水蓮。

苔田 カエル

水蓮。

妻を亡くした悲しみか、

名高い学者が山奥に籠ってしまった。

娘は物心ついた頃には田舎暮らし。


おっとりとして、それでいて嫋やかで、

娘の成長を父は嬉しく思うが、

その境遇に胸が痛んだ。


ある日、東国より男がやって来た。

醒める様な美貌の男子で、

一目でその姿に娘は心奪われた。


男は娘が居るとは聞いていたが、

立身出世第一で恋は二の次。

とは言え、思わぬことは起こるもの。


誘われるがまま月に浮かぶ道を行くと、

遠くに艶やかな黒髪を見た。

男は惑うが、身分不相応と諦める。


が、思いは高まる一方。

抑えきれずに娘の部屋に忍んで行った。

狼狽える様子が愛おしい。


三日目の晩、

男は娘の顔に明かりを近づけ、

一瞬、躊躇った。


昼頃、

水盤に水蓮を浮かべ手紙を結び、

下女が男からだと持ってきた。


覗くと小魚が泳いでいる。

と、娘は愕然とした。

そこに痘痕だらけの顔が、


あの躊躇いは、

娘は悲しみのあまり身を投げた。

残された父の悲しみは例えようもない。


人目を避け田舎に籠って、

鏡ならず映る物全て捨て、

ひた隠しにしてきたものを、


その後男は高熱を出し、

元より悪い視力は見えなくなった。

それから学者は都に帰った。


男は剃髪して、

一生、その地で、

娘の弔いをしたという。











































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水蓮。 苔田 カエル @keronosuke3

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