二章「これが常識との乖離」
屋内だろうと襲われる
『日本魔法協会』
それは日本の魔法使いを管理したり、魔法使いたちに魔物討伐などの仕事を割り振ったり、魔法使いの犯罪などを取り締まる機関だ。
魔法協会というのは国ごと、もしくは地方ごとに存在し、それぞれが連携して動いている。
ちなみに僕が所属しているのはヨーロッパ魔法協会というところで、ヨーロッパ内なら国境関係なく仕事をする機関であり、基本的に大規模な魔物討伐や国境を超える魔物の処理などが仕事。
ヨーロッパ魔法協会の下位組織として各国の魔法協会が存在しており、それぞれの協会の橋渡し役といった面もある。
閑話休題。僕が今いるのは日本魔法協会の支部の一つ。僕の住む家から徒歩十数分といった近さにあるとある建物の中だ。
一見するとただの飲み屋にしか見えないそこは魔法使い以外が入れないような結界がはられていて、まさに魔法使いの溜まり場となっている。
そんな中で僕が今何をしているかというと――
「よくも雪に手を出してくれたなぁ!」
――スキンヘッドのいかついおじさんから
おじさんの握る氷の剣が僕の防御を破らんと刃を煌めかせ、僕はやられてたまるかと必死に防御を繰り返す。
基本的に僕の戦闘スタイルはやられる前にやる、攻撃こそ最大の防御、先手必勝といった感じの攻撃的なものだ。
なのでこのように防御を強いられる状況というのは苦手なのだが、だからかといって城田さんの知り合いらしいおじさんに攻撃をするわけにもいかず、ひたすら防御をするしかない。
「おじさん! 柊はわたしに何もしてないから!」
城田さんはそう言って氷の剣を振り回すおじさんを止めようとするが、城田さんの制止もお構いなしに僕を殺しに来ている。むしろ、城田さんが制止しようとするたびにヒートアップしてるような気がした。
「名前呼びだと!? なおさら許せん‼ うちの雪を誑かしおって‼」
「ちょ、落ち着いてください!」
見事な太刀筋と言いたいところだが、受ける側としてはたまったものではない。
こうして受け続けるのも簡単ではないし、昨日使った魔力がまだ全回復してないので魔力量も心許ない。
かといって魔力を出し惜しみすると死にかねないほどの殺意が込められているのを感じて、僕は冷や汗をかく。立川といいこのおじさんといい、日本の男性は僕をビビらせることに全力なのだろうか。
「ストップ!」
城田さんはそう大声をあげながら氷の槌を出しておじさんに向かって思いっきり振るう。
しかしおじさんはそれを軽々しく避けると、城田さんの制止を気にも留めずに僕に斬りかかってくる……という流れをもう三度も繰り返しているのでいい加減僕も慣れてきた。
「は、話をしましょう!」
「話など不要!」
「城田さん! この人ぶっ飛ばしていい!?」
いい加減僕のほうも我慢の限界になってきた。
城田さんの知り合いだから手荒な真似はしたくなかったが、さすがにずっとこのままというのは困るので一回吹っ飛ばしてしまいたい。というかだんだん我慢の限界になってきた。
「いいよ。壁とか壊しても大丈夫!」
「あ、いいの?」
まさか許可が下りるとは思わなかったので、僕は驚いて聞き返してしまう。
……よし、言質はとった。
じゃあお言葉に甘えて――
僕は相手の攻撃後の一瞬の隙をついて空気の大砲でおじさんを吹き飛ばす。威力は控えめで若干クッション性を持たせて怪我しないようにしたが、その代わりに躱せないように範囲を広くした。
相手の不意を突いた一撃は見事におじさんを数メートル吹き飛ばすことに成功する。
錐もみ状態で飛んで行ったおじさんは、木製の壁に頭からめり込んでピクピクと痙攣した。。
当たり所が良かったせいか、想定外に飛んでいった。だいぶダメージを与えたと思っていたのだが、おじさんはすぐに壁から抜け出すとギラギラした目で僕を見る。
そのまま見つめ合うこと数秒。おじさんは唐突に僕に近づくと口を開いて、
「うむ! 合格だ!」
と言った。
合格も何もいったい僕は何を試されていたのかもわからないし、バンバンと僕の肩を叩くおじさんの力が強くてそこそこ痛い。
何故か
ガハハと僕の肩を掴んで笑うおじさんのスキンヘッドを、城田さんは素手でスパンと叩く。
「急に襲い掛からないで! 反撃されて殺されても文句言えないよ!」
「それはそれで一興だ! それに俺もちゃんと相手に本気を出させない程度に加減はしている! まぁ、この坊主は想定外に強かったけどな!
坊主、名前は何て言うんだ?」
「は、灰野柊です」
「シュウか! ばっちり覚えたぞ! 今日はどうして来たんだ!?」
「学校の魔物を倒すのに協力してもらったから連れてきた。
……わたし一人だったら死んでたかもしれない」
城田さんがそう言った瞬間おじさんも周りの魔法使いも一瞬で真面目な顔つきになり、城田さんに視線が集まる。
一体どうしたというのだろうか。もしかしたら何か今の発言の中でやばそうなものがあったのかもしれないが、僕には全くわからなかった。
「……二人ともこっちへ」
おじさんは急に真面目な声になると、僕と城田さんを建物の奥に引っ張っていく。
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