時間なんて関係ない
そんなこんなで水族館にやってきた僕らであったが、その道中ずっと気になっていることがあった。
土地神に後をつけられているのだ。
城田さんは気が付いていないようだが、確実につけられている。
途中チラチラと後ろと窺うと慌てて物陰に隠れるのがばっちり見えていたし、一般人には見えないのをいいことに改札を飛び越えるのも見えていた。見えないからとはいえ、無賃乗車は神としてどうなんだろうか。
まぁ実害があるわけではないので放置しているが、ずっとつけられているのはどうも落ち着かない。
「ねぇ柊、あの魚大きい」
城田さんは水族館の水槽に手をついて自由気ままに泳ぐ魚を見る城田さんの声はいつもより弾んでいる気がする。
案外こういうところに行くのは好きなのかもしれない。
まぁ、僕も後ろから監視してくる土地神がいなければもう少しテンションが上がっていたかもしれないが。
「ほんとだ。大きいね」
「あ、あの魚すごい色してる。ねぇ、今度はあっち行ってみよ」
「うん、いいよ」
明らかにいつもよりテンションが高い城田さんの後をついていく僕。
なんとなく城田さんの保護者になったみたいだなぁと一度思ってしまうと、もうそうとしか感じなくなってくる。城田さんの仕草がいつもより幼くなった気がするし、心なしかいつもより声が高かった。
「あれ見て!」「これすごい!」と様々な魚に興味を示す城田さんに微笑ましい気持ちになりながら後をついていっていると、いつの間にか二時間弱経っていた。
水族館を出た僕らは近くにあったファミレスに入ると少し遅めの昼食を食べ、雑談をしながらまったり過ごす。
その後は暫く二人でぶらぶらと店を回っていたのだが、城田さんが行きたいところがあるというので後についていく。
電車に乗って僕たちの最寄り駅まで戻ると、そこから歩くこと十数分。
着いたのはあまり人気のない公園だった。
「柊、気が付いてた?」
「ん?」
「土地神様につけられてる」
城田さんは小声で僕にそう言うと、ちらりと後ろを見る。
さすがに気が付くよね。
「うん、気付いてたよ。実害はないし放置してたけど」
「確かに害はないけど……なんか嫌だからこの公園まで連れてきてみた」
「まぁストーカーだしね。で、どうする? ボコる?」
「ボコる……って?」
「いや、一回ボッコボコにするのもありかなと。さすがに一日中つけられてうざかったしね」
「……え? 一日中?」
「うん。朝からずっとだったけど……気が付かなかった?」
「……うん、あの土地神ボコろう」
どうもどうやら城田さんはさっきまで気が付いていなかったらしく、僕の話を聞いて頬をひくつかせていた。
城田さんは人払いと遮音の結界を構築して一般人が入ってこないようにすると、僕にチラリと目を向けて「呼び寄せて」と言う。
おそらく城田さんは転移魔法を使えと言いたいのだろうが、今土地神はちょうど茂みに隠れていて見えない。
転移魔法は転移の対象を僕が視認できていないと使えないので、現状では転移させることができないのだ。まぁ転移魔法の制約はそれだけではないのだが――それはここではあまり関係のないことだろう。
土地神がいるであろう場所の地面を魔法で盛り上げ、土地神を僕の見える場所まで引きずり出すと、空気の手を生み出して拘束する。
空気の手でつかんだ状態で僕らの前まで連れてくると同時に、盛り上げた地面を直しておく。
「柊、ありがとう。さて土地神様、どうしてこんなことを?」
チラリと僕のほうを見て礼を言った後、すぐに視線を囚われの土地神に向ける。
凍り付くような冷たい視線と口調を向けられて、土地神は見てるこっちがかわいそうになるくらい狼狽えた。
「い、いやその……」
「人の許可なくストーカーしていいと思ってる?」
「そ、そういうわけじゃなくての……」
「何だって?」
城田さんはその華奢な体に似合わない氷の大剣を創り出すと、ズガッっと地面に突き立てて威圧する。
それを見てさらに目を泳がせる土地神。
一方僕は、妖怪でも緊張すると汗をかくものなのだな――と思いながら土地神の健闘を祈っていた。
別にボコボコにされたところで困らないが。
「ほ、ほら、おぬしはこういう外出になれとらんみたいだからあっしが見守って……」
「わたしの魔眼は嘘を見抜く」
「本当すいませんでした二人がいちゃいちゃするのを見てみたかったんです申し訳ございません」
土地神は一瞬小さな狐の姿になって拘束から抜け出すと、すぐに元の姿に戻って綺麗な土下座を決めた。
まぁ城田さんの威圧感はすごいからそうしたくなる気持ちもわかる。僕がその立場だったとしてもやはり同じことをするだろう。
「はぁ……まぁ今回は許してあげる」
「ありがたき幸せ……」
城田さんはそう言うと氷の大剣を消して溜息を吐く。
それで許されたと判断した土地神は土下座をやめて立ち上がろうとして――僕の感覚にピリッとした何かが走るのを感じた。
その感覚に従うまま目線を動かすと、何か判別できない塊が僕と城田さんのめがけて飛んできているのが見える。
城田さんはまだそれに気が付いていない。
今から何かを言っても間に合わないだろうと咄嗟に判断した僕は、城田さんのほうにできる限りの強度の防御魔法を構築し、僕は身体強化で礫を回避する。
城田さんのほうの障壁の強度は足りたようだが、僕の回避は完全には間に合わず少し右腕に掠ってしまった。
服が切れて血が出るのを感じるが、僕は傷を確認するよりも先に攻撃を放ってきた相手を見据えて次の動きに備える。
……まだ昼下がりといえる時間だというのによくもまぁ現れるものだ。
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