第133話 希望よ……絶望を吹き飛ばせ!
「
牢屋の前に
Eランクパーティー殲滅の刃(弓職×3)のポテト三兄弟と、解体屋ライムの4人がオクタの前に現れ、ようやくペロペロから解放されたオクタは、ニ本の槍を手に様子を見る。
「出し惜しみはなしだ。ジャーマン、フライド、エクストリームアタックでいくぞ!」
「マッシュ兄貴」
「マッシュ兄さん」
長兄のマッシュポテトが二人の顔を見ると、三兄弟はうなずき合いオクタに対して一列に並ぶと、その後にライムが控える。
「
オクタは妙な隊列を組んだ四人に警戒しつつも、槍を片手に一本ずつ持ち、奇妙な構えをとる。
右手の槍は肩越しに穂先を後ろに向け肩に担ぎ、左手の槍は右側の腰付近に手を回し、こちらは穂先をポテト三兄弟の方へ向けていた、
長兄マッシュは構えを取るオクタの姿を見た時、このオークが只者でない事を瞬時に悟っていた。
その理由は二本の槍にあった。
槍とは本来、両手で扱うものであり、二本同時に扱うことはありえない。片手で槍を持てば、その取り回しと槍の重量より、まともに槍を振るうことが困難だからだ。
一本の槍を両手で扱うからこそ、切る・突く・払う・薙ぐ・叩くと言った変幻自在な攻撃を可能としていた。
およそ槍を二本同時に扱う者など、人の世界では武を知らぬ子供が夢想する遊びでしかないのだ。
だが、マッシュは目の前のオークが手にする槍を片手で軽々と扱い、一朝一夕では身に付かない隙のない構え見た時、本能が警告を発するのを感じた。
目の前のオークは普通ではないと……ポテト三兄弟とライムは必要以上の力で、武器を握り直していた。
「いいか? 俺たちの役割はアイツをこの場から引き離して、時間を稼ぐ事だ。死ぬんじゃねーぞ! 行くぞ!」
「「おう!」」
ポテト三兄弟が、オクタに向かって三人同時に走り出す!
槍を構えるオクタは、その場に踏み止まり微動だにしない。
「ちぃっ! 誘いに乗らねえ! スパイラルアロー!」
マッシュが舌打ちをすると、オークの足に向かってスキルを用いて矢を撃ち出す!
【スパイラルアロー】
弓の基本技の一つ
矢に回転を加える事で貫通力を高めた弓技
オクタは打ち込まれたスパイラルアローを避けるため、右方向へと跳躍すると……すかさずマッシュの影から次兄ジャーマンが横に飛び出し矢を打ち出していた!
「この場から離れてもらう。ツインアロー!」
空中にいるオクタは後ろから現れたジャーマンの姿に、口元を吊り上げていた。
【ツインアロー】
弓の高等技
二本同時につがえた矢を狙った箇所へ撃ち込む
着地の瞬間を狙われたオクタは、槍を地面に突き刺し、無理やりに着地のタイミングをズラす!
オクタのすぐ横を矢が通り過ぎ、足元の地面にもう一本の矢が突き刺さる。絶妙なタイミングで撃ち込まれた攻撃を無理やり回避するオクタに、三本目の矢が打ち込まれる。
「後ろに下がってもらうよ! 大技アローレイン!」
【アローレイン】
弓の範囲技
魔力を込めた光の矢が無数に分裂し、広範囲を攻撃する。
オクタの頭上に撃ち込まれた光の矢が山なりに放物線を描いた時、魔力の光が膨れ上がり爆発して無数の光矢がオクタを襲った!
「
オクタはそう叫ぶと後ろにさらに大きく跳躍し、アローレインの攻撃範囲から抜け出していた。
「初見で俺たちのエクストリームアタックを避けるだと⁈」
連続攻撃を避け切ったオクタは、ポテト三兄弟の驚愕した顔を見ながら槍を構え直そうとした時!
「その素晴らしい上腕二頭筋と胸筋を、私に切り裂かせてくれませんか?」
「
突然、真横から聞こえた人族の声と気配に、オクタはギョッとして右手の槍を横に振るっていた!
ポテト三兄弟の攻撃に合わせて、ライムがいつの間にか気配を消しオクタに接近していたのだ。
三兄弟に気を取られていたオクタが咄嗟に振るう槍を掻い潜り、手に持った巨大な肉切り包丁を横薙ぎに剣術スキルを発動しながらライムが振るう!
「パワースラッシュ!」
左右に逃げ場がないオクタは、振るわなかった左手の槍を盾に後ろに跳び下がる!
