第132話 囚われの勇者?…… オーク村大捜索!

「一体どこにいるのヒロ?」


 ヒロ救出パーティーがオーク討伐隊から離れて、すでに30分が経過し……未だ囚われのヒロとリーシアを発見できないケイト達に、焦りの色が見え始めていた。


 村の中央付近では、本隊がオーク砦に攻撃を始めていたが、依然として戦いの音と声は途絶えず、ケイトは不安な表情を隠し、二人の行方を探し続けた。


 索敵に優れた『殲滅の刃』弓職×3のポテト三兄弟を先頭に、ギルド職員である解体屋ライム、『水の調べ』の僧侶シンシアと戦士ケイトの順でオーク村の中を探索するが、未だヒロ達を見つけられない。


 ヒロの囚われている場所が分からない以上、村中をしらみ潰しに探すしかなく、村の中を順に探索し続ける一行……そんな先を急ぐケイト達の前に、探索を妨げる障害がまた現れた。


「またいるぞ。俺ら三人で先制する。撃ち漏らしたら嬢ちゃん達の出番だ。ここのオークは強い。油断するな」


 戦闘経験が長いポテト三兄弟の長兄、マッシュポテトが皆に注意を促す。


 前方には、後ろ向きで佇むオークの姿が見えていた。皆が無言で頷き合い、各々の武器を構える。


 シンシアが『祝福』の魔法を唱え、皆の防御力を上げ終えると同時に、弓に矢を番えていたポテト三兄弟が一斉に弓を放つ!


 一直線に飛ぶ三本の矢がオークの背中に突き刺さろうとした時、気配を察知したオークが手に持つ槍を一閃させて三本の矢を叩き落としてしまう。


「クソ! あれを叩き落とすのかよ! ジャーマン! フライド! あれをやるぞ!」


「いくぜアニキ!」


「わかったよ兄さん!」


 弓に矢を再び番える三兄弟に向かって、狂えるオークが槍をペロペロしながら走り出す!


 三兄弟も長兄、次兄、末弟の順に並び走り出した!


 そしてポテト三兄弟とオークが激突する数メートル手前で、長兄が弓を放つがオークは方向転換し、難なく避ける。


「まだだ! ジャーマン!」


 その場にしゃがみ、次兄が長兄を踏み台に宙を舞う! 


「ひ、ひ、ひ、逃がさないぞ!」


 空中から放たれた矢がオーク襲うがギリギリの所で避けられてしまう! 


「止めだフライド!」


「僕らポテト三兄弟に死角はないよ!」


 そこへすかさず、回避に手一杯のオークへ末っ子が必殺の矢を放った!


「これが俺達のアローストリームアタックだ!」

 

 だが矢は肩に当たり、オークを倒すには至らない。

 オークは足を止めず、そのまま後ろに待機していたライムとケイトに向かって槍を構えて走り続ける。


 槍が届く範囲に入った時、オークは必殺の突きをライムに打ち込んだ。


 だがオークの突きは、ライムが握る巨大な肉切り包丁に弾かれてしまい、凄まじい衝撃にオークは槍を取り落としていた。

 

 そしてライムの後ろから、バスターソードを上段に構えたケイトが無防備なオークの首筋に大剣を振り下ろす。


ぶひー!見事だ!


 オークは最後に一言、勝者に称賛の声を上げ満足して死んでいった。


「ふ〜、こいつも強かったね。単体でも6人掛かりなんて」


「ああ……これで三匹目だが、ここのオークは異常過ぎる。こんな強いオークが徒党を組んで攻めて来たらと思うとゾッとするな」


 ケイトとマッシュポテトがオークの異常な強さに危機感を感じ始め、ギルドマスターが危険視する理由が分かってきた。


「ひ、ひ、ひ、しかしこいつら、なんで槍を舐めているんだ?」


「お前がそれ言うのかジャーマン?」


「ジャーマン兄さんがそれを言うのかい?」


 いつも相手をビビらすため、隠し刃を舐めている次兄に兄弟がツッコミを入れていた!


「い、いや、あれは狂った振りして相手をビビらせているだけであってだ……こいつらの行動も、狂ったように演じてるだけで思考はまともだったぞ?」


 いつもやる事だから、他人が同じことをやっていると本気か嘘かが分かるみたいだった。


「つまり、このオーク達は狂った振りをしていると?」


 ライムの質問に、舐めプロの次兄がうなずく。


「まあいい、とにかく今はヒロの救出が優先だ。もう村の半分は探索した。残るはもう半分だ。さあ急ぐぞ」


 戦闘経験とパーティーリーダーとして歴が長いマッシュポテトがその場を仕切り、ヒロ探索を再開させる。


 そして……ついに囚われのヒロがいるであろう牢屋の前に到着した救出パーティーの前に、最大の障害が待ち構えていた。


 二本の槍をペロペロする……本日、一番狂った感じを醸し出すオークが現れたのだ!


