閑話 再びの異世界



 ――異世界。



 このワードを耳にしたオタク諸君の大半は全身を駆け抜ける、痺れるような陶酔感に脳髄まで浸りきって、夢を見ずにはいられないはずだ。


 地球では伝説の中だけで語られる幻想的な生物、見たことも聞いたこともない食材の数々、冒険の末に目の前に広がる秘境の絶景。


 誰からも慕われる勇者も、秘めたる力を解放せし孤高の戦士も、可愛い娘を侍らせるハーレム王も。すべてはオタクどもが夢見た憧れの残滓だろう。



 ――そう、夢なんだ。



 夢だから、憧れるだけだから、好き勝手に妄想できるんだ。


 間違っても、仕事の失敗を取り戻す為の休日出勤をなんとか終えた土曜の夜に、ようやく辿り着いたベッドへ倒れ込むように眠ってしまったら、いつの間にか五〇〇〇〇メートル級の巨樹を前に流麗な噴水の縁に腰かけているような、そんなことがあってはならない。


 それはすでに夢じゃあなくて、ただの現実だ。


 なぜこんな話を頭の中で繰り広げているかと言えば、察しのいい諸君なら何も言わずとも、下卑た笑みでサムズアップをして見せてくれることだろう。


 そう。つまり何が言いたいかというとだ……、




 ――クーリングオフって効きませんかね?




      ☆      ☆      ☆


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