肉切り包丁と槍がぶつかり合い、大きな金属音を響かせてオクタが後ろに飛ばされてしまう。
「浅い! 渾身の一撃だったのに!」
ライムに吹き飛ばされながらも、見事に着地したオクタが再び両手の槍を構えながら四人を視界に入れて呟く。
「
「スパイラルアロー! 撃ち続けろ! このまま牢屋からあのオークを引き離すぞ!」
「兄貴、こいつまだ遊んでやがる!」
「まずいよ兄さん! このままじゃ!」
「早く解体したいのに! なんでこんなに強いのよ!」
戦いの悦びに沸くオクタは、ポテト三兄弟とライムの猛攻を受けながらも、その技を少しずつ学んでゆく。
少しでも強くなり……最強の男と最高の戦いをするために、オクタは攻撃をひたすら受け学び続ける。
どれくらいの間、攻撃を受け続けただろうか? おそらく時間にして十五分も経っていなかった。
肩で息するポテト三兄弟とライムの四人の前に、オクタが二槍を手に攻め続けていた。
槍の払いと突きを同時に繰り出し、相手の反撃を許さぬ連続攻撃にポテト三兄弟は苦戦を強いられていた。
すでに矢が尽きた三人は、弓槍の持ち手を変えて槍による戦闘に変更を余儀なくされる。
元々ポテト三兄弟の弓は弓槍と呼ばれ、矢が尽きたり接近戦に持ち込まれた緊急時に、槍としても使える。
弓職だが接近戦もこなせるマルチレンジな三人だったが、槍に一日の長があるオクタに
所詮付け焼き刃の槍の腕ではオクタに届かず、ライムが三兄弟をカバーしながらも奮闘していた。
三兄弟が同時に三方向から弓槍を突き出すが、オクタが槍を回転させて払いのけると、空いた槍を横薙ぎして牽制する。
「チッ!」
距離を取ろうと舌打ちをしながら、後ろに引いたマッシュにオクタが追撃するため、腕を引いて力を貯めていた槍を突き出してきた。
咄嗟に弓槍で払おうとした瞬間、オクタの槍の突きが腕の捻りによる回転を加えられ、威力と速度を増大させてマッシュを襲う!
マッシュの弓槍がオクタの槍に触れると、槍の回転に弓槍が巻き取られ破壊されてしまう。
なおも止まらぬ槍の回転と突きがマッシュに迫る!
その時、横から現れたライムの巨大な肉切り包丁が盾となり、マッシュの窮地を救った。
だが……直撃は免れたものの、軌道を逸らした槍の突きは、マッシュのショルダーアーマー部分を掠めただけで防具を吹き飛ばし、マッシュにダメージを与える。
肩から血を流しながらも、ライムと後ろに飛び下がるマッシュ。
スパイラルアローのように槍を回転させ、突きの威力を増大させたオクタの槍術に皆が苦い顔をする。
「マッシュ兄貴! このオーク……戦いながら強くなっているぞ!」
「ジャーマン兄さんそんなバカな話が……たった十数分戦っただけでだよ!」
「い、いや、確かにさっきまでと動きが違いすぎる。コイツは……戦いの中で成長してやがる!」
「確かに私の見せた剣筋が読まれてしまい、攻撃が当たらなくなっています。このオーク普通じゃない!」
「オークは成長が早いのは知っているが、これは異常過ぎるぞ!」
マッシュは肩の痛みに耐えながら、腰から護身用のナイフを取り出し生き残る道を探すが……その道は見つからない。
「
オクタが再び二槍の槍を構えると、ポテト三兄弟とライムは周りが重苦しい空気に包まれたのを確かに感じた。
「
「気をつけてください! 何か仕掛けてきます!」
「言われなくても分かっているさ! マッシュ兄さん!」
「マッシュ兄貴、攻めて攻撃を潰すぞ!」
「クッ、守ったら負ける! 攻めろ!」
四人が一斉に手に持つ武器でオクタに攻撃を加えるが……オクタの槍がボンヤリ光ると同時に横なぎに払われ、槍の一振りでポテト三兄弟が吹き飛ばされていた。
そして残されたもう一方の槍が、回転を伴いながらライム突き出される!
厚みのある巨大な肉斬り包丁を盾に、槍を受けるライムだったがその目が驚愕で見開かれた。
盾としても使用できる肉斬り包丁が、オクタの突きの攻撃にヒビが入り砕け散ってしまったのだ!
槍の穂先は届かなかったが、衝撃で後ろにライムが吹き飛ばされていた。受け身も取れず数メートル後ろの地面を二度三度とバウンドしてようやく動きを止めた。
ポテト三兄弟もそれぞれの武器でオクタの槍を受け止めてはいたが、ありえない威力のなぎ払いにライムと同じく、地に伏していた。
オクタの必殺の一撃に四人の攻撃は届かず、形勢は一気にオクタへと傾いてしまった。
「な、なんだあの威力は? ありえない……三人同時の攻撃を受けて、この威力だと?」
「クッ、まずいです……武器が」
「マッシュ兄さん逃げよう」
「無駄だフライド……奴は俺らを逃す気はねえみたいだ……」
槍を再び構え、またあの重苦しい空気が四人の周りを支配する。
「
オークの戦士にとって、全力の一撃で相手を屠ってこそ、戦い敗れた者への
もはやまともに逃げることもできず、四人は絶望に飲み込まれてしまう。
「
「ちきしょう! すまねえお前達!」
「兄貴!」
「兄さん!」
「ここまででしたか……もっと解体したかったな」
だが、オクタが二槍を同時に突き出そうとした時! オクタの足元の地面が突然爆発した!
