第21話 決着の刻!
【Bダッシュ】 LV1
異世界のスキル
MPを消費する事で移動スピードに補正が掛かる
補正スピードは通常の5倍
初めてこのスキルを見た時、ヒロはふと思った。『なぜ? Bダッシュなんだろう』と……。
Bダッシュとは、そもそもゲームで用いられるアクションの一つである。ダッシュをする際、コントローラーのBボタンが割り当てられているゲームが多いことから付いた名称だ。
この世界を管理する女神セレス様は、ゲームの存在をまったく知らなかった……むしろ概念自体が存在していないと言っていた。
Bダッシュと言う言葉がないのなら、それに代わる名前のスキルが表示されるのが妥当である。普通にダッシュや疾駆、突進みたいなスキルが表示されても良いはずだ。なのに、ヒロのスキル欄に現れたのはBダッシュだった……。
ヒロはこのおかしな現象について考えた。今までにガイアに現れた異世界人は、二人いたとセレス様は話してくれた。二人は勇者として、稀有な能力を持ち世界を救ったと聞いている。
この稀有な能力に、ヒロは引っ掛かっていた。ヒロと同じで、このガイアに存在しないスキルだったのではないかと? では、ガイアに存在しないスキルが、どうして表示されるのか?
ヒロにとってBダッシュとは、急加速するものだと認識している。元の世界でもリアルでダッシュする際には、常にBダッシュと心の中で叫んでいたものである……そんなヒロの意識を何らかの方法で読み取り、スキルとしてBダッシュを覚えたのだとすると辻褄が合ってくる。
ならばこのBダッシュには、あるゲームで見つかった有名なバグ技が使えるのではないかと、ヒロは思いついた。
今では国民的ゲームとして、その名を知らぬ者がいないゲーム……その名はスーパーマリナシスターズ。
主人公マリナを操作して、親友のライチ姫を悪の大王カルビから救い出すアクションゲームである。
数々の続編とスピンオフ作品、コラボと今も尚シリーズが発売され続ける大人気ゲームだ。
このスーパーマリナシスターズには、Bダッシュを用いたある裏技が存在した。
それは障害物としてそそり立つ壁に、Bダッシュで激突した時、存在しない疑似的な足場を強制的に作り出し、さらなる高みへジャンプする事を可能にするものだった。
実はこれ……Bダッシュと特定の動作、条件が組み合わさることで発生するバグ技なのだ。
この技を用いることで、ありえないショートカットや得点を叩き出せる裏技として、一世を
だがこのバグ技、Bダッシュからジャンプへのタイミングが非常に難しく習得難易度が高すぎるのでも有名で、やり方を知っていてもシビアなタイミングが災いし、ほとんどのプレイヤーが習得を諦めたほどの難易度である。
だがヒロはマリナシスターズを血反吐を吐くほどやり込んでおり、当然の如くこのバグ技はマスターしていた。ならばヒロのスキル欄に表示されたBダッシュにも、このバグ技が再現出来る可能性が高かった。
結果……ヒロの考えは間違っていなかった!
ヒロはランナーバードの攻撃が避けられる、ギリギリのタイミングで大木に向かって飛び上がった。
ランナーバードのジャンプ力の高さは、3mを超えている。対してヒロの飛べる垂直の高さは精々60cm……ランナーバードのジャンプ力を超える事は不可能に近かった。
迫る大木と頭上から迫るランナーバードの鉤爪。
ヒロは大木に激突する直前、右足の裏から木の表面に足を掛け、膝を折り畳むことでBダッシュと叫ぶ時間を作り出していた。
新たな検証の結果、Bダッシュは片足の裏側が、何かに触れていれば使用できることが分かったのだ。つまりそれは地面でなくても構わない。
「Bダッシュ!」
ヒロの掛け声と共に、足の裏に疑似的な足場が発生する。本来は進行方向に発生する力のベクトルが、上方に向かって発生したのだ。
上に向かって急加速するヒロは、一瞬でランナーバードの頭を超え、その遥か頭上に飛び上がっていた!
捉えたと思った瞬間に獲物が消え、代わりに現れた大木にランナーバードは最高速度で激突した!
木の太さだけで1mを超える大木がランナーバードの激突で凄まじい音と揺れを発生させる。
大木は大きく揺れたが折れる事はなく、ランナーバードを跳ね返していた。
余りの衝撃に大木だけでなく、周りの地面が揺れる程であった。
大木へ激突したランナーバードは、勢いを殺し切れないまま巨体を大木に打ちつけると、受け身も取れずそのまま地面へと落下する!
時速50kmに達するスピードが逆に仇となり、ダメージとして全て自分へと跳ね返っていた。
「よし!」
地面に落下したランナーバードは、すぐには激突と落下のダメージから逃け出せず、地面に倒れたまま目を回していた。上空5mの位置に到達したヒロは、一瞬の浮遊感を感じながら、ナイフを逆手に両の手でしっかりと握り絞める。
「ランナーバード! お前はここでゲームオーバーだ!」
そして自由落下を始めた体を、真下で目を回すランナーバードへと向ける。狙うは頭ではなく胴体部分……5mもの高さから落下するヒロは、ナイフを振りかぶりランナーバードの背に突き立てた!
