星は遠くで輝いている(22)
仙術に辿りつくまでの道のりが仙技だとしたら、その過程にはいくつかの関門がある。その中でも、最も仙術に近い関門が仙気の性質変化であり、それは端的に仙気そのものに特殊な効果を付与するものだと教えられ、幸善は自分が到底辿りついていない場所の話だと理解した。
「その技術が必要なんですか?」
もしもそうだとしたら、自分は本部に行けないかもしれないと幸善は思ったが、そういうことでもないらしく、ダーカーはかぶりを振った。
「手段の違いくらいだよ。ある方が楽になるだけで、絶対に必要なわけじゃないよ」
それなら良かったと幸善は一瞬思ったが、それはつまり、自分は少し大変な方法を取る必要があるのかと気づき、再び気分は重苦しくなった。
妖気との接触で使用できる仙術というチートを手に入れたことから、幸善の実力は一定の評価を受けているが、仙技の部分は他の同世代の仙人と比べて、非常に劣っていると言わざるを得ない。
着実に少しずつ練度自体は上がっているが、その速度も緩やかなもので、他の仙人と比べると遅い部類に入るだろう。
幸善は自分の実力をそのように判断していることから、ここで求められていることを二日程度で身につけられるだろうかと不安に思った。
もしかしたら、それ以上に時間がかかってしまい、本部に行くのが遅れるかもしれない。そう思い始めたら、幸善は小一時間トイレに籠りたくなった。
「顔色悪いね。不安になった?」
不意にダーカーが幸善の顔を覗き込み、軽く微笑みながら聞いてきた。
幸善は溜め息のような返事を口にする。
「不安しかないですよ」
「まあ、そんな難しく考えなくて大丈夫だよ。身体の使い方とか、後は調整とかの話だから。何も難しくはないんだよ。君は仙術を扱う感覚を知っているんだろう?それに比べたら簡単だと思うよ」
仙術と比べたら簡単と言われても、幸善の用いる仙術は仙人の多くが目標とする仙術とは少し違う。
感覚的な話をしてしまえば、幸善の仙術は蛇口を捻るようなものだ。蛇口だけ捻っておけば、妖気と接触するという条件をクリアした時に、そこから勝手に仙術が湧いてくる。そこに難しい操作は何もない。
それと比べても本当にいいのだろうかと幸善は疑問に思った。ダーカーの伝えたいことがちゃんと自分に伝わっているのか分からない。
そんなことを考えていたら、ダーカーの案内は終わりを迎えていた。辿りついた場所は訓練室と紹介されたが、Q支部で言うところの演習場のようなものらしい。
ただし、明確な違いが一つあって、それが重要なようだった。
「この中は環境を変えられるんだよ」
「環境を?宇宙にできるってことですか?」
「そんなところ。実際の宇宙にしてしまうと、真空状態で皆死んじゃうけどね」
疑似的な本部を作り出し、その環境を事前に体験することで、本部に行けるかどうか判断する、ということらしい。
それを事前に行わずに本部に向かい、そこで問題が発生すると、本部の立地からも致命的な事故に繋がりかねない。それを防ぐために必要なことだと幸善は教えられた。
「それで、その時に何をするかということなんだけど、仙気の性質変化ができるかどうかで変わるから、それぞれ口頭で説明しようか」
ダーカーの提案に幸善と御柱が頷くと、すぐにダーカーは御柱に説明を始めた。仙気の性質をどのように変えるかという説明のようだったが、そもそも、仙気の性質変化ができない幸善には分からない話の上に、御柱は異様に飲み込みが早く、ダーカーも全てを説明していなかったので、何をするかは謎のままだった。
その光景を不思議そうに見守っていると、今度は幸善の番になったようで、ダーカーが幸善を見てきた。
「じゃあ、次は君だね」
「よろしくお願いします!」
「元気いいね。特に元気は必要ないんだけどね」
「急に辛辣じゃないですか?」
唐突なダーカーの冷たさに幸善が困惑した反応を見せると、ダーカーは途端にからからと笑い始めた。
その反応で揶揄われていると分かったが、揶揄われの天才となった幸善はその程度の揶揄われでは反応できなかった。既に揶揄われの反応が麻痺している状態だ。
「真面目に教えてください」
「はいはい。ごめんね。まあ、これから教える手段を使う仙人の方が多いから。そういうものだと思ってよ。リラックスしてね」
「こっちの方が多いんですか?」
「そうだよ。俺もこっちだしね」
多くの仙人が用いる基本はこちらであると教えられ、幸善の気持ちが軽くなったのも束の間、ダーカーもこちらを用いると知って、幸善の中でハードルが一気に上がった。
「じゃあ、どういうことをするか説明するね」
そこから、ダーカーの説明が始まるのだが、幸善は諸々の情報から未だに自分にできるのかという不安を抱えたまま、その訓練に臨むことになった。
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