第175話 勇者 vs ガーディアン ゲーマーの妙技
【同時プレイ】……異なる二つのゲームを、ひとりのプレイヤーが同時に遊ぶ一種の制限プレイである。
基本はモニターを二画面用意し、別々のゲームを同時進行する行為であり、主にRPGなどの瞬間的な判断を必要としないゲームをする際に用いられるプレイ方法である。
恐竜を集めて戦わせる大人気ゲーム、ポケットザウラーが発売になった際、とあるプレイヤー達の同時プレイが話題になった時期がある。
このゲーム最初にパートナーとなる三種の恐竜の中から、一匹を選んでゲームが始まるのだが……これがプレイヤーたちを悩ませた!
最初に選べてもらえる恐竜はゲーム中には登場せず、最初のチュートリアル以外で仲間にする方法がなかったからだった。この問題が数々のプレイヤーを大いに悩ませた。
そしてそれに拍車を掛けるように、プレイヤー達を悩ませたのが……ゲームがサファイヤとルビーという異なる
青い宝石サファイアと、赤い宝石ルビー……この対照的な色合いの宝石は色こそ違えど宝石の種類としては、コランダムと呼ばれる同じ鉱石であり、異なる不純物が混ざることで色合いが変わるのである。
それにちなんで、このゲームの『ゲッツ!』できる恐竜の種類はそれぞれで異なり……全ての恐竜を収集しコンプリートするには、最低二本のゲームソフトとゲームを最低六回クリアーしなければならないのだ……まさに修羅の道である。
そんな修羅道を選んだプレイヤーの中には、二画面同時プレイでプレイ時間短縮を挑む者も少なくなく、六画面同時に挑む変態的プレイに走る猛者まで現れた。
神に挑むが如き妙技『同時プレイ』……だが悲しいことに、この同時プレイに挑んだ者の大半が、『言うは
同時プレイを始めた当初は序盤の導入部という事もあり、スムーズにストーリーが進むが、中盤以降のシステムの複雑さと膨大な情報量に頭が混乱し、ゲーム半ばで投げ出す者が続出したのだ。
結局の所、人間の限界を超えた同時プレイで最後までクリアーに成功したものは、数えるほどしか存在しなかった。
神プレイヤーと呼ばれた者でさえ、アクションゲームの二画面同時プレイまでが限界とされていたのだが……何事にも例外はある。
かつてインターネットの動画サイトにある同時プレイ動画がアップロードされたことがあった。
そのプレイ動画を見た視聴者は、
その理由は……ゲーム史上、最高難易度と言われた
しかも全ステージをノーミスクリアーしたばかりか、一周目より難易度の上がる、二周目までクリアーしていたのである。
人の限界を超えたプレイに、大半の者は『どうせコンピューターの自動プレイを、さも自分でクリアーしたように見せかけたものだろう?』と、信じることができず、ウソ動画のレッテルを貼って否定してしまった。
結果、再生数はそこまで伸びず、数多い投稿動画の海へと沈んでいった。いつしかそのプレイ動画は人々の記憶からも消え去り、同時にそのプレイ動画に記載された投稿者の名前もまた忘れ去られていった……その動画の投稿者『ゲーム鬼』の名前を覚えている者は少ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「右目と左目の見える世界を、ゲーム画面に置き換えればいいだけの話だ」
「げーむ画面? なんか分からないが解決方法が見つかったのか?」
「ああ、とりあえず試してみる」
すると、顔に張り付いていた羽根をついに全て剥がし終えたガーディアンが周りを見回し、ヒロの姿を見つけるなり、再び警棒を振り上げて襲い掛かってきた!
