第9話 女神の祝福
生まれて始めての逆壁ドンの相手は……女神様でした!
どれくらいそうしていたか……いつの間にか二人はどちらともなく唇を離すと、後ろを向いてしまった。
セレスは顔が見えないが、頭から湯気が出てそうな雰囲気でソワソワしている。
ヒロは恥ずかしそうに頭を掻き、必死に照れを隠そうとしていた。
「あの……ヒロ様」
恥ずかしそうな声にヒロが振り向くと、そこには笑顔のセレスが微笑んでいた。
「は、はい! なんですか⁈」
少しどもるヒロの姿に、セレスはクスリと笑う。
「これでヒロ様と私の魂がつながったはずですが、ステータスを開いて確認して頂けますか?」
「えっと、どうすれば?」
「ステータスオープンと言葉にしてみてください」
「わかりました。『ステータスオープン』」
そうヒロが声を出すと、目の前の空間にステータス画面が浮かび上がった。
名前
性別 男
年齢 6才(27才)
職業 プログラマー
HP:50/50
MP:10/10
筋力:10
体力:30
敏捷:10
知力:10
器用:20
幸運: 5
所持スキル 女神の絆 LV 1
さっき見た時には、なかったスキルが増えていた。
「スキルが増えて、【女神の絆】って言うのが表示されています」
「そのスキル名に触れてみてください」
ヒロはセレスの言葉に従い、【女神の絆】の文字に触れてみた。
【女神の絆 】LV1
女神と魂を繋がった者が取得可能なスキル
女神との絆を上げることでレベルが上がる
経験値取得にプラス補正
ステータス画面の下に。スキル効果が表示されていた。
「魂は無事につながったみたいです。あと経験値にプラス補正って表示されています」
「見せてもらいますね」
そう言うとセレスがヒロの横に並び、肩が触れ合う近さでステータス画面を覗く。
「問題なさそうですね」
セレスは笑顔でヒロの顔を見ると、肩が触れ合っているのに気付き、慌てて離れる。
「コホンッ! これで離れていても、記憶を見ることができそうです」
わざと咳き込み、恥ずかしさを誤魔化すセレス。
「あとスキルですが……おそらくガイヤの地に降りた際、何らかのスキルが追加されるはずです」
「何らかのスキル?」
「はい。ヒロ様と同じく異世界からきた勇者の魂は、いずれもガイヤの地で、見たこともない固有スキルを発現していましたので……」
「だから同じく異世界から来た僕にも固有スキルが追加されると?」
「おそらく異世界の職業が関係しているのでないかと……プログラマー? と言う職業は見たことも聞いたこともありません」
「ガイヤの地に降りたら確認しますね」
「はい。できるだけ安全な場所に降りて頂きますが、何が起こるか分かりませんから気を付けてくださいね。それと……」
セレスが両の手を合わせて胸の前で祈るように目をつぶると、合わせた手の中から光りが溢れ出した。
そして光が収まると、セレスが両の手をヒロの前に差し出し手に持つものを見せてくれた。
「それとコレをお持ちください。ガイヤの地にいきなり何も持たず放り出す訳には行きませんからね」
「これは?」
セレスの手の平に、革製の小さめな袋が置かれていた。片手に収まるほどの小さな袋で、口の部分が紐で閉じられていた。
ヒロはそれを受け取ると、マジマジと見つめて観察する。
「アイテム袋です。袋の中は、神気により空間拡張されてますので、見た目からは想像もできないほど沢山の物が入れられますよ」
【異世界の定番アイテムをゲットした】
ヒロの頭の中に妄想システムメッセージが流れた。
「珍しい物なので、あまり馴染みがないかもしれませんが、お持ちください。きっと役に立つはずです」
馴染みがないどころか、異世界のラノベ小説では定番アイテムです女神様……なんて事を、笑顔で手渡してくれたセレスには絶対に言えないヒロだった。
「セレス様、ありがとうございます」
お礼を述べられ嬉しそうにするセレス様を見て、ヒロは何も知らない振りするしかなかった。
「はい。中には旅に必要な物を入れておきましたから、使ってください」
ヒロは袋の紐を解き中を覗くが、果てが見えない真っ暗な空間があるだけで何も入っていない。
「アイテム袋に触れて『リスト』と声に出すか、頭の中で言ってみてください」
「それじゃあ、『リスト』」
セレス言葉に従い、『リスト』と声に出すと目の前にアイテム袋のメニュー画面が現れた。
アイテム袋【神話級】
銀貨 100枚
干し肉 50枚
乾燥パン 50個
革の飲み水袋 50個
解体用ナイフ 1本
旅人の服 3着
旅人のズボン 3着
麻の下着 3枚
旅人の靴 3足
革の鞄 2個
毛布 2枚
火打ち石 1個
薪 100本
火口 20個
お金やアイテムが表示されている。
試しにメニュー画面の銀貨の名前を触ると、取り出し個数が現れ、横にある上下の矢印ボタンで必要数の増減ができた。
