星は遠くで輝いている(21)
二日間の滞在と言われていたので、幸善はホテルの一室のような部屋を想像していたのだが、案内された部屋は一人暮らしできそうなほどに設備の整った部屋だった。
部屋は三部屋ある上に家具や家電は一通り揃っている。冷蔵庫の中は食材も完備されていて、キッチンには一通りの調理器具も揃っているので自炊も可能だ。
唯一、ユニットバスである点だけ幸善は気になったが、そもそも、ここに居住するつもりはないので、それは望み過ぎというものだろう。
滞在するだけだと考えた時に、これだけの設備が整っていることは寧ろ、過剰だと幸善は思った。
「ちなみに食事はこの建物内にもレストランがある上に、要望があれば部屋まで運べるからね」
部屋まで案内してくれたダーカーがそのように言ってくれたことで、幸善は自分がどこに来たのか良く分からなくなっていた。
いつの間にか、石油でも掘り当てていたのだろうかと錯覚するほどの待遇だ。
「こんな部屋を使ってもいいんですか?二日しか、ここにいないのなら、使っても一晩とかですよね?」
「この施設に滞在する人物は基本的に本部に足を踏み入れる仙人ということになるからね。それだけの人物はそれなりの地位にいるんだよ」
「でも、俺は…」
「君もこの施設の人間からしたら、それだけの立場にいるということさ。それを理解して振る舞うのもいいかもね」
「立場…ですか…?」
「そう。君は重要な客人なんだよ」
重要な客人。そう言われても、端的に困ると幸善は思っていた。
自分はただの高校生であり、奇隠の重役でも何でもない。周囲の認識がどう変わったとしても、その根本的な事実が変わらない以上、幸善の振る舞いに変化があるはずもなく、困惑することが精一杯の反応だ。
その接し方を二日だけでもされるとしたら、少々息苦しいと思ったが、それをダーカーに言ったところで変わることでもないだろう。
「ま、まあ、御柱さんに恥を掻かせないように気をつけます」
精一杯の一言を告げると、ダーカーは面白そうに声を上げて笑っていた。
「ちなみに御柱さんの部屋はどんな感じなんですか?」
「ここと同じだよ。唯一違うところがあるとしたら、冷蔵庫の中身くらいだね」
「え?嫌いな食材は省かれているとかですか?」
「いや、君は未成年だと聞いていたから、万が一を考えて、アルコール類は全部持っていったんだよ」
「ああ、そういうことですか。別にそこまで気にしなくても大丈夫でしたよ」
言われるまでもなく、未成年である自分が酒を飲むことはない。そういうつもりでそう言ったのだが、ダーカーは違う解釈をしたようで驚いた顔をしていた。
「え?飲みたかった?」
「あっても飲まないって意味ですよ!?何でそうなるんですか!?」
「何だ。君は真面目だね」
「逆にダーカーさんは飲んでいたんですか?」
「ラスと呼んでくれていいよ。皆、そう呼ぶから」
「ラス…さんは若い時から飲んでいたんですか?」
「いいや。俺は今も飲まないよ。喉を守る必要があるからね」
序列持ちのNo.10。先から触れているダーカーはその姿だったが、世間的にはNoir.のボーカルとしてのダーカーの方が有名であり、そちらの方が仕事としては多いはずだ。
その活動のことを考えると、そこまで考えて生活するのかと、幸善はプロ意識の高さに感心した。
「それよりも荷物を置いたら、すぐに移動しようか。本部への連絡は進んでいると思うから、早く行くための準備をしないと」
「ああ、そういえばそうでしたね」
急かされるまま、部屋の中に荷物を置きながら、幸善はさっき聞かされた本部の話を再び思い出していた。
「本部が宇宙にあるって本当なんですか?」
「嘘をついてどうするんだい?」
「いや、あんまり信じられなくて…」
「本当だよ。宇宙ステーションみたいな感じで、軌道上に浮かんでいるんだ。最初からそうだったわけじゃないらしいけど、少なくとも、俺が仙人になってからは宇宙にあるね」
「そ、そうなんですね…」
元から人型に関する話は世界規模だったが、それでも身の回りの延長線上に感じるものだったのに対して、宇宙はあまりにかけ離れていて、フィクションの中の方が近く感じる話だ。
そこにこれから行くと言われても実感が湧かないどころか、騙されていると考えた方が納得できるくらいに思えてくる。
「ちなみに準備って難しいことをするんですか?」
「えーと…当たり前のことを聞くけど、仙技は使えるんだよね?」
「まあ、肉体強化とかそういうのなら。武器に仙気をまとわせるのはリタイアしましたけど」
「なら、大丈夫。そっちの方が数百倍難しいから」
荷物を置いた幸善はダーカーと共に部屋を出て、そこで既に待機していた御柱と合流した。そこから、二人はダーカーの案内で施設内の移動を始める。
「あ、そうだ。訓練施設に行く前に一つだけ確認することを忘れていたよ」
「確認ですか?」
「仙気の性質変化はできる?」
「性質変化?」
首を傾げる幸善の隣で、御柱は得意と答えていた。
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