「ラプラス!」
ヒロが頭のスイッチを入れる要領でラプラスの魔眼を発動する。
再び右目に薄い透き通る世界が映り、ヒロに数秒先の未来を
(片一方に意識を集中するな。
ヒロはリーシアが好んで使っていた構えを真似てガーディアンを迎え撃つ。それは攻守どちらにでも瞬時に移行できる、腰を落とし重心を低くした覇神六王流独特の構えだった。
「ヒロ、来るぞ!」
右目に宿るラプラスの魔眼が、ヒロに数秒先の世界を
(ギリギリまで動くな。僕の動きを見て未来が変わる可能性がある……未来が確定し、やり直しが効かないタイミングを狙うんだ)
ガーディアンが獲物を狙う獰猛なドーベルマンのように大地を疾走する。
「侵入者は
「気殺刃!」
ヒロの声と共に、ガーディアンの足元に殺気が生まれ打ち込まれる。
およそ人の心など無いであろうガーディアンが、急に足元に沸いた殺気に反応して宙を跳ぶ。
足元へ迫る攻撃をジャンプで回避したガーディアンは、その勢いのままヒロに向かって警棒を振り下ろしていた。おまけとばかりに、警棒を持つ腰から伸びる隠し腕もまた、下から斬り上げる軌道でヒロに襲い掛かる。
当たれば即
だが……それを見たヒロの口元を吊り上がっていた。
「空中なら、もう大きく未来は変えられないぞ!」
ヒロがタイミングを計り、頭を下げながら姿勢を低くすると足を一歩前へ踏み出す。
狙うはガーディアンの隠し腕……下から斬り上げる攻撃のタイミングに合わせて、ヒロが警棒ではなくマニュピュレーターに向かって左腕の前腕を叩きつける。
隠し腕からの攻撃を止めたヒロの前腕が、ガーディアンの
関節部分に前腕が到達すると、ヒロは空いた右手で隠し腕を下から押し上げる。
警棒を持った腕が勢いよく肘の稼働範囲に沿って動き、隠し腕が持った警棒の先がガーディアンの体に向けられると……すかさず、ヒロがマニュピュレーターの肘を押し上げた!
慣性の法則に逆らえず、ヒロに跳び掛かるガーディアの胸に警棒が突き刺さり、バランスを崩したガーディアンは顔から地面に激突し、地面へ仰向けになって倒れ伏してしまった。
ガーディアンを警戒するヒロが、残心を忘れず距離を取ると再び構えを取る。無論、ラプラスの魔眼は発動したまま様子をうかがう。
横たわるガーディアンの胸には、警棒が突き刺さり火花を散らしている……腰の隠し腕は折れ曲がり破壊されていた。
ピクリとも動かないガーディアンをヒロが警戒していると、頭の上にいたエルビスが拍手喝采を上げていた。
「ヒロ、ナイスだ! さっきの技、何だ? 殺気を飛ばしたのか?」
「気殺刃だ。殺気を飛ばして相手の注意を引くだけのフェイント技だ」
「へ〜、人にしては、なかなか面白い技だな」
感心するエルビスを
「それよりも警棒に触れれば即
「ああ……毒蛇が自分自身の毒で死ぬと思うか?」
「自分の毒に対して免疫をもっているから死なないだろうな……」
エルビスの質問に、イヤな予感を覚えるヒロ……すると予想通りガーディアンがピョンと腕の力だけで体を跳ね上げ、生き物では到底ありえない動きで立ち上がると再び警棒を構える。
「そういう事だ! アイツを止めるなら、動かなくなるまで攻撃するしかないぞ」
「仕方ない! リーシア、技を借りる!」
「ガンバレ〜」
エルビスがヒロの頭の上で寝そべり、翼を振り声援をあげていた。
「侵入者は消去する!」
隠し腕を破壊されたガーディアンは、胸に警棒を突き刺したままヒロに向かって、もう一本の警棒振り上げた時、ラプラスの魔眼が数秒先の未来を視せる。
ダメージを受けた事で先ほどよりも精細を欠き、動きの鈍いガーディアンの姿が右目に映る。
「Bダッシュ!」
震脚を踏み姿をかき消したヒロは、一気にガーディアンの懐へと飛び込む。
ガーディアンの振り上げた警棒が、ヒロと頭の上に寝そべるエルビスごと消去しようと振り下ろされる……だが、未来視により全ての攻撃を見切ったヒロは、難なく攻撃を横に
ステップを踏み、ガーディアンの横に躍り出たヒロは、腰に溜めていた右拳をブーメランのように打ち出すと、拳が脇腹に突き刺さりボディーにヒビを入れる。
気を溜めた強烈な一撃が、ガーディアンの体をくの字に折り曲げる。
間髪を容れずヒロが頭を下げダッキングすると、
顔を元の位置に戻し、ヒロの位置を確認しようとしたガーディアン……だが、すでにヒロの頭は8の字を横にした軌道を大きく描き、ローリングしながら拳を打ち出していた。
ガーディアンの右頬に炸裂する右拳……そして振り抜いた反動と勢いを8の字の軌道が余すことなく次の攻撃へとつなげる。
再び反対の左頬に炸裂する左拳……終わることのないエンドレスな左右の連打が何十発とガーディアンに叩き込まれる!
