第20話 勝利の鍵!

 裏技……ゲームにおいて、実行すると通常とは違う現象引き起こし有効な結果をること。

 または一般的には知られておらず、公に認められていない手段や方法のこと。


 裏技と言う言葉が、いつから使われ始めたかを正確に知るものはいない……諸説によれば裏技の始まりは、いくつかある。


 某児童月刊誌ゴロゴロの編集者が、当時大人気だったプロレスで禁じ手の技を裏技と呼んでおり、それをゲームに取り入れ特集したのが始まりと言う人。


 ある会社のゲームが、発売後にゲームバランスを崩壊させる禁断の無敵バグが発覚……ソフトの全回収を恐れたゲーム会社は、バグを裏技と称して発表したのが始まりと言う人。


 諸説は様々にあり、始まりを知る人は、もはや誰もいなかった。


 今でもゲームには、さまざまな裏技が存在する。

 

『隠し技』

 製作者が意図的に組み込んだものを隠し技と呼ぶ。

 隠しコマンドやステージセレクト、無敵コマンドにコンティニュー等が例に挙げられる。


『攻略法』

 ゲームを進める上で、システムの特徴を逆手にとって攻略を安易にする方法。


 攻略に高い効果を持つものは、裏技扱いされる事がある。中には、ゲームバランスを崩壊させかねない攻略法も含まれている。


 コントローラーをセロハンテープで固定して、自動レベル上げや安全地帯、ハメ技もこの攻略法に挙げられる。


『ショック技』

 ゲーム機のAC電源を半抜きした状態でプレイしたり、コネクターをワザとショートさせ、物理的な影響を与える事でバグを発生させる荒技。


 ゲームカセットを半挿しの状態で起動したり、プレイ中にカセットを抜き差しする事で、様々な現象を引き起こす。


 開発段階でお蔵入りしたデーターが消去されず、ゲームプログラム内に残っていた場合、幻のステージとしてプレイできる等が例としてある。


 この裏技は、ソフトとバードに損傷を与える可能性があり、禁断の技とも呼ばれている。

 

『バグ技』

 プログラムの仕様や隙、不具合を用いて、何らかの利益を得る行為をバグ技と呼ぶ。


 キャラの移動時、衝突判定の誤動作を逆手にとり、本来は通れない場所に無理矢理侵入する技が例に挙げられる。


 製作者の意図としない操作方法でキャラを動かしたり、アイテムを増殖させる。または、本来は手に入れる事が出来ないアイテムを手に入れる等、バグ技と言うよりは、プログラムの隙を突いた技もここに分類される。


 バグ技には、正常にゲームが進行出来なくなる現象も存在し、メーカーが全てのソフトを回収する最悪な事態へ発展する事もある。


 いつの頃からか……人知れずこれらの技を、総じて裏技と呼ぶ様になったのである。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「さあコッチですよ! 来なさい!」


「クエエエエエエェェ!」



 ランナーバードの攻撃を回避し続けるリーシア。


 ヒロは導き出した答えが実際に使えるかを検証する時間稼ぎをリーシアにお願いし……検証はおおむね終了した。


 試行回数が少ないが、リーシアの疲労の色が濃くなって来ており、これ以上時間を掛けるわけにはいかない。

 ヒロは検証を切り上げ、リーシアの元へ急ぐ。



「リーシアさん、お待たせしました!」


「はい、なんとか時間を稼ぎました。これからどうしますか?」


「近くに大きな木はありませんか? ランナーバードの体当たりにも耐えられるくらいの太い木か、崖や洞穴でも何でも良いですが……」


「大きな木ならありますね。ここから少し先に歩いた場所に、大木がありました」



 そう言っている間にも、ランナーバードが突撃を繰り返し、ヒロとリーシアは同じ方向へ飛び攻撃を回避する。



「そこまで案内をお願いします」


「分かりました。コッチです!」



 リーシアが先導し走り出すと、当然のようにランナーバードが追いかけて来た……どうやら逃げるヒロ達を見逃してはくれないみたいだ。


 人が長距離を走るスピードは慣れた人で時速10km、プロのマラソンランナーなら時速20kmほどである。

 だがランナーバードの走る速度はそれを上回り、すぐに追いつかれてしまう。


 ランナーバードに追いつかれる度に、横にステップし回避を続ける二人。時には急制動で攻撃のタイミングをズラし、わざと追い抜かれたりを繰り返していた。


 ランナーバードはそのスピード故、攻撃を避けられると急には止まれない……そのまま大きく弧を描きながら進行方向を変えるか、オーバーランして立ち止まり、その場で向きを変え再び走り出すしかなかった。

