影が庇護する島に生きる(11)

 村と森の接点にある木陰の中。森の入口とも呼べるその場所にて、他の四人が集まっている姿を冲方と楓は発見した。ログハウスを後にした直後のことであり、特に連絡があったわけではないのだが、全員が情報の共有を考えたようだ。渦良と有間は渦良主体で、御柱やアシモフに何かを話している様子だった。


 冲方と楓もその場所に合流すると、全員がそれぞれのログハウスで手に入れた情報を開示することになったのだが、その内容について、大きな差異はなかった。


 朝食中にベネオラから聞いた情報を冲方達は伝えたのだが、その情報は他の二組が持ってきた情報と同じであり、唯一違う情報を持ってきたのは、御柱とアシモフの二人だった。


「先ほど家を出る直前に、その家に住んでいる子供達から話を聞いたのだが、どうやら、らしい」

「子供?」

「森の動物を殺してはいけないというルールが気になったのだが、森では動物を発見できなかったから、どこに動物がいるのか聞いたところ、森の子供の近くに動物が集まると教えてくれた」

「その子供は何者ですか?」

「それは分からなかった。取り敢えず、この島の管理者ではないらしい。ただし、どこかの村の人間であるわけでもないようだ」


 島の管理者でも、村の人間でもない子供。まるで幽霊のような存在だが、幽霊と考えるほどに冲方達は夢見がちではない。


「動物を殺してはいけないというルールと関与していそうですね」


 冲方の呟きに御柱も賛同するように頷いていた。動物を集める何者か分からない子供となると、その存在がルールの制定に関与していると考えるべきだろう。その子供の発見が管理者の発見にも繋がりそうだと冲方は思った。


「その子供の特徴は?」

「十代前半くらいの女の子。それしか分からなかった」

「見た目の情報は錯綜していて特定が難しい」


 どうやら、子供達がそれぞれにそれぞれの特徴を言ったらしく、どれが正しいのか良く分からなかったそうだ。そもそも、滅多に逢える存在ではないようだから、その情報の全てが微妙に合っていて、微妙に間違っている可能性もある。


「その子供の捜索、森自体の調査、管理者の捜索が取り敢えずの目標ですかね?」


 楓の確認に御柱が頷いたことで、冲方達の今後の方針が定まった。


 取り敢えず、森自体の調査を進めながら、森の子供を発見し、そこから、島の管理者に繋がる情報を引き出すことで、最終的に島の謎を突き止める。これが今回の冲方達の目標だ。


 それを確認した冲方達が早速、森の中に調査のために踏み込もうとしたところで、不意にアシモフがロシア語で呼び止めてきた。


「その前に一つだけ可能性の話をしたい」


 御柱が通訳したその言葉を聞き、冲方達は揃って首を傾げた。この場面で唐突に何だろうと思っていると、アシモフは島の管理者に関する一つの可能性を話し始めた。


 それは日本で現在も発生している誘拐事件と、この島に人が集まってきた話の類似性から、人型がこの島の中にいるかもしれないという可能性だった。


「似ていますか?」

「感覚的に似ていると感じないか?どちらにしても、人を集める理由が分からない。この島に何かがあり、そのために人を集める必要があるとしたら、それは人型が人を誘拐する理由と同じか、近しいものである可能性が高い」


 確かにそう言われてみると、この島の存在を教えて、この島に移住するように勧める理由は良く分からない。単純に善人である可能性も全くないわけではないが、何かしらの力を持っている人物が管理者であるのなら、そこに一定の目的がある可能性は非常に高い。


「実際に人型がいるかどうかは分からないが、それに相当する相手がいる可能性は非常に高い。単なる森の調査でも、必要以上に警戒して問題ないかもしれない」


 アシモフの注意に冲方達は緊張を見せながら頷いていた。村を発見し、そこに住む人と触れ合い、そこに自分達に対する攻撃性を見つけられなかったことから、少し油断し始めていたが、ここが未確認の島の中である点は変わっていない。


 この森の中で何と出遭うのか。冲方は少し考え、持ってきた刀を確認するように握っていた。

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