第13話
「博士?スカートの下にいる筈のふくらはぎちゃんが見当たりませんが?」
「ああ、これ?最近この辺りで魔法を使ってスカートを捲るスケベ研究生が出没するって噂があって危険だから隠れて貰ったわ。」
博士はスカートを履いているが、その下に俺達と同じ制服のズボンを履いている。完全防備、ということか。
「そんな訳だから今日は捲りたいだけ捲って良いわ。さ、やってみて?」
「えー…。」
何が悲しくて制服のズボンを見なきゃならんのだ。
「ほら!手繋いであげるから!」
…とりあえず手は繋ごう。
昨日と同じように向かい合って手を繋ぐ。
「……。」
にぎにぎ。博士は可愛いなぁ。
「……。」
「……。」
にぎにぎ。博士は可愛いなぁ。
「…ちょっと?」
「邪魔しないで下さい。今集中してるんで。」
「あ、ごめんなさい…。」
「……。」
集中。しゅうちゅう。ちゅう。チューしたい。
…ブルゼットと付き合ったらチューはして貰えないんだよな。して貰えないというか、して欲しいと思うのも駄目だし、そんなことを考えること自体も駄目だろう。
「……。」
「……。」
「…真面目に捲ろうとしてる?」
「え?」
青ジト目がこんなに近くにあるなんて!
「え?じゃないでしょ?もう!昨日のやる気はどこ行っちゃったのよ?」
「え?昨日?何かありましたっけ?」
「え?昨日あなた、私のスカート捲って…。」
「え?忘れちゃったからその辺り詳しくお願いします。」
「いやだから私のスカートを捲って…その…はっ!?そういうこと!?」
「おへそなんて忘れちゃってますから、その辺り特に聞きたいです。」
「…頭に強い衝撃を受けると記憶が飛んじゃうことがあるらしいわ。偶々だけどこの机は持ち易くて私の手にしっくりと馴染む…。」
「おや?俺はここで一体何を?」
手に馴染む机ってどんなだよ…。
「…もう良いからさっさと捲って。昨日のが偶々なのかどうかも知りたいし、とにかく何回もやってみないと。」
「いやでも多分無理ですよ。別に捲りたくないですもん…まぁ良いや、めくれろ…ほらね?」
「なんて気の抜けた命令なの…昨日みたいにもっとこう、ワッと叫んでバサーッみたいな感じでやってよ。」
「いや捲ったとて何らの夢も無いと言いますか…ほら、精霊もやる気無いですよ?」
「え?あなた精霊が見えるの?」
「見えませんよ。俺の想像です。」
「…むぅ。」
「…博士。提案ですが。」
「無理。」
「まだ何も言ってませんが?」
「下、脱げって言うんでしょ?無理。」
「え?俺と別れてくれ、って言おうとしてたんですけど、そっか無理かぁ。」
「何で付き合ってないのに別れるのよ…真面目にやってくれる?」
「はい。博士、下、脱いで下さい。」
「無理。」
「博士、昨日言ってましたよね?研究の為なら少しくらい恥ずかしいことは我慢して、俺の言う事なんでも聞くって。」
「そこまでは言ってない。そして、無理なものは無理。」
「何でですか?俺の魔法だってちゃんと出来る訳じゃないかもしれないし、なるべく同じ状況で比較しないと…。」
「…はいてないの。」
博士が顔を赤くして小さな声でボソッと呟いた。
「え?」
まさかパンツ履いてないとは!?
「今日はその、ズボン履くから良いやって思って、その…ストッキング履いてないの…。」
「なんだ、パンツ履いてないのかと思った。俺なら大丈夫ですよ?」
「私が大丈夫じゃないの!万が一魔法が上手くいって見られちゃったら、私…私は、あなたの息の根を止める事になる!」
そんなにか…。
「…では博士、聞いてください。」
にぎにぎ。
そういえばずっと手繋いで、恋人同士みたいだ。向かい合っててちょっと変だけど。
「俺は、俺が博士のスカートを捲りたい、そして博士の恥ずかしい姿を見たいという切なる願いに精霊が賛同して手伝ってくれる、そう信じてます。でも博士はスカートを捲られたくはない、そうですね?」
「真面目な顔でとんでもないこと言ってるけど…そうね。」
「ではこうしましょう。博士は下を脱ぐ。でもスカートは手で押さえて下さい。」
「でもそれだと手が…。」
「そう、手は繋ぎません。手を繋がなくても魔法が使えるのか、という実験にしませんか?」
「なるほど、確かにそれなら私も殺人を犯さなくても済む!解ったわ、ちょっと後ろ向いてなさい。」
手を離して素直に後ろを向くと、ごそごそと音が聞こえる。これはまたなんとも悩ましい時間だ。
悩ましいと言えば、忘れてたけど、ブルゼットだ。あとでちょっと博士に相談してみるか?いやでも博士に相談なんてしても…。
「はい、い、良いわよ?」
振り返ると、スカートの下には生足、ちゃんとふくらはぎちゃんが見える。おお、君はそんなに美しい色だったのか。足首ちゃんも、久しぶり!