 明らかに他のオークと違い、鍛えに鍛え上げられた肉体は、ただのオークでない事を物語っていた。

 槍の穂先をくわえながら辺りを警戒するオークに、救出パーティーの面々は違う冷や汗をかいていた。

 

「今まで出会ったオークと雰囲気が違うな……」

「ひっ、ひっ、ひっ、二槍同時舐めとは……奴はプロだ」

「明らかにオークではあり得ない筋肉の付き方です……ああ、解体したい!」


 ギルド職員、解体屋ライムが遠目からオークの筋肉を見てウットリとしていた。


「マッシュさん勝てますか?」


「やって見なければ分からんが……俺たちでは勝てる見込みはないな」


 的確な戦力比較はパーティーリーダーとして求められる必須技能の一つである。

 優秀な冒険者ほど、相手と自分の力量を的確に判断し無謀な賭けに出ることはない。

 マッシュポテトは、兄弟を死なせたくない故、この能力を磨き、直感で自分たちでは目の前のオークに敵わない事を悟ってしまった。


「おそらく、あの奥にヒロ達がいる可能性は高いわ。牢屋の様な洞窟に囚われているとメールに書いてあったから……」


「どうしましょう?」


 『水の調べ』の生き残り、シンシアが皆に意見を促す。


「……俺たちが囮になろう」


「ひっひっひっ、そ、それしかないだろう」


「僕たちがあのオークを引きつけている間に、ヒロとリーシアを救出して全員で戦えば勝てるかもね」


 ポテト三兄弟が自ら囮になることを進言した。


「では、私も囮に加わりましょう。あのオークの筋肉には興味がありますから」


 ライムがその豊満な胸を抱きながら、何かを夢想し赤い顔で恍惚の表情を浮かべていた。


「じゃあ、あたしとシンシアは隙を見て、ヒロとリーシアの二人を助けるわ」


「必ず二人に装備を届けます」


 ケイトとシンシアは背中に背負ったバックパックを背負い直していた。それはオークヒーローと戦いのため、ヒロとリーシアに用意された装備……ナターシャが持たせたものだった。


「さあ、もう後戻りはできないぜ! 全員覚悟を決めろ!」


「「「「おう」」」」


 全員が、ヒロとリーシアを助けるために命を賭ける。



…………



 オクタは待っていた。

 ヒロとリーシアを閉じ込めた牢屋の前で、狂った振りをしながら待ち焦がれていた。


 最初は人間なんて生かしておいてどうするんだと呆れた。


 人間とオーク……食うか食うわれるかの関係である二つの種族にとって、互いは敵同士であり生かしておく意味などなかった。


 だが、長はあの二人を生かして捉えた……最初は村の者も人間なんて殺せと声をあげていたが、長は『奴らは我らオーク族の希望になりえる』と言い、殺すことを許さなかった。


 自分も含め、村の者は変わり者の長が、またなにか馬鹿なことを言い始めたと呆れて放っておいた……変化が起こったのは、長の息子が大怪我を負った時だった。二人の人族は、敵である我らオークを救ってくれた……オークの民は皆、なんで敵なのにと首を傾げていた。

 

 大きく変わったのは、あの人間がオークを救うため、エクソダス計画とやらを持ち出して来た時だった。

 我らオーク族に偽りの死を受け入れ、新たなる種族としと生まれ変わり、安住の地を目指す荒唐無稽な計画……オークの誰もが無理だと思った。

 

 オークは喰われるだけの存在。ただ静かに暮らしたいだけなのに、あらゆる種族から命を狙われ、誰も助けてくれず死に怯えて暮らすだけの存在……それが運命なのだとオークの民は誰もが諦めていた。


 だが、あのヒロという男は違った。我らオークと話せる人族……およそオーク以外で話せた者は、ヒロぐらいであろう。

 なぜ話せるのかは分からない。だが奴は我らオーク族に道を照らそうとした。


 皆が疑心暗鬼にヒロを疑った。人族がオークのために手を貸すわけがない。何か裏があるのだろうと……だからエクソダス計画の話を長にされた時、大半の者が賛同しなかった。


 そしてオークに転機が訪れた。


 長とヒロの誇りを賭けた一騎打ち……オーク族最強とまで言われた長にヒロは戦いを挑んだのだ。

 誰もが長の勝利を信じて止まなかった。皆が無謀な挑戦とヒロを馬鹿にしていた。


 長の持つ絶対防御の技……未だ破られたことがないこの技を前に、数多の戦士が敗れ去った。もはやオークの戦士は、誰も長に挑む者はいなくなって久しい……戦うだけ無駄だと誰もが思っていたからだ。


