3.

 カラオケの爆音が耳に痛い。音痴ではないけど、誰かの歌を聞き続けるのが苦しくなってきた。でも、みんなの前にいる私はとても楽しそうに振る舞っている。ケラケラと笑い、楽しいことだけに貪欲で、サヤカと踊ったり。


 冬服に衣替えがあった頃、アカネと一緒に教室でサヤカを待っていた。なんとなく窓の外に目をやりながら、だらだらと話していたら見てしまった。


 彼が、誰かに告白されているところ。


 告白されるような外見なのかとか、人気があるのかどうかとか、女の子が好きなのかどうかとか、そんなことを一瞬のうちに考えていた。全部の考えが、あの映像とくっついて離れず、気持ち悪くなって。アカネとの会話で、いつもよりテンションを上げて、必死で楽しいふりをしていた。


 そうしたら、あっという間にサヤカの彼氏の友達を紹介されて、くっつくよう計画されて、なし崩し的に一緒にいるようになった。


 楽しいことに身を任せていれば、時間は早く過ぎるからって理由だけなのに、私が心の底からそう思っているみたいに、きっと思われている。


 何一つ楽しくない。何も笑えることなんてない。何も楽なことなんてない。


 なのに、私は笑うことをやめない。やめることができない。


 やめてしまったら、そこにいる自分を認めなくちゃいけなくなるから。こんな関係を下らないと思っていて、だけどしがみついていたいなんて矛盾してる。


「疲れた」


 帰り道、無意識で口に出ていた。


「たくさん歌ったもんね~」


「あんたたちは踊りすぎでしょ」


 都合の良い方に受け取られたようだけど、それが答えじゃない。こんなに近くにいるのに、何も教えてくれない。私のこと。私がどんな人間に見えるのか。こんな友達関係をどう思っているのか。恋って何。満たされないのはなんで。どうして上手に生きられるの。悩んだりしないの。そんな自分が嫌になったりしないの。


「じゃ、また明日~」


「バイバイ」


「またね」


 昨日と同じあいさつをして2人と別れた。身体の疲れと頭の疲れがどっしりとのしかかる。


 パンクした疲れが、涙になって地面に落ちた。


 俯くと、爪先に少し泥のついた茶色のローファー。この汚れがあの日のものだとは思えないけど、簡単に結びつけてしまう自分がいる。


 この地面は、あの時立っていた自分が踏みしめていた地面と同じだってことが、私を励ましてくれている気がした。

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