「それじゃ早速いきますよ?」
「ちょっと待って!早い!…ふー、よし!いつでも掛かってきなさい!」
気合を入れてスカートの膝辺りを押さえる博士。
「では、参ります。」
ふふ、博士?そんな細い腕で押さえ切れると思ってるんですか?笑止!さ、精霊さん、お待たせしました。俺を天国に連れてっておくれ。まぁもしかしたら本当に天国に行く事になるかも知れないけど。
よし!精霊、頼むぞ!
「捲れろ!」
刹那。
一陣の風が博士のスカートを捕らえて捲り上げ、博士のスカートの端が持ち上がったかと思うと、押さえてる手のところで止まり、そして可愛い膝が見えたところで博士の前髪を撫でて消えた。
「出来た…出来たね!凄い!凄いよタキ君!」
興奮を隠し切れない様子で、スカートの中を隠し切った博士が喜んでいる。花の咲いたような笑顔はやっぱりとても可愛くて、やっぱり俺はこの人が好きなんだよな…。
だが精霊。お前、どうした!?いつものお前じゃないぞ?え?力が出ない?そうか!手を繋いでないからだ…ズボン脱がすことで頭がいっぱいで…これは完全に俺のミスだ、すまん。え?リベンジしたい?そうだなぁ次はきっと…え?今?お前、見かけに寄らず、負けず嫌いなんだな。そうか、解った。お前がそう言うなら仕方ない。負けたよ、お前のやる気にはさ…。
「魔法紙の力だけでもちゃんと使えたじゃない!早速記録して、あとでもう一度、いえタキ君さえいけるなら出来るだけやってみましょ?それじゃ、ちょっと待ってて!今ぱぱっと書いちゃ…。」
「博士?ほいっと。」
俺のペンケースを放る。
記録するならペンがいるもんね。
「え?わっとと、ちょっといきなり…。」
「捲れろ!」
・・・・・。
びし。
ばし。
無言で、振り下ろす手を止めない博士。
「いたい。そしてひどい。そして箒で人を叩いてはいけません。」
「あら?私は人を叩いてなんかいない。箒で掃除をしているだけよ?人を騙して下着を見る変態のようなゴミをね!」
笑顔でびしばし叩いてくる博士。まぁこれはこれでちょっと気持ち良い気がしてくる。って、こっちの方が変態っぽいな。
「もう一度やろうって言ってたじゃないですか。」
「だ!れ!が!人が無防備な時にやれって言ったのよ!その無防備だってあなたがそうさせたんでしょうが!」
びし。
「まだ!誰にも!見せたこと無かったのに!」
びし。ばし。びしばし。
「今晩お披露目予定でチェック柄は旦那さんの趣味ですか?」
「ちがう!そうじゃないでしょ!あぁんもうホントにお嫁に行けない!」
びし。
「お嫁なら俺が貰いますってば。そして博士はもうお嫁に行ってますってば。」
「今はそんな話してるんじゃありません!あぁぁあ…もう!」
びし。
…それから。
今日はこれ以上はやらないと言われ、魔法紙は取り上げられた…にも関わらず博士はズボンを履いた。バイバイふくらはぎちゃん、足首ちゃん。
まったく、精霊の負けず嫌いのお陰で酷い目にあったぜ。でも俺、お前のそういうとこ嫌いじゃないぜ?いや嫌いじゃないっていうか、その、好きだぜ?きゃっ言っちゃった!