「し……侵入……者……」
完全に機能停止一歩手前のガーディアン……その声を聞いたヒロが頭のローリングを止めると、気を体内で循環させ拳に再び気を溜める。
そして固く握り込んだ右手の拳と腕を、限界まで捻りながら構える。
「おまえはここでゲームオーバーだ!」
ヒロが震脚を踏みながら、回転を加え破壊力が増した拳を憤怒の顔へと打ち出した。
腕の捻りより加えられた回転が右ストレートにさらなる破壊力を生み出す。
顔面に拳がインパクトした瞬間、手首の捻りと共に拳に宿していた気が爆発し、ガーディアンの顔に必殺のコークスクリューブローが炸裂した!
体内に流れ込んだ気が暗勁として体内で爆発し、コークスクリューブローの破壊力が顔を粉砕すると、打ち抜いた拳がガーディアンの頭を真後ろへと殴り飛ばす!
「Bダッシュ!」
宙を舞う頭……ヒロがすかさずバックステップで素早く後ろに交代すると、ガーディアンの体から火花が散りいきなり大爆発が起こった。
巻き起こる爆炎と鳴り響く爆音! 爆発の余波が大気を震わせ風を巻き起こす。
【レベルが上がりました】
【スキル『ラプラスの魔眼』を獲得しました】
【スキル『ハイパースレッディング』を獲得しました】
ヒロの頭の中でシステム音声が流れ、ガーディアンを倒したことを伝えてくれる。
「アチチチッ! ヒロ、もうちょい早く逃げてくれ。オレの羽根が焦げたぞ」
翼をバタバタしてエルビスが火を消し去る。
「そんなとこにいるからだろ。それよりこれでガーディアンは
「バッチシだな。しかしS領域に来れるから、只者じゃないとは思っていたが、只の人間が本当にガーディアンに勝っちゃうなんて……ヒロ、おまえスゲーな! って、おい、大丈夫か?」
ヒロを褒めていたエルビスが、急に胸を手で抑え苦しみ出したヒロに声を上げた。
「グッ! 急に胸が……」
ヒロが急に走った刺すような胸の痛みに、苦悶の表情を浮かべ、痛みに耐えていた。
時間が経つごとに痛みは引いていき……一分が過ぎようした時、どうにか痛みが収まったヒロは掻いた汗を拭きながら、大きく息を吐いていた。
「ふう〜、一体いまのは? いきなり胸に痛みが走ったんだが……」
「痛みが? おかしいな……ガーディアンの攻撃が当たったようには見えなかったが……あっ!」
エルビスが何かを思い出したかのような表情を浮かべ、翼をポンと叩く。
「なんだ? 何か思い当たる節でもあるのか?」
肩に乗るエルビスに、ヒロは怪訝な顔を向ける。
「あ〜……多分【ラプラスの魔眼】のせいかも」
「はあ? ステータスオープン!」
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ラプラスの魔眼 LV 1 New
ハイパースレッディング New
所ュスキ縲 螂ウ逾の絆 LV2
女神の?逾晉ヲ 縲呪い縺??銑V 10
霄ォ菴操作 LV 5
剣」陦 LV 4
投擲憧陦 LV 3
豌鈴?察知 LV 3
空間髢?捺 LV 3
隕句?り LV 3
回樣∩ LV 3
「な⁈ なんだこれは? 新しく覚えたスキル以外のステータスがバグッてる?」
「ん〜どうした?」
「僕のステータスが明らかにおかしい! 文字化けだらけなんだが……」
「どれどれ……うっわ! 何をどうすれば、こんな意味不明なステータスになるんだ?」
「まさか、ブレイブチェンジの影響か? ステータス書き換え途中でダメージを負ったから? まさかパソコンじゃあるまいし……直るのかコレ?」
「勇者をしてるくらいなら、バックアップはされているだろうし、そのうち元に戻るだろ。まあオレとしてはこっちの方が面白そうだけどなクックックックッ! それよりも、ラプラスの魔眼の説明を見てみろよ」