 そしてヒロは真正面から臆する事なく長に戦いを挑み……勝利してしまった。


 誰もが目を疑い、長がワザと負けたのではと言う者まで出る始末だ。

 だが、紛れもなくヒロは長に勝利した。もはや誰もヒロ馬鹿にする者はいなくなり、皆がヒロを戦士として認め向かい入れた。


 そしてヒロのエクソダス計画に、オークの民は希望を見たのだ。


 命がけの戦い……しかも自分のためではない。オークのために人があの最強に挑み勝利する……あの長との戦いを見た戦士は、皆が胸を熱くしていた。そして誰もが忘れていたある想いを思い出させてくれた。


 そう、ただガムシャラに強く、ただ最強を目指していた頃の思いを……長と言う絶対に超えられない壁ができた時、オクタの心からもその思いはいつの間にか消え失せてしまっていた。


 オクタは二人が戦う前から、どうせ戦った所で勝てやしないとタカを括り、やるだけ無駄だと冷めた心でヒロの戦いを見届けていた。


 だが、最強の長にあのヒロは勝利した時、たぎる心がオクタの心で甦り、叫び声を上げていた。

 

 あの男と……ヒロと戦いたいと!


 オクタは一番槍として狂ったオークのフリをして、いの一番に殺される役を買って出ていたが、黙って名も知れぬ人族に討たれて果てるより、最強の男と戦って死にたいと言う思いが強くなってしまった。

 

 その思いが、オクタをヒロの囚われた牢屋の前に立たせているのだ。

 

 オクタはただ待ち焦がれた……ヒロと自分が命を賭けた熱き戦いに興じる時を!


「さあ、早くヒロを助けにくるべ。助けるまでは手出しはしないべ。おらはただ、あの最強の男と戦いたいだけだべからな……ブッヒッヒ、死ぬと分かっているのにオラなんでこんなにワクワクしてるんだべ? おかしくなっちまったべかな〜」


 オクタは勇者が解き放たれるその時を、槍をペロペロしながら……ただ静かに待ち続けるのだった。



…………



「外が騒がしいですね」


 リーシアが外の変化に耳を澄ませて様子をうかがっていた。


「リーシア、救出隊が来ました!」


 ヒロはオートマッピングスキルの簡易MAPに表示された光点の色でケイト達が自分たちを救うため、牢屋の前にまで来てくれた事を確認していた。


 だが……牢屋の前にいたオークに戦いを挑み、交戦状態になってしまった。


 四つの光点とおそらくオクタの光点が牢屋の前から移動しながら交差を繰り返す。

 そして離れていた青い二つの光点がヒロ達の元へと近づいて来る。


「ヒロ! いる? 助けに来たよ! いるなら返事して!」


 聞き覚えがある声に、ヒロが声を上げた。


「ケイトさん! ここです! リーシアも一緒ですよ! 手足を縛られて身動きができません!」


「ケイトさん! 助けてください!」


 オーク達に囚われていた事にするため、リーシアも迫真の演技で助けを求めていた。


「二人共いるね! 待ってて! 今、助けるから」


 そうケイトが叫ぶと、手に持ったバスターソードを振り被り、木の格子に何度も剣を振り下ろした。


 十数回、剣を振るうと……人ひとり通れるくらいの隙間が作られ、ケイトとシンシアの二人が素早く牢屋の中に入っていく。


「ケイトさん、シンシアさん!」


「ヒロ、リーシア! 良かった生きてる! ……ヒロ、それは趣味なの?」


「なんでそんな縛られ方を……」


 亀甲縛りのヒロを見て、ケイトとシンシアが少し引いていた。


「違います! 断じて僕の趣味ではありません!」


 強く否定するヒロ……肯定できるわけがなかった。


「そう……とりあえず縄を切るわ」


 ライムとシンシアがナイフを取り出し、ヒロとリーシアを縛る縄を切り、二人を拘束から解放する、


「入り口に恐ろしく強いオークが待ち構えていて、今ポテト三兄弟とライムさんが戦ってくれてます」


「ライムさんとポテト三兄弟ですか? なんでまた?」


「話はあとで! 今はあなた達を救出して入り口にいたオークに全員で挑まないと全滅してしまいます。怪我を治します。ヒール!」


 シンシアが回復魔法をヒロに掛けてくれた。

 

 リーシアの蹴りによって、脇腹に感じていた鈍い痛みがヒールの効果で消えていく。


「二人共、これを飲んで、体力増強のポーションよ」


 手渡されたポーションを二人は一気に飲み干すと、体が熱くなり心無しか体が軽くなった。


 体調がある程度回復した事を見届けたケイトとシンシアが、おもむろに背中に背負ったバックパックをヒロとリーシアの前に置いた。


「これはナターシャさんからのお届け物だよ。二人共、開けてみて」


 ヒロとリーシアの二人がバックパックの口に手を掛ける。


「ナターシャさんが奮発したって言ってたから、大事に使いなよ」


 二人がバックパックの口を開くと、その中には真新しい武具と防具が入っていたのだった。


〈決戦を前に、勇者と聖女は新装備を手に入れた!〉

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