お題:理想的な仕事 必須要素:テレビ

ある日私のもとに一通のメールが届いた。

曰く、テレビを見てその感想を書いてほしいと。何分見てもいいし、どの番組を見てもいい。ただ、毎日テレビをみてその感想を送ってほしいと。

手付金としてWeb通販のギフトカード1万円分が添付されていた。

当然怪しい。だが、このメールアドレスは普段メインで使っているものでもなかったので、いざとなればアドレスごと破棄してしまえばいい。


こうして、今までは据え置きゲームのディスプレイの役割しか果たしていなかったテレビが、本来の役目を果たし始めることになった。


送られてくるお金は感想の文字数によるらしく、1文字で10円だった。日の終わりに感想を送ると、翌日ギフトカード付きのメールが送られてくる。元々テレビを見ることも文章を書くことも好きだった私からすれば、理想的な仕事である。


私は書き続けた。書いたものが何に使われているのかは知らない。試しに検索エンジンに自分の書いた文章を打ち込んでみても、全くヒットしない。

不可解ではあったが、きちんとお金が送られてくる以上は深く追求する動機もなかった。


そんな生活を5年ほど続けた。

私は他にやっていたバイトもやめ、テレビの感想を送る仕事一本になっていた。

私は布団から起き上がると日課となったテレビを点けた。5年間見続けても飽きないのだからテレビというのは大変なメディアである。

「大変です! 宇宙人が現れました!」

画面の中に、慌てるニュースキャスターとアダモスキー型のUFOが映し出されている。

このくらい分かりやすい出来事が起きてくれると、感想を書きやすいな、と思う。

ふよよよよよよよという擬音とともにUFOに吸い込まれていくレポーターを見ながら、頭の中で今日の感想を組み立てる。

UFOがビームを放った。

灼ける街、逃げ惑う人々。

日本は、いや世界は滅びるのかもしれない。


素晴らしい。これなら今日は1万字だって書けそうだ。

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