花の枯れる未来を断つ(5)

「仙技や仙術ではない特別な力?」


 水月から唐突な質問を受けて、秋奈あきな莉絵りえは少し考える素振りを見せた。ファミレスで檜枝と別れた後、その足で訪れたQ支部でのことだ。


「えーと……そういう話は聞いたことないけど、強いて言うなら、幸善ゆきよし君みたいなこと?」


 記憶を探るように遠くを見ながら、秋奈が例として頼堂らいどう幸善の名前を出し、水月はハッとした。


 言われてみれば、幸善の持っている妖怪の声を聞くという力も、仙技や仙術に該当しない力だ。それを基準に考えれば、他に特別な力が存在していても不思議ではない。


「特別な力がどうかしたのか?」


 水月よりも先にQ支部を訪れ、部屋の中で刀を構えていた葉様はざま涼介りょうすけが声をかけてきた。

 普段は水月と秋奈が話していても、遠くで聞き耳を立てる程度の葉様だが、流石に水月の持ち込んできた話題が気になったようだ。


「実はさっき檜枝さんという方に逢って、その人にちょっと危ないところを助けてもらったんです」

「どうしたの?強盗にでも襲われた?それとも野犬?」

「そんな治安の悪いところに住んでませんよ。子供とぶつかって転びそうになっただけなんですけど、その檜枝さんはそれを先に分かっていたみたいに動いて、話を聞いたら『少し先の未来が見える』って」


 自称・予知能力者。水月の話を聞いたことで秋奈は納得した顔をし、葉様は眉を顰めていた。


「ああ、それであんな質問をしたのね」

「詐欺じゃないのか?」


 葉様の物言いはいつものものだったが、それに水月が怒ることはなく、ゆっくりと首を傾げた。

 実際、詐欺という可能性自体は水月も考えたものだ。


「最初はそれも思ったんだけど、そういう感じじゃなかったんだよね。騙そうという感じがなかったし、実際に未来が見えないと分からないことも分かっていたし。もしも、そういう前例があるのなら、秋奈さんに聞いてみたいと思ったんですけど」

「ああ、ちょっとね……ごめんね」


 秋奈が申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ、水月はとんでもないとかぶりを振った。自分が知らないように秋奈が知らない可能性も十分にはあった。それは気にするほどのことではない。


「それでここに来たってことは被害に遭ったわけじゃないのか。それなら、詐欺の可能性は薄いな」

「あっ、いや、それが……」


 水月は懐からメモを取り出し、秋奈や葉様の前に出した。そこには檜枝の名前と連絡先が書かれている。


「連絡先を交換して、また逢うことになっていて」

「何故だ?」

「いや、その力のことでいろいろ苦労されているみたいだし、何か相談に乗れたらなとか、その……まあ、力のことも気になったから、連絡先くらいは聞いておいた方がいいかなって思ったら、向こうからも同時に聞かれて、それでまた逢う流れに」

「いや、何故だ?」

「特別な力が原因で年の近い人と話す機会がないとか言われたら、流石に断れないから……」


 尻すぼみになっていく水月の声を聞き、葉様は頭を抱えて、大きな溜め息をついた。


「こういう奴が騙されるのか……」

「いや、まだ詐欺と決まったわけじゃないから!」

「そうだが……これを買えば、未来が見えるようになるとか言われても、怪しい壺とか石とか買うなよ」

「買わないよ!?」


 水月と葉様のやり取りを眺め、隣で秋奈がからからと笑い出した。


「笑い事じゃないと思うが?」

「いやいや、涼介君は悠花ちゃんのことが心配なんだなって思って」


 ニヤニヤと笑いながら、秋奈が葉様を見つめると、途端に葉様は不機嫌な顔になって、小さく舌打ちをした。


「そういうことじゃない。馬鹿が馬鹿を晒しているのを見るのが嫌いなんだ」

「馬鹿じゃないから!葉様君こそ、もう少し人を信用することを覚えたらいいんじゃない!?」

「それは……」


 何かを言おうと口を開いてから、葉様はそこで固まって、何も言うことなく水月に背を向けた。


「それは、何なの?」

「…………知らん」


 そう言って、水月や秋奈から離れる葉様の姿にもやもやとした気持ちを抱えながら、水月は不機嫌そうに眉を顰めた。


「まあ、悠花ちゃん。詐欺とは言わないけど、逢うなら話は慎重にね。詐欺の場合は気をつけるだけでいいけど、その力が本物だとしたら余計にね」

「はい……?分かりました……?」


 そう答えながらも、その時の秋奈の忠告の意味は良く理解できなかった。

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