第77話 ヒロと囚われの少女

「……と言うわけで、ヒロは生き返りました!」


「これでガイヤで死んだのは何度目だろう? リーシア助けてくれてありがとう」



 ヒロにポーションを口移しで飲ませたことを、リーシアはうまく誤魔化していた。


 緊急事態とは言え、ヒロとキスしたことを思い出すと、心の奥底で恥ずかしいやら、嬉しいやら、今まで感じたことがない気持ちが湧き上がってくる。


 初めての気持ちに戸惑うリーシアは、ヒロの顔を見ると顔が赤くなり、冷静さを失ってしまう。


 敵地のど真ん中でイケナイと、リーシアは自分の頬をペシペシと叩き、気持ちを入れ替える。



「リーシアどうしました?」


「な、何でもありません! そんなこんなで、私もいつの間にか眠ってしまい……目覚めたらヒロに胸を揉まれてました!」


「す、すみませんでした」


「もういいです。ヒロが変態ヒーローなのはわかってますから……でも他の女性にあんな事したら死刑ですよ? いいですね!」


「いや、あんな事、普通しな「!」はい!」



 有無を言わさぬ見えない重圧プレッシャーを感じたヒロは、『YESはい』としか答えられなかった。



「よろしい、話を戻しますよ。いまのがヒロが意識を失ってから、目覚めるまでの経緯いきさつです。現状、私たちはオークに捕まり、洞穴らしき場所に囚われている状態です」



 ヒロは、日が差し込み明るくなった洞穴の入り口付近に顔を向けると、木で作られた格子と外で見張りとして立つ、オークの姿を確認する。



「見張りのオークと木の格子……確かに捕まってますね」



 ヒロはアゴに手をやり、何かを考え込み始める。一分……二分と時間が経ち、どうしたのかとリーシアが心配する。



「ヒロ? 何か気になる事でも?」


「はい。オーク達が僕らを生かす理由が分からなくて……放っておけば勝手に死ぬ僕らを、なぜわざわざ牢に入れて捉えたのか? 理由が分かりません」


「あれですかね……私たちをあとで美味しく食べるために、生かしておいたとか?」


「オークって人を食べるんですか?」


「食べますよ……魔物ですから。私たちもオークを倒して美味しく頂きますし、おあいこですね。負ければ魔物のご飯になるのは、冒険者には当たり前の鉄則です」



 さも、当然のように答えるリーシア……ヒロは改めてガイヤに住む人々との価値観の違いを感じさせられていた。



「やはりいくら考えても、生かされている明確な理由が思いつきません。この件はとりあえずお終いにしましょう。分かった所で、僕らがオークに囚われた虜囚である事に変わりがありませんからね」


「それで、これからどうしますか?」



 膝枕をしたヒロの顔を覗き込み、これからの事をリーシアが相談する。



「まずはある程度、僕らが回復するのが優先です。しばらくは情報収集をしながら、オーク達の出方をみましょう」


「ですね。私もオークヒーローから受けたダメージが抜けていませんから……しかしあの防御は厄介です」



 リーシアの顔が暗くなる。自慢の拳と蹴りが効かない強敵……対処法はあるにしても厄介な相手にリーシアの顔は暗く沈む。



「リーシア大丈夫です。防御スキルを使うための条件さえ分かれば、攻略法はいくらでもあります。それとあの防御スキルを突破して、ダメージを与えることもできました!」


「本当ですか! 一体どうやって?」


「オークヒーローとの戦いの最中、新たなるスキルを獲得したんです」


「そんな都合のいい話が……でもヒロならありそうだと妙に納得してしまう自分が不思議です」



 苦笑しながらリーシアが、ヒロの顔に掛かった髪を払い除けてくれた。


「溜めスキルが変化して、ブレイブチャージと言うスキルに変化しました。『ステータスオープン』」




 名前 本上ほんがみ 英雄ヒーロー

 性別 男

 年齢 6才(26才)

 職業 プログラマー


 レベル:11


 HP: 10/200(+100)

 MP:130/150(+100)


 筋力:140(+100)

 体力:160(+100)

 敏捷:140(+100)

 知力:160(+100)

 器用:150(+100)

 幸運:135(+100)


