星は遠くで輝いている(28)

 莫大な仙気を保有し、一度見たことのある仙技のほぼ全てを模倣する序列持ちのNo.1、サイス・ハート。


 そのハートと比べられることの多いダーカーだが、仙人としてハートほどに特異な特徴があるわけではない。


 仙気の量は仙人の平均と比べると多いが、それも誤差の範囲だ。平均的な仙人と同じだと判断しても差し支えのない程度であり、それが特別に語られることはない。


 他の仙技を模倣する才能ももちろんなく、それどころか、全体的に使用できる仙技は少ない方だ。幸善より少し多い程度で、その点から見ると、仙人として未熟と思われるかもしれない。


 では、どうして序列持ちの一人に選ばれるほどの評価を受けているのか。その疑問を解消するダーカーの呼び名が一つある。


 それが、、というものだ。


 一般的な仙技はその多くがカテゴライズされ、大まかにだが分けられている。仙気を用いて肉体を強化すること、仙気そのものを射出すること、武器を仙気で強化すること、仙気自体の性質を変えて武器に変化させること、などだ。


 それらカテゴライズされた仙技を全て高い基準で活用することで、仙気そのものを別の物質に変換したり、仙気や肉体、自然物の境界線をなくしたりして、正に自然をまとっていると表現できる圧倒的な力の仙術を使用できるようになる。


 それが本来の仙人の成長の仕方で、その最前線を走っているのがハートなのだが、ダーカーはそれとは全く違う力を以て、それら先を走っていた多くの仙人達を一気に抜かすことになった。


 それはハートすらも模倣できなかったダーカーだけが唯一扱える仙技で、仙技と表現するべきか、仙術と表現するべきか、しばらく奇隠でも議論されたものだ。


 それが今ではと呼称される力だ。


 仙術の基本は変換と操作だ。気を全く違う物質に変えることが仙術の最大の特徴であり、仙術の会得難易度を上げている最大の原因だ。

 仙気を他の物質に変えることはゴミを木に変えるような難しさで、たとえ特殊な技量を有した仙人であったとしても、簡単に超えられる壁ではない。


 その壁があることで、仙技と比べて圧倒的な力を持つ仙術というものが確立しており、多くの仙人が目標の一つにするのだが、その壁を一度無視することで、その眼前に到達することに成功したのが、ダーカーの用いる疑似仙技だった。


 端的に言ってしまえば、仙気の変化を一切考慮せずに、仙気の操作だけを考えた仙術の紛い物であるのだが、それだけなら、ハートでも十分に模倣できるはずだ。ダーカーだけが使える唯一の武器にはならない。


 この力が唯一無二の物となった最大の理由はだ。


 仙気の密度。それが多くの仙技で用いられる領域を超えて、仙術の一歩手前と表現される領域にまで踏み込んでいた。それは見えない壁を作り出すほどで、だからこそ、しばらくこの疑似仙術は仙術ではないかと議論されることになったのだ。


 もちろん、ハートも仙気の密度を操る技術自体は持っていたので、仙気を同程度の密度に固めること自体はできたのだが、それを自在に操ることがどうしてもできなかった。

 それは全身を硬直させた状態で動けと言われるような矛盾を孕んでいて、それが当たり前にできるダーカーの方がハートにとっては異常と思えるほどだった。


 そして、この密度には一つの法則があった。


 それがダーカーの近くにある仙気ほど、硬く物質に近くなるというものだ。遠くにある仙気を硬くできないという意味ではないのだが、その場合はかなりの無理をする必要がある。


 だからこそ、ダーカーは御柱を遠ざける必要があった。


 だからこそ、ダーカーは男の攻撃を眼前まで引きつける必要があった。


 そのことを知らない男はダーカーが自身の姿を仙気で隠しても、すぐに動き出さなかった。男は仙気の位置を補足して、ダーカーを探そうと思っているはずだが、その行動自体に意味はない。

 それを証明するようにダーカーは一人の男の背後に立って、その頭から足までなぞるように手を動かした。


 直後、男は空間に押し潰されるように圧縮され、一片のサイコロステーキのようになった。

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