いきなり爆発に吹き飛ばされ、宙を舞うオクタ! 吹き飛ばされながらもオクタは見ていた。
槍を突き出そうとした瞬間、足元の地面に突き刺さった……一条の銀光を!
宙を吹き飛ばされながらも、オクタは銀光が飛来した方向に顔を向ける。
「
視線の先に待ち焦がれた者の姿を見たオクタは、空中で姿勢を整え地面に見事に着地する。
爆発によるダメージはなく、すぐさま槍を構えると口元を吊り上げ、顔を綻ばせていた。
「な、な、な、何ですか! 今のは⁈」
「闘気を込めてチャージしたダガーを投げたのですが……威力が高すぎますね。こんなの人に刺さったらスプラッターですよ」
「ヒ、ヒロ……その技は封印してください! 危なすぎますから!」
「え〜、でもせっかく修行して強くなったのにもったいないですよ」
「禁止です! 私の許可なく使ったら腹パンチですからね!」
「ですが、「
強制的に新技を封印されてしまったヒロは、リーシアと共に地に倒れた四人の前に立っていた。
ヒロは真新しい青と白を組み合わせた色合いの金属製軽装鎧を着込み、リーシアも同じく赤を基調とした新しい革鎧を装備していた。
「ケイトさん、シンシアさん、みんなの治療をお願いします。僕はあのオークと戦います」
「ヒロ、私も戦いますよ」
「いえ、リーシア、僕一人で戦わせてください。あのオークに一人で勝てないようなら、どの道オークヒーローには勝てません。それにあのオークは……僕と一対一で戦うことを望んでいるみたいです」
「ですが!」
「リーシア! 僕を信じてください」
「……分かりました」
ヒロの真剣な声に、リーシアが引き下がると、ヒロは背中に背負っていた剣の柄に手を掛け、肩越しに剣を鞘から引き抜くとオクタの元へと歩き出した。
日の光りを浴びて、ヒロの持つ新たなる剣が金属特有の鈍い銀の色合いから、白っぽい光沢を持つ不思議な色へと変化していく。
ナターシャがオークヒーローと戦うために用意してくれた剣を、槍を構えたオクタの前で立ち止まったヒロは中段に構える。
ヒロの手に持つ新しい剣は、一般的にはロングソードと呼ばれる剣だった。
今まで使っていたショートソードよりも長い剣身は90cm、柄の持ち手部分も合わせると全長が1mを超えていた。
そんなロングソードを片手で持つヒロ……柄の長さが20cmもあり本来は両手剣として扱うものだったが、材質と剣身の軽量化により片手剣としても扱えるようになっていた。
通常のロングソードは鉄や鋼鉄を使うため、重量がかさみ取り回しが難しくなるが、ヒロが持つロングソードはミスリルと呼ばれる特殊な金属から作られており、軽く強度が強い。
その結果、ロングソードでありながらも、ショートソードと同じ様な取り回しと、ショートソード以上の攻撃範囲の長さをヒロは手に入れていた。
「オクタさん……なんでここに?」
「どうせ死ぬなら、最強の戦士と戦って死にたいと思ったべ」
オクタが嬉しそうにヒロに話し掛けて来るが、槍の構えは決して崩さない。話の途中でヒロが気を抜けば、即座に攻撃に移れるよう闘気を練りつつ気勢を発し、隙をうかがっていた。
対するヒロも闘気を練り、体の中から発した気勢でオクタに対抗する。
互いに譲らない気勢による目に見えない戦いが繰り広げられ、互いに一進一退の攻防が続いていた。
「何が起きてやがる。この重苦しい空気は一体なんだ⁈」
「マッシュ兄貴、体が思うように動かない」
「僕もだよジャーマン兄さん」
「ヒロとオークの間で、何かが激しくぶつかっています」
シンシアにヒールの魔法を掛けてもらい、立ち上がるまでに回復したポテト三兄弟とライムが、二人の戦いの行方を見守っていた。
「流石だべ。長が一目置くわけたべ。恥を忍んで戦いを挑んだ甲斐があったべ」
「オクタさん……何で僕とそこまでして戦いたいと?」
「長とヒロの戦いを見ていたら、忘れていた想いを思い出したべ。ただガムシャラに強くなりたいと……一番になりたいと必死に生きていた時のことを思い出しちまったべ」
オクタがさらに闘気を練り槍にまとわせると、槍がボンヤリと光り出し、その力を溜め込んでゆく。
「時間がない、早く構えろべ、オラに勝てねえようなら、長に勝つなんて到底無理だべさ。さあ命賭けで戦うべ!」
オクタが二本の槍を構え、ヒロに狙いを定めていた。
槍にまとわせた闘気が、その一撃を必殺の域にまで高める。
「あなたはやはり……分かりました。僕も全てを掛けてあなたに挑みます!」
ヒロの闘気が高まるにつれ、ミスリルロングソードの剣身が白く輝き出すと、闘気に呼応するように周りの空気が震えだした。
〈互いの闘気がぶつかり合い激しさが増した戦場で、命を掛けた男たちの死闘が始まろうとしていた!〉
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