 固有スキル デバック LV1

       言語習得 LV2(レベルUP)

       Bダッシュ LV3

       2段ジャンプ LV2

       溜め攻撃 LV2(レベルUP)

       オートマッピング LV1

       ブレイブ LV1 (ロック)


 所持スキル 女神の絆 LV2

       女神の祝福 【呪い】LV10

       身体操作 LV4(レベルUP)

       剣術 LV3(レベルUP)

       投擲術 LV2(レベルUP )

       気配察知 LV2(レベルUP)

       空間把握 LV2(レベルUP)

       見切り LV1(New)

       回避 LV1(New)




 ヒロは自分のステータスを開くと、追加されたブレイブスキルの文字をクリックするが……。




【ブレイブ 】LV1(ロック)

 〈スキル使用に制限がかかっているため、閲覧できません。一定条件で使用可能〉




 さっきは体の痛みで、HPの数値しか見ておらず気づかなかったが、ヒロはブレイブのスキル名の横にある(ロック)の表示を見落としていた。どうやら謎の制限により、ブレイブスキルが封印されているみたいだった。ヒロの額に汗がにじみ出る……。



「ど、どうしましたかヒロ? また痛いですか?」


「いえ、痛みはそれほどではないですが……オークヒーローに有効な攻撃手段がロックされていて使えないようです。自由に使えないスキルでは、当てにするわけにはいきません」



 自分の意思で自由に使えない力を当てにしているようでは、命がいくつあっても足りない。


 ヒロはガイヤに生きる上で、不確かな力よりも確実な力が何よりも重要な事をスッポンポンから学んだ。


 頼りにしていた力が使えないとなると、オークヒーローに勝つためには、小細工を労するしかない。厳しい戦いになるだろう。


 だが、勝機がないわけではなかった。ヒロの顔をリーシア不安そうに見つめているのに気づくと……。



「リーシア大丈夫です。元々ないものですし、なければないで戦いようはあります」



 リーシアの不安を取り除くため、無理に笑顔を作る。


 そんなヒロを察して、リーシアも笑顔で答える。



「ヒロがやれると言うなら、私は信じます」


「任せてください。必ず倒してみせます」



 リーシアの期待にヒロが答える。



「とりあえず情報収集です。レベルが上がっていますし、まずはステータス見て、現状確認からしましょう」


「私もスキルレベルが上がったようですから、確認しますね」



 ヒロが変化のあったスキルの名前をクリックし、一つずつ確かめていく。




【言語習得】LV2 (レベルUP)

 特殊な職業に就く者しか取得出来ないスキル

 あらゆる言語を短期間で習得する事が出来る

 言語習得に大幅なプラス補正

 獲得した言語の文字習得に大幅なプラス補正




「これは、文字習得に補正が入るのかな。言葉は喋れるけど文字の読み書きはまだ出来ないし、文字を覚えるのに助かるかな」




【溜め攻撃】LV2 (レベルUP)

 異世界のスキル

 攻撃を溜める事で、攻撃力が上がるスキル

 溜める時間により、威力が変化する

 攻撃魔法使用時、魔法にもチャージ可能




「攻撃魔法にチャージ可能が追加されてる……魔法は使う事ができないから、現状維持か……」




【身体操作】LV4 (レベルUP)

 イメージ通りに身体を動かせるようになるスキル

 レベルにより動かせる範囲がより広がる

 LV1 筋力操作

 LV2 血流操作

 LV3 脳内電流操作

 LV4 神経伝達路操作




「使い方がまったく分からないぞ……パス!」




【剣術】LV3 (レベルUP)

 剣に分類される武器を装備した際に、威力、命中率にプラス補正

 レベルにより技を習得可能

 LV1 パワースラッシュ

 LV2 連続斬り

 LV3 ワイドスラッシュ




「おお! 名前からして範囲攻撃かな? 単体攻撃しかできなかったから、地味に嬉しいな。あとで検証だな」




【投擲術】LV2 (レベルUP)

 手に持つアイテムを投げる際の威力・命中率・射程にプラス補正

 レベルにより技を習得可能

 LV1 パワースロー

 LV2 ダブルスロー




「剣術と同じ様な系統で覚えるのかな? 多分同時に物を投げるスキルだろうな。これもあとで実証っと」




【気配察知】LV2 (レベルUP)