1枚だけ設定して数字に触れると、いつの間にか手の中に銀貨が1枚握られていた。
今度は銀貨をアイテム袋の口の中に放り込むと銀貨は消え、再び銀貨の枚数が50枚に戻った。
「本当はもっと強力な武具をと思ったのですが、神界のアイテムをガイヤの大地に持ち込むには誓約がありまして……」
「誓約?」
「一度に地上に持ち出せるアイテムは、込められた神気の量で制限されています。だからアイテム袋以外は普通のアイテムしか入っていないのです……申し訳ありません」
肩をガックリと落とす女神……だかアイテム袋【神話級】なんてどれだけの神気が込められているか分からないほどのアイテムである。中身が普通のアイテムしか入ってなくても仕方がない。むしろしばらくの間、食べていけるだけのお金やアイテムがあるだけでもありがたい。
「セレス様、そんなことありません。助かります」
「そう言って頂ければなりよりです」
セレスに感謝を述べるヒロ。
「それとヒロ様、いま着ている服は着替えられた方がよろしいかと……」
セレスの言葉にヒロは着ている服に目線を落とす。
ポロシャツにチノパンとオフィスカジュアルな服装で、元の世界で死んだ時に着ていた服だった。
プログラマーと言うとTシャツにジーンズとズボラな格好を思い浮かべる人が多いが、ビジネスマンである以上、最低限の身嗜みをヒロは心掛けていた。
「やはり目立ちますか?」
「ガイヤにはないデザインなので、珍しがられると思います」
「分かりました」
「いま着替えるなら、私は少し部屋を出ていますね」
「お願いします」
そう言うと、セレスは部屋の扉を開けて出て行ってしまった。
一人部屋に残されたヒロは早速もらった服をアイテム袋から取り出すと着替えを始め、元から着ていた服はアイテム袋に放り込む。
ヒロは着替え終わると、服の着心地を確かめるために軽く体を動かしてみた。
旅人の服とアイテムメニューに表示されていたが、表記通り非常に動きやすい。
濃い緑色を基本にし、厚めの生地の長袖に長ズボンは、できるだけ肌の露出を抑え、細かな擦り傷や汚れから体を守る丈夫な作りだった。
着心地を確かめていると、部屋の扉がノックされる。
「お着替えは済みましたか?」
「はい着替え終わりました。中へどうぞ」
そう答えセレスが部屋の中に入って来ると、着替えたヒロを見て感想を述べてきた。
「ヒロ様、とても似合っています」
「ありがとうございます」
「では、最後にヒロ様が最初に降り立つ場所を決めましょう」
そう言ってセレスがヒロの隣に立ち、手を振ると空中に大きな地図が出現する。
真ん中の巨大な大陸を中心に 南と東に少し小さな別の大陸があった。
「この真ん中の大きな大陸が、ガイヤで最大の大きさを誇るエルーヌ大陸です。大小さまざまな国があります」
そうセレスが説明すると目の前の大陸が赤く点滅した。
「エルーヌ大陸で最大の大きさを誇るのが、赤い色のカーラ帝国と、青い色のマルセーヌ王国の二国です」
大陸の右上が6分の1が赤く、同じく左下の6分の1が青く光っていた。
「この二国がガイヤの世界で最大の大きさの国ですので、まずはどちらかの国で、情報を集めるのをオススメします」
「どちらの国がおすすめですか?」
「そうですね。どちらも同じですが、強いてあげるならマルセーヌ王国ですね」
「王国と言う事は……」
「国王が国を治め、貴族が各地を拝領して治めています。国が安定しているので、ガイヤの地に慣れるまでマルセーヌ王国で情報を集めるのがオススメです」
ラノベ小説だと貴族が腐敗しきっていて、領民が苦しんでいる展開があるけど……。
「カーラ帝国はどんな国なんですか?」
「帝王を頂点とした実力主義の軍事国家です……実力さえ有れば種族は問わず誰でも国の役職に就けますが、逆に弱者は切り捨てられる弱肉強食の国です」
「情報を集めるにせよ、まずは自衛のために力を付けなくてはいけないな……弱肉強食のカーラ帝国だといきなり詰む可能性があるかな? ここはセレス様の忠告に従います。マルセーヌ王国でお願いします」
「わかりました。では、この国の領内で比較的安全な場所にヒロ様を転移致します」
「よろしくお願いします。これで最初に降り立つ場所も決まりましたね」
僕が話すと、セレスの顔が少し曇り……そしておもむろに僕の右手をセレスが両手で包み込むと、自分の額に手を当て目をつぶった。
「旅立ちの時は来ました。世界のためとは言え、ヒロ様には過酷で困難な道を強いることになり申し訳ありません。願わくばヒロ様の旅に祝福がありますように……」
セレス様の手から何か温かいものが流れ込んでくる。
心地良い暖かさに身を委ねていると段々熱くなり……セレスの手が焼けるように熱くなってきた!
