事情聴取


 そのまま連れていかれたのは『支部長室』と書かれた部屋で、中にはそこそこ広く高そうなソファーがテーブルをはさんで二つ向かい合わせで置いてある。

 僕と城田さんがソファーのドア側に腰掛けると、おじさんは僕らの正面に座って名刺を見せながら、先程とはうって変わって真面目な口調で自己紹介する。


「日本魔法協会日摩支部長の浜田はまだ秀作しゅうさくだ。詳しく話を聞かせてもらえないだろうか」

「あの……何で急にそんなかしこまった態度を……?」


 浜田さんのテンションのギャップにたじろぎながらも何とかその理由を尋ねると、浜田さんは真面目な顔で答えてくれた。


「雪はこの支部でもトップクラスに強いからな。そんな雪が、シュウがいなければ死んでいたかもしれないとまで言うんだ。誰だってただ事ではないことはわかる」

「なるほど。納得ですね」


 正直城田さんはそこまで強いとは思っていなかったが、どうもどうやらそうではないらしい。

 だがよく考えてみればたしかに同世代の中では強いと思うし、あくまでもここは支部なので日本の魔法協会の実力そのものではないだろう。

 その点僕の所属していた場所はこちらで言うところの本部のようなものだったので、単純な比較はできないことを考えると、城田さんがトップクラスに強いというのは確かにその通りなんだろう。と納得する。


「で、話を聞かせてもらえるかな?」

「経緯はわたしのほうが知ってるから、わたしから話す。

 前もって報告しておいた通り学校に妖怪がいるって情報があったから、それを調査するために普通に過ごしつつ妖怪の痕跡を探した。けど、全く痕跡が見つからないにも関わらず数日おきに被害は発生した。

 魔眼で見つけられないほどの妖怪にはわたし一人じゃ勝てない可能性があったけど、本部に連絡して救援を要請するほどの甚大な被害はなかったから本部には報告できなかった。そこでわたしは柊に協力を要請して、柊もそれを受け入れてくれた。

 新月の日を避けて昨日魔物を討伐しに夜学校に向かったところ、音楽室で怪我をした土地神と遭遇した」

「土地神だと? しかも怪我した?」

「そう。話を聞いた範囲だと、何者かに傷つけられて学校に逃げ込んだらしい。ただ、人を傷つけることはしてないと言っていたからおそらく被害を出したのは別だけど……たぶんもう学校にはいない。

 さらに詳しく話を聞こうとしたところ、正体不明の妖怪に襲われて戦った。

 その妖怪は全身真っ黒で、最初は人と変わらない大きさだったけれどみるみる巨大化して校舎よりも大きくなった。わたしは戦ってる最中にいろいろあって意識を失って、それから柊が倒したらしい」

「本当か?」

「は、はい。間違いなく『異形』は倒しました。それでその件で話があるのですが、城田さんがいると――」


 僕がそう言いながらチラリと横に座る城田さんを見ると、城田さんは首を傾げた。

 さらりと柔らかそうな髪が揺れて一瞬目が奪われるが、僕はすぐに視線を切って正面の浜田さんを見る。


「わかった。雪、少し外してくれ」

「……うん。終わったら教えてね」


 城田さんは少し不服そうな顔をしたものの、大人しく立ち上がって部屋の外に出てくれる。

 ドアが閉まったのを確認した後、会話が外部に漏れないように遮音の結界、さらに魔法での盗聴を防ぐために対魔法の結界、さらに部屋に物理的に侵入されないような結界も構築した。


「浜田さん。僕はこれから機密について話します。くれぐれも他言無用でお願いしますね」

「…………なぜ俺に機密を話す必要が?」

「詳しくは言えませんが――情報の共有が必要だからです」


 実を言うと、ここに来るまでは浜田さんにこのような話をする予定ではなかった。

たしかに僕一人だと調査は大変だが、決して不可能ではないし不用意に情報を広めるのはリスクが高い。

 しかしながら、城田さんがここでトップクラスに強いとなると話は変わってくる。正直に言って、この支部の戦力を高く見積もりすぎていた。

 もし仮にまた『異形』が現れた場合ここにいる戦力だけでは対処不能な可能性が非常に高いし、もし倒せたとしても甚大な被害を受けるだろう。だがそうなる前に教えてくれればそれに対処ができる。

 それに、機密とはいってもそこまで大袈裟なものではない。

 話が広がるのは問題だが、浜田さんに対して黙っておくことで明確なデメリットが発生しかねないのであれば言ってしまっても大丈夫だ。まぁ、わざわざそこまで説明はしないが。曖昧な表現をして変なふうに解釈されても困るし。

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