対異形戦
「柊! 大丈夫!?」
「ちょっと掠っただけ。それよりあれに見覚えある?」
おそらく僕らに何かを飛ばしてきた原因だろう、おぞましい姿の魔物を見据えながら僕は城田さんに問いかける。
人間のような頭に獣のように毛皮の生えた体、鳥を連想する足に鱗の付いた尾が付いていて、顔についている鼻は嘘を吐いたピノキオのように長かった。
「いや、あんなの知らない! 天狗っぽいけどあんなんじゃない!」
「じゃあやっぱり『異形』だね」
あのちぐはぐな外見からしてモモタの実験から生まれたというのはほとんどわかりきったことではあったのだが、念のため城田さんに確認を取った。
魔物なんて大抵はおぞましい姿をしているものだが、今回はそういうレベルじゃないほどのおぞましさだ。
形容しがたいとはああいうモノのことなのだろう、と改めて思うくらいにはそれは異常なものに見える。協会が勝手につけた名前とはいえ、『異形』という呼び名はあれを表すには的確だと改めて実感する。
『異形』はその大きさからは想像もつかないほど素早く動いて僕を蹴り飛ばそうと襲い掛かってきた。
僕がそれを防御しようとする前に、横から『異形』を吹き飛ばす一撃が放たれる。
そちらをチラリとみると土地神が『異形』に向かって手を翳していて、土地神が魔法を撃ったのだとわかった。
吹き飛んだ『異形』を追撃するように城田さんが接近していつの間にか生み出していた氷の剣を振るうが、その横からもう一体『異形』が現れて、城田さんを掴まんと人ほどの体には不釣り合いな大きな手を伸ばす。
「無視して!」
そちらに気を取られている城田さんに僕はそう言いながら、指向性を持たせた爆発を発生させ、城田さんを横から襲っていた『異形』を吹き飛ばす。
吹き飛ぶ『異形』に空気の槍を三本飛ばして突き刺し追撃を仕掛けると、城田さんが斬りかかっているほうの『異形』を見る。
城田さんは氷の剣を素早く振るい善戦してるように見えたので、槍を刺したほうの魔物を完全に倒してしまうことにした。
右腕から流れ出た血を触媒にして相手を炎で焼き尽くす。
それは温度にして何度ほどだろうか。十秒ほどで『異形』だったモノを灰に変えると何事もなかったかのように消えた。
完全に燃え尽きたのを確認したのち、城田さんの戦いの様子を窺う。
身体強化を使って『異形』を速度で圧倒して傷を増やしていく様子を見て勝てそうだと思いつつも、あまり長くやっていると新手の『異形』が来るかもしれない。
今日は戦闘用でない服装なので血は持ってきていないし、いくら人払いをしているとはいえ時間をかけると運悪く一般人が入ってくるリスクもある。
そして、僕も戦闘に参加したいのだが、それには一つ致命的な問題があった。
――誰かと協力して戦闘する方法がさっぱりわからない。
急に魔法を撃ったら城田さんはびっくりするだろうし、タイミングが悪ければフレンドリーファイアになりかねないので慎重にしなければならないのだ。
こういうことに慣れている魔法使いなら気にならないのだろうが、生憎僕はソロプレイばかりのぼっち魔法使い。チームプレーに慣れているわけもなく、上手いタイミングで加勢なんて器用なことはできそうもない。
だから仕方なく、城田さんのほうに動いてもらうことにした。
まだ右腕から少し流れている血を使って魔法の準備をすると、城田さんが動けそうなタイミングを見計らって叫ぶ。
「城田さん! 下がって!」
しっかり声は届いたらしく、バックステップで『異形』と距離をとってくれたので、僕は遠慮なく魔法を放つ。
さっきのように焼いたり切り刻んだりするのは城田さんに被害がある可能性があったので、使ったのは相手を一瞬で凍らせる魔法。
『異形』は何の抵抗もできずに凍り付き、一切の動きを封じられる。三秒ほど観察して完全に凍ったのを確認したのち、大きな空気のハンマーを生み出し凍った『異形』に叩きつけて粉々に砕き完全に処分した。
強い魔物だったためか人工的に作られたものだったからかはわからないが、『異形』の破片は雑魚魔物のように煙になって消えるといったことはなく、そのままその場所に残り続ける。
「おつかれ、柊。ありがと」
「城田さんこそお疲れ」
魔法で氷の欠片を全て回収し、たまたま鞄に入っていたレジ袋に詰め込みつつ僕は城田さんにそう返事をする。粉々に砕いてしまったとはいえ、欠片だけでも十分モモタ探しの役に立つ。
モノを創るというのは――たとえそれが禁じられている生物の合成や生命創造の類であったとしても――製作者と深い繋がりを残すものなのだ。普通の人間や魔法使いなどにはわからなくとも、その繋がりというのはたしかに存在する。
そして、存在するのであればそれを探し出せる能力の持ち主もいるのだ。
前回戦った『異形』は少しでも体を残すと再生しそうな気配があったので完全に消滅させるしかなかったが、今回のは再生する気配がないので大丈夫だろう。
少しも残さず回収しきれたことを確認すると、心配そうに僕を見る城田さんのことを逆に観察する。
この前の『異形』との闘いとは違い、怪我をしている様子がなくてよかった。
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