影が庇護する島に生きる(5)
冲方が原住民の存在を確認した。渦良の持ち込んだその報告に、流石の御柱も驚いているようだった。言語の違いから一人理解の遅れたアシモフに通訳した後、御柱が渦良に遅れて到着した冲方に確認してくる。
「本当に人間がいたのか?」
「はい。かなり弱々しいものでしたが、仙気を確認したので人間だと思います」
「それが本当なら、この島に人型がいる可能性は少なくなるな」
人型はその行動目的が人間の殲滅に片寄っている。それは相手が誰であるかは関係がないことで、生命体として判断した時に相手が人間なら、全て等しく生かす価値はないという極端なものだ。
仮に原住民がいるのなら、人型はまず、その原住民の殺害から行動するはずであり、原住民が原住民として生きている段階で、この島に人型がいる可能性は低くなってくる。
「取り敢えず、この島に関して、何かを知っている可能性がある。接触を試みてみよう」
そう判断してから、御柱は冲方からの報告と自分の考えをアシモフに伝えているようだった。アシモフは納得したのか、小さく頷きながら、不意に腰元の武器に触れている。
「人間がいるのなら、武器の使用は誤解を招く可能性がある。極力控えよう」
「確かにそうですね。そう伝えます」
アシモフと御柱が軽く会話してから、原住民を警戒させないように、武器の使用を控えるように御柱からの注意があった。人型が島にいる可能性が薄くなり、次に接触する生物が原住民である可能性が高まった今、何者かの気配を感じたからといって、無闇に武器を取り出すべきではないことくらいは冲方にも理解できた。
冲方達は納得した上で武器を仕舞い、冲方が目撃した女の子を追いかける形で、森の中を進み始めた。
「そういえば、発見した原住民はどんな感じだったんだ?」
移動途中に渦良が相手を先に知っておきたいと思ったのか、そのように聞いてきた。どうやら、先ほどは完全に女の子の姿を見逃したようだ。
「年齢にして、小学校高学年から中学生くらいでしょうか。それくらいの外国の女の子でした。どこの国の子かは分かりませんでしたが、英語を話していたので、英語圏の国ではないかと思います」
「それ以外に特徴は?」
「それ以外と言いましても、特に目立った特徴は見当たりませんでしたが…」
「何かを持っていたとか、そういうのはなかったのか?原住民なら、服とかも特徴があっただろう?」
「あ、そういえば、普通に服を着ていましたね」
冲方は目撃した女の子の姿を思い出した。その時は何も疑問に思わなかったが、この島の中では不自然なほどに格好は普通だった。服も格段汚れているようには見えなかったので、ちゃんと洗っているのだろう。
「普通に服を着ていた?この島で作られている…とは考えづらいか。外部から持ち込まれているのか?」
「そうなると、外部と接触があることになりますね」
「あの~…どうして、その女の子がこの森の中を出歩いていたんですかね?」
有間が唐突に呟いた疑問に冲方も不思議に思った。昼間なら未だしも、今は日も昇り切らない早朝だ。この時間帯に森の中を歩くとは普通に考えると危険なことであるはずだ。
「周囲の状況を見るに、この森には動物がいないのかもしれないな。そう考えると、森の中に女の子が一人で入ること自体の疑問は消える。問題は時間帯か。何かをしに行こうとしていたと考えるべきだろうが、一体何をしていたのか」
「場合によっては、島が観測されなかった理由にも繋がるかもしれませんね」
御柱と渦良はそう考えているようだったが、その会話の外でアシモフは何か疑問に思っているようだった。その様子に気づいた楓が御柱を呼び止める形で、アシモフにどうしたのか質問している。
「これだけ豊かな森を作り出すには、動物の存在が不可欠なはずだ。この規模の森を人間の手だけで作ったとは到底思えない。しかし、ここに来るまで動物の気配を感じないとなると…」
「何かがあると?」
「そう考えるしかない。やはり、島の存在といい、何か大きな謎があることに間違いはないようだ」
アシモフの疑問に冲方達は改めて周囲の木々を見ていた。確かにそう言われてみると、これだけの森が存在していて、そこに動物が全くいないとは考えづらい。原住民と思われる人間がいるのに、他の動物が全くいないということがあり得るだろうか。
そこに謎があると考えるのは全うかもしれないと思った直後、冲方は木々の間を漂う光を見つけた。
「あれは…?」
思わず声を潜めながら、周囲の人達に伝えるように呟いた瞬間、その光が一つ二つと増え、木々の間を移動していることに気づいた。
「何だ…?火の玉…?」
「やめてよ、そういうこと!」
渦良が冗談っぽく呟いた言葉に、楓が必要以上の怒りを見せた隣で、冷静にその様子を観察していた有間が呟いた。
「あれって、懐中電灯の明かりじゃないですか?」
「確かにそう見えますね」
そう思って、改めて光を良く見てみると、数人の人間が手に懐中電灯を持って、木々の間を歩いていることに気づいた。
「あ、原住民…」
渦良がぽつりと呟いた瞬間、御柱が俄に立ち上がり、その光に向かって英語で声をかけていた。
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