…折檻用箒や無防備用ペンケースを片付けて、週終わりの掃除を無事終えた。博士が落ち着きを取り戻したところで切り出す。
「博士。ちょっと相談があるんですけど良いですか?」
「ん?何?」
「恋愛相談なんですけど…友達の。」
「友達の恋愛相談?良いけど力になれるかは解らないよ?こんなおばさんだし。」
こんな可愛いおばさん、他にいない。いる訳ない。
「いえ、俺もどう言ってやれば良いか解らないんで、聞いて貰うだけでも。」
「複雑、なのね。聞くだけは聞きましょ。どうしたの?」
「友達が女の子に告白されたんです。でもそいつ、他に好きな人がいるみたいで。」
「ふぅん。なら断れば良いじゃない。駄目なの?」
「いえその、友達の好きな人ってのが結婚してるらしくて。」
「…ふぅん。それなら、その告白してくれた子と付き合えば良いじゃない。その子のことを嫌いじゃないならね。それで丸く収まるでしょ。」
「でも、他に好きな人がいるのに、良いんでしょうか?」
「それは告白した子だって気付いてる筈よ。例え他に好きな人がいるって言ってなくても、相手の気持ちが自分に向いてるかどうかなんてすぐ解るわ。女の子はそういうのに敏感だから。それでも告白して来るのは、それでも付き合いたいって思ってくれてるってことだから、良いに決まってるじゃない。」
「なるほど、友達にはそう伝えます。付き合った方が良いって言ってやりますよ。いや流石ですね、助かりました。」
「ふふ、女の子歴は長いですから。」
「はは…ちなみになんですけど。」
「なぁに?」
「その結婚してるっていう友達の好きな人も、多分女の子なんで、友達の気持ちに気付いてると思うんですよ。気付いてるも何も、好きだって伝えてるみたいだし。」
「…うん。それで?」
「それで俺、の友達が告白を受けて付き合って、どう思うんですかね?」
「そうねぇ…私はその人じゃないから解らないけど、多分、おめでとうって喜んで、あとは何とも思わないんじゃない?」
「なんとも…ですか?」
「ええ、なんとも。その人は結婚してるからね。ちょっとくらいは妬くだろうけど、おめでとうって気持ちが大きいでしょうね。ただ…。」
「ただ?」
「ただ、おめでとうって言った日はちょっとだけ、旦那さんに甘えちゃうんじゃないかしら?」
・・・・・。
「おっす。一昨日ぶり。1人でちゃんと買えた?」
「昨日になってただろうが。子供じゃないから1人でお買い物くらい出来るわ。ほれ。」
「おお、可愛いな。なんて花?」
「パンジーだそうだ。」
「パンティー。」
「シンさん?朝ですよ?」
「すまん、つい…花言葉は?」
「この色だと、あなたのことで頭がいっぱい、だそうだ。」
「ベタ惚れだな。こっちが恥ずかしいくらいだ。」
「昨日は恥ずかしかったぞ。花屋のおばさんに滅茶苦茶からかわれたわ。」
「そりゃそうだろうな。俺でもからかうわ。」
「だからさ、仕返しに言ってやったのよ。俺がもう少し早く生まれてたらあなたにこの花を送ったのに、ってね。そしたら顔真っ赤にしちゃってさ、この如雨露くれた。」
「お前、もう知らないからな。」
ガチャリ。
「おはようございます。」
「おはよ。こないだの友達の話、どうなったの?」
「いきなりですね。気になります?」
「べ、別に?ただ、話聞いちゃったから、どうなったのかなって…なんとなく?」
「実は俺も知らないんですよ。」
「え?なんで?」
「その友達とは、そんなに仲良い訳じゃないですし。でも博士に言われたことはちゃんと伝えましたよ?気にせず付き合った方が良いよって。」
「…そう…そっか。」
「そうそう。そんなことより、ほら!お花買ってきました。こないだ博士が居なくて1人で掃除してた時に、あったら良いなって思いまして。花、嫌いですか?」
「え?嫌いじゃないけど…そのお花…。」
「パンジーっていうんですよ。」
「それは見れば判るけど…。」
「あ、知ってました?可愛いですよね?窓のところで良いですか?よし!ほら、如雨露もあるんですよ。これはおまけして貰ったんですけど、ちっちゃくて、この鉢なら丁度良いですね。」
「……。」
「いやぁ花なんて買うの初めてだったから緊張しましたよ…って、あれ?この花は気に入りませんでしたか?」
「え?ううん、そんなことない!そんなことないけど…。」
「なら良かった!博士の目の色みたいだなぁって思いましてね?ちょっとキザかと思いますが、まいっかって。」
「…その、花言葉…。」
「花言葉?」
「その花の花言葉よ。聞かなかったの?」
「…さぁ?知りませんね。博士知ってるなら教えて下さいよ。」
「…さぁ?私も知らないわ?」
今日研究室に入ってから初めて、博士の笑顔を見た時。
それは、俺と博士が同じ嘘をついた時だった。
〜〜 第一章 完 〜〜
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