2.
「なーんで別れちゃったの~? まあまあイケメンだったし、優しかったんじゃない?」
アカネがストローをかじりながら私に言ってくる。もう何度目の質問だろう。
「だから、なんか合わなかったんだって」
その度に同じ答えを返していくけど、彼女たちはそれでは納得しないみたいだ。
「ま、今回はひと夏もったんだし、ハナにしては我慢した方だよ」
うんうんと頷きながらサヤカが言う。
アクセサリーとしての関係でいいから持っていないと、彼女たちはいちいちうるさい。そして、自分のアクセサリーを自慢し合う。
どこがカッコイイ、私をチヤホヤしてくれる、優しい。全部ステイタスであって、その人じゃないことばかりだ。
でも、そういうもの。その関係があるかないか、持ってるかどうかでこの2人との関係も終わってしまう。次を適当に見つけなくちゃとは思うものの、ひどく億劫だった。これは夏の暑さがまだ残っているせいだろうか。
キーンコーンカーンコーン―――。
「あ、予鈴だ。教室戻るね」
「え~? サボっちゃおうよ」
「うん、また今度ね」
「なになに~、彼氏と別れたから勉強に力入れる系?」
からかう2人にひらひらと手を振って、自分の教室に戻った。
2人と授業をサボって、お菓子を食べながら適当な話をしているのも高校生っぽい大事なことではある。2人が言うままに一緒に行動していたのに、最近では授業に出るようになった私。
「起立、礼、着席」
教室に広がる黒い群れが、俯いたり傾いたりした。
一番前のど真ん中。あの日、梅雨の日に見かけた人はそこに座っている。同級生だった。それも同じクラスだった。全然気づかなかったけれど、一度分かってしまうと私の目は彼に引き付けられて、無意識で辿っている。
授業開始から5分と立たずに、こっくりこっくり居眠りをしている。
「常人の、恋ふといふよりは、あまりにて、我は死ぬべくなりにたらずや」
シャーペンを顎に押し当てながら、鼻だけで笑ってしまった。死ぬほど恋しく思うことなんて、あるもんか。
「えー? 優しくしてくれて、顔がそこそこ良ければそれでよくない?」
いつかサヤカが自分の彼氏のことをそう言っていた。
じゃあ私の、この満たされない気持ちは幻想だって言うんだろうか。
のたくった文字が黒板を埋めていくのを眺めると、教卓の前で寝ている彼が目に入る。きっと彼は満たされない気持ちなんて知らず、自分の人生を謳歌してるんだ。
授業中の寝ている態度にも、休み時間に同じ部活の子たちと笑っている時にも、私にはないものがあるように思えて仕方ない。
考えていたのに考えないようにしていたこと。それをあの日彼に見つめられただけで、気になり始めてしまった。どうにか目をそらして、それなりのところで上手く付き合って来たのに。
彼が私を見たのはただの気まぐれか、景色を見るような感覚だったのかもと思ったりする。私という適当な人間を、適当な理由をつけて見る同級生には、ない感覚。
どうして彼にそんなことを思ってしまうのかが自分で分からない。
どうして今までできたことができなくなってしまうのか分からない。
これが恋だなんて思わない。
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