第22話 高難度……ジャンピング土下座!

【絶技六式】

 流れる様な技の連結により、必殺の域にまで昇華した技を六連撃で敵に叩き込む連続技。


 その威力は単発で打ち込むより遥かに強力である。

 秘密は流れる流水の如く、淀みない技の連携が次に続く技の威力を増大させる点にある。

 最終的には全ての技をつなげる事で、莫大な威力を秘めた一つの奥義へと昇華する。


 名前の通り、絶技とは非常に『優れた技』を表しており、一つの技が必殺の域にまで昇華するには、長い年月を必要とする。


 それを六つも習得するのは、常人には不可能な領域であり、そんな神技を超えた魔技を六連撃で打ち込む技こそが絶技六式である。


 この技の習得は努力でどうにかなるものではない……一生を賭しても、常人にはたったひとつの技すら習得は難しく、圧倒的な才能と常軌を逸した狂気がなければ習得は不可能である。


 かつて、この技を目撃した者は、皆が同じ言葉を述べた。あの技の使い手は人にあらずと……だが、それを知らない人々は、かの人をある称号を持って褒め称えた。拳を極めし者……人々はその名を『拳聖』と呼ぶのだった。

 

 著 冒険者ギルド 世界格闘技名鑑より




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「本当に申し訳ありませんでした!」



 リーシアの土下座が炸裂した。


 ヒロは異世界でも土下座があることに驚きを隠せない。突然の美少女の土下座に今度はヒロがダジダジになっていた……まさか女の子に土下座されるなんて、元の世界でもありえないシュチュエーションである。



 ヒロは、ここに至るまでを思い出していた……。

 

 車でき殺されたカエルみたいな格好で、ランナーバードの下敷きになっていたヒロ……ようやくリーシアの手を借りて、ランナーバードの下から抜け出すことに成功した。


 

「だ、大丈夫ですか? 痛い所はないですか?」


「……」


「あ、あのですね……つい、うっかりとですね」


「……」


「すみませんでした」



 無言の返答にリーシアがダジダジになりつつ謝り、ヒロはリーシアをジト目で見ながら無言の返答を返していた。


 自分が縛られた時と全く逆の状況に、なにか既視感をヒロは感じる。

 

 危うく、ランナーバードと一緒に昇天しかけたヒロは、今の戦いのダメージがどれくらいだったのかを確認しようとステータス画面を開くが……そこでヒロは驚愕する羽目になる。




 名前 本上もとがみ 英雄ヒーロー

 性別 男

 年齢 6才 (27歳)

 職業 プログラマー


 レベル :5


 HP:46/115 (+40)

 MP:42/75 (+40)


 筋力:62 (+40)

 体力:82 (+40)

 敏捷:62 (+40)

 知力:62 (+40)

 器用:72 (+40)

 幸運:57 (+40)


 固有スキル デバック LV 1

       言語習得 LV 1

       Bダッシュ LV 2

       二段ジャンプ LV 1 (New)


 所持スキル 女神の絆 LV 1

       女神の祝福 【呪い】LV10


 

 レベルがアップした際、女神の祝福の効果とレベルアップ分のステータス数値が加算され、女神の祝福の効果で、レベル×10の数値がステータスにプラスされていた。


 レベル1から4つあがっているからステータス値が+40上がっており。ステータスに関しては1レベル毎に3ずつ数値が上がっている。HPとMPはレベル毎に5ずつ上昇するようだ。



「HPの残りが46か……最後に見たのが狼と戦ってステータスを確認した時で、確かHP25だったかな……ん?」



 ヒロはふと気が付いた。レベルアップする際、ゲームみたいにダメージ分を含めて全回復はしないことに……今回HPのステータスがレベルアップにより45上昇していた。


今の残りHPが46で、レベルアップによる上昇HP45……つまり46−45=HP1!

 


「あぶなあああああああああああああああ!」


「ど、どうしましたか?」



 突然上がった驚愕の声にリーシアは驚き、狼狽うろたえた目で、ヒロの様子を見ていた。



「あ……危なかった。ランナーバードとの戦いで、残りHPが1まで下がっていました」


「え? HP1? ええええ!?」


「タイミング良くレベルアップしていたので、助かりましたが……これ下手したら下敷きにされて死んでいたかもしれませんね」


「死んで……」



 リーシア表情が曇ると突然、後方にピョンと飛び跳ねた!

 ひざを胸に付ける形で足を曲げ、手を前へ真っすぐに伸ばしながら、上半身を腰から前へと倒す! オデコを地面に擦り付けながら平伏すると……ヒロの目の前で、見事なジャンピング土下座が完成していた!



「本当に申し訳ありませんでした!」



 リーシア渾身の土下座が炸裂した。



 あまりの完成度の高い土下座に思わず名作アクションゲーム、ロールウーマンのMrマイリーをヒロは思い出してしまった。

 



『ロールウーマン』……正義の科学者ライド博士が作った家庭用女性型ロボット、ロールウーマンと世界征服を目論むMr.マイリーとの死闘を描く横スクロールロボットアクションゲームの名作! それが『ロールウーマン』だ!


 シリーズ11作を超える人気ゲームで、悪の科学者Mrマイリーが、最後のボスとして毎回ロールウーマンの前に現れ戦う姿はもはやお約束の展開である。


 ファンはこの戦いと最後の土下座でロールウーマンに許しを乞うシーンを見るためだけに続編を購入すると言っても過言はない!