「グエエエエ!」
激突の衝撃から復帰できないランナーバードに、さらなるダメージが入り、背中から生じる鋭い痛みがランナーバードの体内を駆け抜ける。
ヒロはランナーバードの背に跨がる格好で、ナイフを深く突き立てていた。そしてランナーバードを、その場で釘付けにする事に成功したヒロが叫ぶ。
「リーシア!」
「ヒロ、分かっています!」
声を出すまでもなくリーシアは攻撃の機会をうかがっており、すでに攻撃のモーションへと移行していた。
助走によるスピードを乗せた右脚からの強力な回し蹴りがランナーバードの頭にヒットする。
目を回すランナーバード……だが彼女の攻撃は終わらない。
攻撃で振り切った右足をそのまま軸足とし、その勢いのまま左の後ろ回し蹴りが再びランナーバードの頭部に炸裂する!
ランナーバードが白目を剥いたが、リーシアの攻撃はまだ止まらない。
勢いを殺さずに着地した左足を軸に体を回し、右下からフック気味の腹パンチがランナーバードに決まる! アバラ付近の骨にヒビが入り、ランナーバードは口から泡を吹き始めた。
間髪をいれず、リーシアが前に出していた右足で大地を踏む……地面に足形を刻み込みヒビ割れる程の凄まじい震脚から、腰を落とした肘が打ち出される!
寸勁と呼ばれる技術が盛り込まれた肘打ちを、容赦なく打ち込まれたランナーバード……ヒビ入ったアバラ骨が、全て叩き折られグッタリとしてしまう。
そして左足を背面方向から一歩ランナーバードへ踏み出し、再び凄まじい震脚をリーシアが踏むと、背中越しから突き上げるような体当たりの衝撃が、ランナーバードとヒロを襲いその身を宙に浮かせる。
中国拳法で言う八極拳の鉄山靠に近い体当たりの技……凄まじい衝撃が、ランナーバード越しにヒロにも伝わってくる。
もはや意識がないランナーバードに、生き残る道はなかった!
「これでトドメです!」
リーシアが左足を前に出し、三度目の震脚を踏む。短い移動距離と動作から繰り出された拳……およそ女性が打ち出したとは思えない破壊力を秘めた掌底がランナーバードとヒロを突き飛ばした!
もはやオーバーキル状態のランナーバードは、そのまま木に激突すると、『ドチャッ』と言う音を立てながら地面に落下して……命を散らしていた。
「
流れるような淀みのない連続技が綺麗に決まり満足気のリーシア……笑顔で声を上げるが、お目当ての人物からの返答がない。『アレ?』と不思議に思い、周りをキョロキョロ見回すがヒロの姿はどこにも見当たらなかった。
「一体どこに?」
姿を消したヒロ……どうしたのかと頭を悩ませていると、リーシアの視界に倒れたランナーバードの姿が映り込んだ。そしてまったく動かないランナーバードの下から生える、誰かの足を目の当たりにして、ようやくリーシアは気がついた!
「アッ! ……だ、だ、だ、だ、大丈夫ですかヒロ⁈」
横たわるランナーバードの下敷きになり、ピクリともしないヒロを見たとき、リーシアは動揺を隠せず声を上げていた!
「わ、忘れていたわけじゃないんですよ! ほ、本当ですよ!」
普段、一人で行動する事が多いリーシアは、完全にヒロの存在を忘れ、容赦なく攻撃を叩き込んでいた。
ヒロはランナーバードと一緒に突き飛ばされ、下敷きにされたダメージで動けないでいた……あまりのダメージに体が一時的に麻痺してしまい、声も出せないままランナーバードの下で、ただ黙って痛みに耐えるしかなかった。
「私のせいで……ヒロ許してください」
そしてリーシアは仲良く横たわる、ヒロとランナーバードに向かって、手を胸の前で合わせて祈る。
「ああ……ヒロ……あなたの犠牲は決して無駄にはしません。ありがとう。そして今夜の晩御飯は、豪華な焼き鳥です」
(勝手に殺さないで! まだ生きてるよ! あと人の死を焼き鳥と一緒するなぁぁぁぁぁっ!)
ヒロのツッコミが、心の中で響き渡るのであった!
【レベルが上がりました】
名前 本上 英雄
性別 男
年齢 6才(27歳)
職業 プログラマー
レベル :5
HP:46/115(+45)
MP:42/75(+40)
筋力:62(+40)
体力:82(+40)
敏捷:62(+40)
知力:62(+40)
器用:72(+40)
幸運:57(+40)
固有スキル デバック LV1
言語習得 LV1
Bダッシュ LV2
二段ジャンプ LV1(New)
所持スキル 女神の絆 LV1
女神の祝福 【呪い】LV10
〈勇者が少女に殺されかけたが、一命を取り留めた!〉
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