 そのおかげで攻撃を避けた後、少しだけ時間と距離を稼ぎ出すことに成功し、ランナーバードをなんとか大木の元にまで誘導する。


 ランナーバードの攻撃を避けながらも、ヒロはリーシアに大まかな作戦の概要を伝える。



「リーシアさん、あの鳥に有効な攻撃方法を、何か持っていませんか?」


「動きながらは難しいです。足が止まっている状態で、接近できるなら、仕留める自信はありますが……」


「僕がアイツを引き付けて動きを止めます。その後の攻撃をお願いしていいですか?」


「……分かりました。ですが、危ないと感じたら中止です。約束ですからね」


「大丈夫です。きっと成功します」



 ヒロを心配するリーシアだったが、当の本人は、なにか楽しそうな表情を浮かべていた。



「ピンチなのに嬉しそうですね?」


「嬉しいそうですか……かも知れません」



 全ての検証は、頭の中でトライ&エラーを繰り返すことで、すでに終了していた。唯一の懸念事項は、トドメの一撃をどうするかだったが、それもいま聞いたリーシアの言葉から目処がたった。あとはただ考えたプランをヒロは実行するだけだった!


 まるで完璧なプログラムを組み終えたときのような高揚感と、最終チェックを行う前の緊張感を覚えるヒロ……興奮を隠しきれず、思わず顔に出てしまっていた。



「僕は困難なほど、燃えるタイプなんです!」


「ほどほどに燃えて下さいね……あっ、見えました!」

 


 執拗なランナーバードの攻撃から、逃げ回り続けてはや十分……ついに二人は、目的の大木がそびえ立つ場所にまで、ランナーバードを誘導することに成功した。


 少し開けた場所に巨大な大木がポツンと生え、周囲には他の木が見当たらない。養分と日光を独り占めした結果、ランナーバードの体当たりでもビクともしない大木へと成長したのだろう。



「あれなら、ランナーバードの体当たりにも耐えられそうです」



 理想的な大木の出現に、ヒロは作戦の成功を確信した。

 

 ヒロは走りながら話した作戦通り、リーシアと二手に分かれ、ヒロがランナーバードを引き連れて大木にまで誘導する。


 ランナーバードは攻撃を避けられ続けた苛立ちにより、ヒロとリーシアの姿以外、もう周りは何も見えなくなっていた。


 大きく迂回して立ち止まり、ヒロの方へと体の向きを変えるランナーバード……ヒロは大木を背に、ランナーバードと正面から向き合った。


 何度目か分からぬほど、避け続けた攻撃もこれで最後である。ヒロは解体用ナイフを手に持って構える……状況は整い、あとは実行するだけだった。



「さあ来い! チキン野郎! 勝負だ!」



 ヒロの声に反応して、ランナーバードが走り出した!

 

 集中しろ!

 チャンスは1回のみ、失敗すれば死ぬ可能性もある。


 集中しろ!

 攻撃をギリギリ避けられるタイミングを!


 軽自動車が猛スピードで突っ込んで来るに等しい恐怖を抑え込み、ヒロはタイミングを合わせる。


 そしてライナーバードが飛び上がった瞬間、ヒロは大木に向かって飛び上がり叫んだ!



「Bダッシュ!」


 その時! ヒロの体はライナーバードの飛び蹴りを超え、通常のジャンプでは到底到達できない……遥かなる高みへとその身を躍らせていた!




〈勇者のバグ技が成功した!〉

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