影が庇護する島に生きる(4)
御柱の呼びかけで冲方は目を覚ました。僅かに日が昇り始めた時間帯のことで、周囲は仄かに明るくなってきているくらいだ。船が島に到着したようで、これから上陸に移るようだが、狙い通りに視界が悪いため、慎重を期すように御柱からの注意があった。
到着した島は船上から見渡すに、島の半分以上が木々に覆われているようだった。島の中央付近には岩山も見えるが、そこに至るまでは全て木々で埋め尽くされ、そこに何かがいるのか船上からは分からない。
第一部隊の船は周囲に見当たらなかったが、島の静けさから即座に戦闘が起きる事態は避けられたことが分かった。こちらも現状、周囲に生物は発見できず、上陸と同時に戦闘になることはなさそうだ。
冲方は自分が持ってきた二本の刀と一緒に、全員が分割して持ち込むことになった食料や水などの生存のために必要な物を持ち、第二部隊の他の面々と一緒に島に足を踏み入れた。
船の到着した場所は砂浜になっていた。冲方達のいる場所から確認できる限りの海岸線が砂浜になっているようだ。そこから、少し進めば足元が土に変わり、その先に行くと少しずつ木々が増え始めて、最終的に島の大半を覆う森に繋がっている。
仮にこの島に人型がいるとしたら、この森の中のどこかだろうと冲方が思ったように、御柱もそう考えたようだ。第二部隊は早速、その森の中に足を踏み入れ、人型を始めとする生物の存在を探すことになった。
「ちなみに、先に聞いておくんですけど、調べてみて何もなかったらどうするんですか?」
島に入る前に渦良が好奇心からか、その質問を口にした。それを聞いた御柱はあり得ないと言うようにかぶりを振る。
「この島は奇隠が調べようとしても観測できなかった島だ。人型やその他の生物の有無は別として、何もないはずはない」
「つまり、最低でもその秘密は探ると?」
「そうしないと、この技術を人型に利用された際に、我々の対応が二手も三手も遅れることになる。それだけは避けなければいけない」
御柱の危惧は尤もだと冲方は思った。この島が太平洋上に存在しておきながらも、その存在を確認されていなかったように、都市に人型が現れても、その存在を確認するまでにラグが発生したら、人型の行動を止めることができなくなる。現状、個体数の差で大きな動きができていない人型の動きが活発化する原因になりかねない。
「しかし、何を判断の決め手としますか?人型がいるのなら簡単ですけど、それ以外だと何が原因か見て分かるのかどうか」
「取り敢えず、生物は全て原因と繋がっている可能性があるから、見つけたら調べるくらいでいいだろう」
御柱と渦良がその確認をしながら、冲方を始めとする第二部隊の面々が森の中に踏み込んでいく中、アシモフだけが立ち止まり、そこに生えている木に触れていた。
「どうかしましたか?」
「いや、可能性を潰していた」
その言葉を聞き、御柱も気づいたらしく、近くの木に触れている。
「これはただの木のようですね」
「ああ、そうか。この森自体がその秘密の可能性もあったんですね」
「それでしたら、中央に見えていた岩山も後で調べてみたいですね」
「あの…土も調べた方がいいかもしれません」
冲方と有間の提案を受けて、御柱が足元の土を採取し始めた。その間に冲方達は周囲に生物がいないか、痕跡だけでも見つからないかと、逸れない程度の距離を維持しながら探ってみる。
「土はここで調べるんですか?」
自身は戦闘に向いていないからと、冲方達と一緒に周囲の探索をせずに、土を採取する御柱を見ていた楓が質問する。
「いや、こういう物は持ち帰ってから調べる。この島の状態さえ分かれば、後で人を送り込むこともできるからな」
「ああ、そういう感じで」
その会話が繰り広げられている間に、冲方は森の中を少し進み、何かがいないか周囲を見回していく。
しかし、あまりにも何もなく、人型どころか動物もいないのではないかと冲方は次第に思い始めていた。
せめて、何かの動物がいる痕跡や、虫の一匹くらいは見つけたいと思った冲方が、一人で少し先に進んでみたところで、不意に近くの茂みが揺れた気がした。もちろん、風の可能性もあるので、揺れたから何かがいると決まったわけではないが、何かがいる可能性が高まったことに違いはない。
冲方は何かがあった際に対応できるように身構えながら、ゆっくりと茂みに近づこうとした。
その直前、茂みが大きく動き、そこから何かが飛び出してきた。冲方は咄嗟に刀を構えて、その茂みから離れようとする。
「うわっ!?」
驚いたように上げられた声は冲方のものではなく、その茂みから飛び出してきたものの声だった。良く見てみると、それはまだ幼さも見える女の子だ。
「誰!?」
その女の子が警戒するように英語でそう聞いてきた。確かに女の子の見た目はアジア人には見えないものだ。
何より、冲方が気になったのは女の子を良く見ようとした際に感じられた、女の子から漂う気配だ。それはとても弱々しいが、仙気であることに間違いはないようだ。
(人型ではない…?人間か…?)
そう思いながら、冲方は二本の刀を納めて、警戒させないように女の子に微笑みかける。
「何だ、今の声は!?何があった!?」
その努力を無駄にするように、渦良が大声で叫びながら近づいてきて、怯えた女の子が全速力で森の中を走り出した。
「あっ!?ちょっと待って!?」
冲方が咄嗟に呼び止めようとするが、女の子の姿はすぐに消えてしまう。そのことにガッカリした冲方を不思議そうな顔で渦良が見てきた。
「どうした?」
「どうやら、原住民がいるみたいです」
その報告に渦良は目を真ん丸くしながら驚き、慌てて御柱達に報告するために駆け出した。
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