ヒロが熱くなる手を離せずひたすらに我慢する……そして熱さが痛みへと変わり始めたとき、ようやくセレスがヒロの様子に気が付き慌てて手を離した。
「も、申し訳ありません! 願いを込めすぎてしまったみたいです。大丈夫ですか⁈」
どうやらヒロのために何かをしようとして、やり過ぎてしまったようだ。セレスが好意でしてくれたことなので、ヒロは感謝こそすれど怒ることなど決してなかった。
「大丈夫です。気にしないでください」
焼けるような手の痛みを我慢し、セレスに心配をかけさせないように笑顔でヒロは答える。
そのやさしさに気付いた女神は、赤くなる顔を見られたくないのか少しうつむいていた。
「ほら、痛みはもうないですから」
ヒロは大袈裟に手を振り、痛みがないことをアピールする……女の子の前で見せるやせ我慢だった!
「ありがとうございます」
セレスはヒロの優しさに甘えた。
「なんか僕たち、謝ったりお礼したりばかりですね」
「ですね……クス」
二人は笑顔で微笑み合う。
「それじゃあ、そろそろガイヤの地に向かいます」
名残り惜しいが、いつまでもここにいる訳にはいかない。仕事を引き受けた以上、やらなければならない。
未知の世界への期待と不安を胸に、ヒロは気を引き締める。
「分かりました。では転移を行いますね」
セレスはそう答えると、呪文を詠唱し始め、しばらくするとヒロの足元が光り魔法陣が現れる。
「準備はいいですか?」
セレスの問いにヒロは頷く。
「できるだけ町の近くに転移します。転移したらまずスキルの確認をしてください」
セレスが転移後の確認事項を教えてくれる。
「それから次は町への移動ですね」
「はい。比較的大きな町ですので、ガイヤの世界に慣れるまでは、活動拠点にすると良いです」
「分かりました。セレス様、ゲーム機とゲームソフトの件はお任せしました」
「はい。お任せされました。必ず作成してヒロ様の手にお届け致しますね」
「お願いします。それじゃあ、行ってきます!」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
魔法陣の光りが輝きを増し、抑えられていた力が一気に弾ける。
目も
目を開けたセレスの目の前には、もうヒロの姿はなく、セレスが少しの間だけ、勇者がいた場所に一人立たずむのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒロは目をつぶっても、なお
光が収まった様子を感じ、少しずつ目を開けて腕を下ろすと……目の前には大草原が広がっていた。
「広い……ここが異世界ガイヤか、地平線なんて初めて見たな」
普段、コンクリートジャングルに住んでいたヒロは、テレビの中でしか見たことのない光景に思わず感嘆の声を上げてしまう。
ふと上を見上げると青い空に白い雲が浮かび、ゆっくりと横に流れていく。空にはまぶしい太陽の姿があり、温かな陽光を放っていた。
「気温や湿度は元の世界と変わりはないかな? 雲が動いているなら上空では風が吹いているな……」
するとヒロはおもむろに
「元の世界と比べてジャンプ力は変わっていない……とすると重力はほぼ変わらない。雲が横に動き、地平線が見えると言うことは、異世界ガイヤは地球とほぼ同じ大きさの球形の星と思っていいかな」
今まで学んできた知識から、ヒロは異世界ガイヤが元の世界とほぼ同じような規模の星であることを導き出していた。
「ん? あそこに何かあるな?」
ヒロは緑の草原が広がる大地を眺めていると、その目の先、地平線近くに町の壁らしき物が小さく見えた。
「元の世界と異世界ガイヤが、ほぼ同じ星の大きさだとすると、自分の身長が178cmだから……大体あそこまで5kmくらいの距離はあるな」
セレスは町の近くに転移するとは言っていたが、異世界でこれが少しだとすると、地球育ちである自分との感覚のズレが心配になってきた。
何はともあれ、まずはスキルの確認だ。
「ステータスオープン」
名前
性別 男
年齢 6才(27才)
職業 プログラマー
HP:50/50
MP:10/10
筋力:10
体力:30
敏捷:10
知力:10
器用:20
幸運: 5
固有スキル デバック LV 1
言語習得 LV 1
Bダッシュ LV 1
所持スキル 女神の絆 LV 1
女神の祝福 【呪い】LV 10
セレスに言われた通り、さっきまでなかったスキルが追加されていた。そしてその中に……不吉なスキル名が表記されていることにヒロは気付くのであった。
〈異世界ガイヤに降り立った勇者は……いきなり女神に呪われていた!〉
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