エルビスの笑う顔を見ながら、いつかコイツを焼き鳥してやると、ヒロは心の中で誓いつつスキル名をタップする。
【ラプラスの魔眼】
災厄の希望と魂レベルでつながる事で、ごく近い未来の出来事を対象者に見せる。
レベル毎に、三秒先の未来が視える。
未来視した映像は確定しておらず、状況の変化により未来は変化する。
この魔眼を使用する代償に、対象者は未来視した時間×100秒の寿命を消費する。
代償は戦闘終了後にまとめて消費される。
【ハイパースレッディング】
異世界のスキル
意識を二つに分ける事で、並列処理にて同時に二つの思考が可能になる。
ただし思考を二つにした分、パフォーマンスも半分になり、情報の処理スピードは落ちる。
「ん〜、これ異世界の文字か? 神代文字に似てるけどまったくで読めないぞ。なんて書いてあるんだ?」
リーシアの時と同じく、エルビスには日本語で表示された文字が読めずヒロ内容を尋ねるが……ヒロは浮かない表情でつぶやく。
「これは……ラプラスの魔眼を使った分だけ、自分の寿命が縮むってことか? 代償を支払った結果がさっきの痛みなのか?」
「寿命が縮む? あ〜、そうか! 俺たちには寿命なんてものがないから気にしてなかったけど、人には寿命があったんだっけ……忘れてた! メンゴメンゴ〜♪」
頭を掻きながらテヘペロするエルビスに、ムッとしたヒロの手が素早くデコピンを打ち出す!
だがそれを察知したエルビスは素早く肩から飛び立ちヒロの手が届かない上空へと逃げ去っていた。
「寿命が縮む代償の話なんか聞いてないぞ!」
「聞かれなかったし、それに緊急事態だったろ? 魔眼の力がなかったらガーディアンにやられてたかもしれないんだぜ? だからそんなに怒るなよ〜」
「たしかにラプラスの魔眼がなかったら、ガーディアンに勝てなかったかもしれないが、一秒ごとに寿命が百秒縮むのか……」
「まあ多用しなければ平気平気♪ 魔眼の代償は寿命が減るだけだし……それに寿命で死ぬとは限らないんだから気にするなよ」
「それ寿命が削られて死ぬより先に、事故や戦いに敗れて死ねから、気にするなって言ってないか?」
ヒロの頭上で旋回していたエルビスがニヤリと笑うと、肩の上に舞い降りる。
「命なんてものは唐突に終わるものさ。不確かな
「騙されている感じがするが、時間が惜しい……いまはそれで納得しておく」
リーシアを救うため、エルビスの言葉にヒロは渋々納得する。
「よしよし。それじゃもう一度、真理の門にアクセスしてメインシステムの中に入るとしよう。今度はオレとヒロの魂がつながっているからアクセスできるはずだ。さあ、懐かしの生まれ故郷にレッツゴー♪」
エルビスが高らかな声と共に翼を振り上げる。
「はあ〜、仕方ない、いくぞ」
ガーディアンと戦うよりエルビスと喋る方が何倍も疲れるなと思いながら、ヒロは真理の門へと歩き出す。
そして一分もしないうちに門の前にまで移動すると、ヒロは自らの手で門の扉に触れる。
【現在、メインシステム内に侵入しようとする存在が確認されているため、システム内へのアクセスはロックされています。侵入者の排除終了までロックは解除できません】
「侵入者の排除終了まで、アクセスロックが解除されない?……おいアホカラス」
ヒロがジト目で、肩の上に座るエルビスに視線を向ける。
「あっれ〜? ガーディアンを倒したのに、まだ解除されないの? 困ったな〜♪」
全く困った素振りも見せず、ヒロの表情を楽しそうに覗くエルビス……次の瞬間、アホドリの体がギュッとヒロの手で掴まれていた!