 最後は毎回、土下座して許しを乞うのだが……シリーズ最新作で披露されたジャンピング土下座は、もはや伝説である。


 最新の技術を用いた見事な土下座に思わず見惚れ、ゲーマー達は思わず感嘆の声を上げるほど、美しい土下座なのである。

 

 リーシアのジャンピング土下座は、そんなMrマイリーに匹敵する美しさがあった。

 流れるような後方へのジャンプ……からの後方飛び上がり土下座は難易度がとても高い!


 後方ジャンプ中に空中で姿勢を整え、着地を決めた際に体がブレないよう、うまく着地を決めなくてはならないためだ。


 リーシアの身体能力の高さから繰り出されたジャンピング土下座は、ヒロの中で9.8点という高得点を叩き出していた……惜しくもMrマイリーのパーフェクト土下座10.0点には届かなかったが、ヒロはリーシアの健闘をひそかに心の中で讃えていた。

 

「しかしロールウーマンか……あれは良いゲームだった!」


 各ボスを倒すとボスの技を使えるようになる、武器チェンジシステムは斬新であった。ボスは武器の選択により難易度が変わり、弱点を突くことで安易にボスを倒すことができた。

 ステージ攻略の順番が重要であり、戦略性が高いアクションゲームとしてプレイヤー達を唸らせた。


 とくにシリーズ11作目は数年ぶりの発売とあり、恐るべき進化を遂げて発売されたのは、まだ記憶に新しい。




 その土下座に感化され、ヒロはいつの間にか心のスタートボタンを押し、妄想の中でゲームを始めとしまった!



「…………」



 土下座で頭を下げたまま、無言の沈黙が辺りを支配する事、はや数分……長過ぎる静寂に耐え切れなくなり、リーシアは顔をそっと上げると……そこには不思議な生き物がいた!

 

 ヒロが目を閉じたまま、苦悶の表情を浮かべていたのだ。リーシアが怪我で苦しんでいるのかと思った瞬間、突然……ヒロが満遍の笑みを浮かべ笑い出した。



「あの……ヒロさん?」


「あははははは、はあ⁈ 馬鹿な! この僕が避け損ねただと⁈ クソが!」



 笑みを浮かべたと思えば、今度は落胆し怒りだした。

 


「だが大丈夫! ここに隠しHPドリンクがあると知っているからな。クックックッ……これでHPは元通りだ」



 五臓六腑に染み渡るみたいな表情で、声を出すヒロを見たリーシア……かなり気持ち悪い生き物がそこにいた!

 

 何かを握って動かすかのように、宙で忙しなく動く指と腕……その動きが気持ち悪かった。


 

「……あのヒロさん?」


「いやっほ〜ぉぉぉぉぉ!」

 


 突如、高らかな声を上げるヒロ……危険な男がそこにいた!



「ちょっ! ヒロさん大丈夫ですか? ヒロさん!」



 余りにも様子がおかしいヒロに、リーシアが声を荒らげた。

 


「はっ! ……いえ、何でもありません。リーシアさんとりあえず顔を上げてください」

 


 何事もなかったかのように話しかけるヒロ……触れてはならないものに触れてしまい、少し引き気味のリーシアは再び頭を下げる。


 美少女の土下座と言う異常な状況に、居た堪れなくなったヒロは、まず土下座を止めてもらうように声を掛けるが……。



「そうはいきません。下手したらヒロさんが死んでいたかもしれませんので……すみません」


「まあ、結果的には死にませんでしたから……」



 ヒロは一向に止める気配がないリーシアの手を取り、そのまま立たせてあげた。



「それにリーシアさんが居なければ、ランナーバードにトドメをさせませんでした。僕ひとりだったら、今ごろは死んでましたよ」


「ですが……」



 リーシアの泣きそうになっている目を見ながら、ヒロは語り掛ける。



「僕もリーシアさんに失礼な事をして、謝って許してもらえましたから、これでおあいこにしませんか?」


「……分かりました。それじゃあ、これでおあいこです」



 ようやく笑顔になったリーシアを見て、『やっぱり女の子は笑顔でいなければなあ』と思いながら、これからの事をリーシアに相談する。



「まずは町まで行きましょうか。日も暮れてきましたし……」



 ランナーバードとの死闘を経て、辺りは赤くなり始めていた。死に物狂いで戦った結果、かなりの時間が経過していた。


 町まで、どのくらい時間が掛かるか分からないが、夜の森を歩くのはかなり危険なのだろう。なにせ、昼間でも死にかけるほどなのだから……光源が乏しい夜の闇の中を歩くのは自殺行為に等しい。

 


「ですね。私も夜の森は、できれば歩きたくないですから……」


「それじゃあ、リーシアさん町まで案内をお願いします」


「えと……良ければリーシアと呼び捨てでいいですよ。『さん』付けはどうも慣れませんから。ランナーバードと戦っている時も、お互い呼び捨てでしたし」



 そう言えば1分1秒でも時間が惜しい状況だったので、途中から呼び捨てでリーシアと呼んでいた事をヒロは思い出していた。



「じゃあ、僕もヒロと呼び捨てでお願いします」


「分かりました。ヒロ」


「それじゃあリーシア、ランナーバードをアイテム袋に入れて、町に行きましょう」


「はい。それでは、アルムの町へ案内しますね」



 ランナーバードをアイテム袋に入れ、町へと向かうヒロとリーシア……初めての異世界の町に心を躍らせるヒロには、のちに起こる出来事が、運命の歯車を回すキッカケになるなんて、この時の知る由もないのだった。




〈勇者と少女が出会った時、運命の歯車が回り始めた!〉

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