐怖しかない。


 また追いかけ回されたら? 赤ちゃんプレイを諦めていなかったら?

 今度こそ遊びもなしに拉致監禁からの強制おむつを発動されたら、ワタシに抗う術がない。


 そうなったら異世界での生活を満喫するどころじゃなくなってしまう。


「やっぱり他の人を探すしかないかなぁ……」


 それにしたってワタシには元手もなければ、この世界の知識もない。


 リィルさんの様子からするとワタシの能力はかなり強力な気がする。

 でも、発動する条件の『萌え』が何を基準に判定されてるのか分からないし、発動を確認することもできない。


 もしワタシの能力にかかった相手は、みんなキチガイになるとしたら詰んでるんだけど……さすがにそれはないって信じたい。


 もしくは、この世界の人たちはみんな元からイカれてるとかって可能性も……。


「やめやめぇ! たればで考えても仕方ないし、今から暗くなってもしょうがないだろ!」


 そうだ、ポジティブにいこう。


 あれはリィルさんだから起こってしまった悲しい事件だったんだ。


 うん、間違いない。


 これから出会う人はみんな心優しくて、性根のまっすぐな善人しかない。


 当たり前だよなぁ?

 うん、間違いない!


 そうと決まれば新しい候補を考えよう。

 リィルさんは手に職の人だった。なら、今度は逆の方に力を持った人にしよう!


「やっぱ、お金よりも権力だよね! 自営業の人はとんでもなく忙しいって聞くし、仕事が失敗したらワタシを養うこともできなくなるもんね」


 食い潰すみたいなことはしたくないし、何より非効率だ。


 その点、貴族とかの権力者ならよっぽどのことがなければ潰れたりしないだろ。


 よくラノベなんかで没落がどうのって話を見るけど、そんな簡単に潰れてたら大変だ。


 上も下も混乱するどころの話じゃない。

 そんなことになる前に、さらに上の権力者からテコ入れがあるのが普通だろう。


 だからこそ貴族制とかの階級制度っていうのは長く続いてきたんだ。


 阿呆みたいな重税とか、重度の飢餓みたいなことがなければ、平民の人たちがわざわざ命を賭けて一揆みたいなことする理由がないんだよなぁ。


「ヨシ! 方針は決まったし、とりあえず移動しよう」


 立ち上がって服についた汚れをパンパンと手で払った。


「あっ、この服……」


 黒地に銀の花の刺繍が目に入って、チクッとちょっとだけ胸が痛んだ。


「……ごめんさない。ワタシ……これからはこの服をリィルさんだと思って、新しい寄生先、じゃなくて優しい人に精一杯甘えるよ!」


 自分を抱きしめるみたいに腕を回して、服を一緒にギュッと抱きしめた。


 ワタシ、たくさんの人に支えられて生きてるんだ……イイ話だなぁッ!


「さて。別れも済んだし、行くか」


 こんな幼女が路地裏に一人でいたら、何されるか分からないからな。さっさとこんな危ない場所からは離れるに限る。


 小さくなった歩幅を駆使して、急ぎ足でその場を離れた。


 ぽてぽてと頼りない足音をさせながらきっと大通りに繋がってる、少しでも明るい道を選んで歩く。


 方向があってるのか不安になってきたとき、街の喧騒がにわかに聞こえてきた。


「良かったぁ、なんとか人がいる場所に出れそう」


 少しずつ明るくなっていく視界に、足取りも軽くなっていく。


 視界の先、路地裏の終わり。そこだけ白く切り抜いたみたいに光が溢れてる。

 それはまるで、ワタシのこれからを暗示しているような光景だった。


 そうだよ、ワタシはこれから『ヒモ』として、悠々自適になんの不自由もなく養われて生きていくんだ!


 未来は希望に満ち溢れてる。そう確信して、白く染まっていく視界の中で満面の笑みを浮かべた。


 ――あと五メートル……三メートル……一メートル!


 さあ、やり直そう。ここから始めるんだ。一から……いいや、ゼ、


「我々はアーセリアの非道を許さないッ!!!」


 未来に向けて踏みだそうとしてた足がピタッと止まった。




      ☆      ☆      ☆




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