「やはり。
ストレスMaxのヒロが、エルビスを絞め殺そうと両手に力を入れる。
「待ってくれよ! オイラを殺そうとしても、殺せないからグェェェェッ!」
首を絞められ。白目をむいて泡を吹くエルビス……息が止まったのを確認して真理の門へ再びヒロは手を置く。
【現在、メインシステム内に侵入しようとする存在が確認されたため、システム内へのアクセスはロックされています。侵入者の排除終了までロックは解除できません】
「やはりダメか」
ヒロがエルビスの首に回した手の力を緩めると……。
「ゲホッ! おまえ本気で首を絞めるな! オレじゃなかったら死んだままだぞ!」
「チッ! やっぱり生き返ったか」
エルビスは咳き込みながら息を吹き返し、ヒロに文句を垂れる。
「それにしても困ったな。死んでもアクセスロックが解除されないんじゃ、どうしょうもないぞ」
ヒロがどうしたものかと頭を掻きながら思案する。
「そうなると残る手は、無理やりロックを解除するぐらい……エルビスさっきのシステム画面を出してくれ、メインシステムへの再アクセスを試してみる」
「ん〜、何か考えがあるのか? ほれ」
エルビスが首をさすりながら翼を振ると、再びヒロの目の前にモニターとキーボードが浮かび上がる。
異世界のOSを再びヒロが操作する。手の残像が残るほどの動きでキーボードを叩き、モニターに映し出された文字を高速に読み解いていく。
「この異世界OSが元の世界にあったものをベースにしているなら……きっと製作者が仕込んだバックドアがあるばずだ。そこから中に入り込んでアクセスロックを強制解除できれば……これだ! やっぱりあった!」
【メインシステムへのアクセスロック強制解除命令を受諾しました。確認中……】
「どうだヒロ?」
「いまシステムからメインシステムにアクセスロックの強制解除を試みている。上手くいきそうだ」
「おっ! やっぱりヒロ、お前すげ〜な! システムを使いこなせるなんて、創世神にしかできないはずなのに……」
「創世神?」
「そそ、この世界を作った創世神ヒ【上位アクセス権利者セレスの権限によりメインシステムへのアクセスロックが強制解除されました】おっ、やったな!」
するとヒロの目の前で固く閉ざされていた門の扉が、重い音を立てながらゆっくりと少しずつ開いていく。
開いた扉の中から白い光が溢れ、ヒロ達を照らし出していた。
「よし、これでようやくメインシステムへアクセスできる! あとはメインシステム内にあるリーシアのデータを書き換えるだけだ!」
「行こうぜヒロ! いざ、懐かしの我が故郷へ!」
扉の動く気配が止まると門の中から放つ光のまぶしさにヒロは目を細め、手で光を遮りながら前に足を踏み出す。
エルビスがヒロの肩から飛び立ち、先に門の中へと飛び込んで行く。それに続くようにヒロもまた、まぶしい光を放つ門の中へと足を進める。
一歩進むごとに強まる光……ついに手で遮ぎれないほどの明るさに達した時、ヒロはたまらず目を閉じてしまう。
目を閉じても、なお明るい光! だが、ヒロは止まらない……いや止まれない。リーシアの死の運命を書き換えるため、彼に立ち止まっている暇などなかった。
たとえ光に目がつぶされようが、その足が止まることなどなかった。
そして不意に感じていた光が消え失せ、暗い闇が再びヒロまぶたの裏に戻った。
周りの気配を探り、恐る恐るヒロが目を開くと……。
「なっ⁈ なんだこれは? なんでこの場所が!」
並べられたデスクとパソコン、乱雑に積まれた書類と机に貼られまくるメモ……山のようにゴミ箱からはみ出した栄養ドリンクの空瓶と缶コーヒーの空き缶……ヒロの目に、二度と見ることが叶わぬ懐かしい職場の光景が映し出されていた。
【……メインシステムへの強制接続を確認! エラー!】
〈勇者はついにメインシステムへ辿り着いた! 希望よ少女の命を救え!〉
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