 自分の周りの気配に敏感に反応出来る様になる。

 気配察知の精度と範囲にプラス補正




【空間把握】LV2 (レベルUP)

 自分の周りの空間を把握する事で、立体的な動きにプラスの補正が入る

 空中戦闘での動きの制御に影響する




「気配察知と空間把握は特にレベルが上がった以外は、説明文に変更はないな。多分スキルの能力が向上しただけか?」




【見切り】LV1 (New)

 敵の攻撃の軌道を読み躱す力

 攻撃回避にプラス補正




【回避】 LV1 (New)

 攻撃を避ける全ての行動にプラス補正

 回避スピードに向上効果




「見切りと回避……間違いなくモザイク仮面との修業で覚えたスキルだ……オークヒーローみたいな一撃が重い敵に対してかなり有効なスキルだろう。死にまくった甲斐があった」



 あとは身体レベルが上がり、全体的にステータスが底上げされていた。



「とてもオークヒーローと真正面から戦えるステータスではないかな」



 あの時……ブレイブスキルの発動と同時に、ブレイブチェンジによるステータス書き換えが起こった。あの時の数値は、全て元の数値の五倍近くに書き換わっていた……ブレイブチェンジ後のステータスで、やっと互角のオークヒーロー……謎の防御スキルを抜きにしたとしても、地力の高さから真正面から挑んで勝つのは難しい。


 勝機があるとすれば、やはりリーシアとの連携……ヒロが撹乱し、リーシアの一撃を叩き込む。


 オークヒーローの攻撃自体は、おそらく今のヒロならば、短時間の回避は可能だろう。あとはあの防御スキルをいかに突破して、リーシアの一撃を決めるか……ヒロがあれこれ考えているとリーシアが声を上げた。



「私はダメですね……スキルレベルは上がりましたが、能力向上だけで……これと言ったスキルは覚えられませんでした」



 ヒロがパーティーメニューから、リーシアのステータスを確認する。




 名前 リーシア

 性別 女

 年齢 15

 職業 バトルシスター


 レベル:20


 HP:65/210

 MP:15/75


 筋力:220

 体力:200

 敏捷:260

 知力:75

 器用:120

 幸運:45


 固有スキル 谿コの繝ゥ繧、繧サ繝ウ繧ケ

       天賦の才


 所持スキル 近接格闘術 LV8

       発勁 LV8(レベルUP)

       震脚 LV8(レベルUP)

       回避 LV6(レベルUP)

       蝗槫セゥ魔法(貊) LV10




 リーシアの言う通り、新スキルは獲得してはいないが、基本スキルがレベルアップしており、これで攻撃力の底上げが期待できる。



「この文字化けしたスキルが使えれば良かったのですが……」


「現状、リーシアはオークヒーローを倒すための最大戦力ですから、攻撃力が底上げされただけでも、戦力アップです。オークヒーローに有効な攻撃ができるのは、リーシアだけですから期待してます」


「分かりました。オークヒーローを必ず私がボコボコにしてやりますね」


 

 リーシアが腕を上げて、可愛くガッツポーズする。



「それにしても……本当にこの文字化けしたスキルは一体何なんでしょう? 魔法の文字が入っているので、なんらかの魔法を覚えられるはずだったんですかね……」



 リーシアの寂しそうな顔に、ヒロが気づき聞いてみる。



「もし魔法が使えるとしたら、リーシアはどんな魔法が使いたいですか?」


「そうですね〜」



 少し考えてリーシアが、はにかみながら答えた。



「やっぱり回復魔法ですね♪」



「回復魔法ですか?」


「はい! 私の憧れですね……大好きだった母様が得意な魔法でしたから……小さな時は回復魔法を使おうとして、いつも母様の真似をしていたものです」



 ヒロは静かに耳を傾けるとリーシアが、寝る前に子供に物語を聞かせるよう優しく語りだした。


リーシアが小さかった頃の話を……聖女と呼ばれた母の……武勇伝を!




〈リーシアが、ぶっ飛び聖女伝説を語り始めた!〉

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