影が庇護する島に生きる(10)

 村の長らしき男はゴーン・アクシィと名乗った。村の中に並んだログハウスの中で、他よりも少し大きいログハウスに、三人の子供と住んでいた。ウル・アーマーという一人の男の子と、プル・リバース、システィア・オレンジという二人の女の子だ。


 三人の子供はウィームよりも幼く、御柱やアシモフは自分達が宿泊することになって、怯えられたりしないかと、その存在を知った時に危惧したが、そんなことは微塵もなく、三人は頻りに御柱達が住んでいる場所のことを聞きたがった。

 その質問に適度に返答しながら、アクシィから話を聞いていく中で、御柱とアシモフも島の実態について、その多くを把握することができた。


 島には他にも村があることや、その村に住んでいる人は島の外から来た人達ばかりであること、村に住む人は様々な問題を抱えて、自分達の住んでいた場所を追われたこと、島には管理者がいることや、その管理者の作ったルールまで聞き、御柱とアシモフはその辺りに島の秘密が存在していると考えていた。


「我々を受け入れたのも、そのルールの一端ですか?」


 そこまでの話を頭の中でまとめ上げながら、今度の調査の方針を定めていた御柱が、できるだけの情報を聞き出そうと考えて、アクシィにそう質問していた。

 アクシィはかぶりを振り、ルールに島外の人間に関する者はないことを伝えてくる。


「それなら、どうして我々を?」

「この島を訪れる人がいたとしても、その多くはこの島の管理者によって、外部に追い出されます。それが今回はなかったことを考えると、私達にもてなすように、島の管理者が暗に伝えているのかもしれないと思ったのです」


 島に到達した者は追い出される。その意味合いは分からなかったが、島自体の観測ができないことを考えると、それ相応の力はあるように思われた。


 問題は今回、御柱達が追い出されなかった理由だが、それは単純に御柱達の来訪を島の管理者という人物が受け入れたのか、それとも、御柱達は追い出せないと判断したのか、そのどちらなのかが分からない。


「ちなみにですが、我々がこの近辺の森を調査しても大丈夫なのでしょうか?」

「はい。森の中でしたら、立ち入りを禁じられていないので、いくらでも調査してください。ただし、森の動物は殺さないようにお願いします」

「そのルールなのですが、どうして殺してはいけないのか分かりますか?」

「詳しくは分かりません。ですが、基本的に森で動物に逢うことはないので、大丈夫だと思います」


 基本的に動物と逢わない森で、動物を殺すことを禁じたルール。その違和感に何かがあると考えながら、御柱とアシモフは調査のために動き出す必要があると考えていた。


 到着した時には、昇り切っていなかった太陽も、今では空の高い位置で輝いており、この明るさなら大抵の森の中でも自由に行動できるはずだ。


 御柱はアシモフに聞いた情報を伝えつつ、それをまとめ上げながら、次に他の第二部隊の面々と連絡を取り、調査のために動き出そうと考えていた。


「それで管理者の居場所は?」


 アシモフの質問に御柱はかぶりを振った。管理者の存在を聞いた段階で、その管理者の居場所やコンタクトを取る方法を聞いてみたのだが、そのどちらもアクシィは把握していないようだった。


「ルールさえ守れば、この島には置いておく。しかし、無駄に干渉はしない。そういう存在のようです」

「だったら、その居場所を割り出すのが先か。本来、島を訪れる人間がいれば、管理者によって追い出されるという点も気になる」

「やはり、何かしらの力を持った存在であることは確かでしょう。警戒しておくべきですね」

「ところで一つ確認をしておきたいことがあるのだが」


 不意にアシモフが口調を変えて切り出したことに御柱は身構えた。先ほどまでの悩みながら口にした言葉と違い、それは何かしらの考えを吐き出す強い意思を感じたからだ。


「日本で人型によって人が攫われる事件が発生したと聞いたが?」

「はい。今も同様の事件が再発しています」

「それとこの島は全くの無関係なのか?」


 アシモフの疑問に御柱は首を傾げかけ、アシモフが何を言いたいのか理解した途端に、硬直させるように首を止めた。


「まさか、この島は人型による誘拐と同様の目的があると?」

「完全に同じと断定するわけではないが、何か似た臭いを感じた。これが気の所為ならいいのだが、もしもそうだとすると…」


 この島に人型がいる可能性は消えていない。それどころか、この村に存在する全ての人が人質になり得る可能性まであるということだ。


「もしかしたら、相当に厄介な場所に来てしまったかもしれない」


 ほんの少しの後悔の色を見せながら、アシモフが呟いた言葉に、御柱も表情から苦々しさを隠すことができなかった。

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