影が庇護する島に生きる(6)

 争いの意思がないことを示すために、武器を含めた荷物の全てを地面に置き、相手に見えるように両手を上げて、冲方達は姿を見せた。

 事前に冲方から英語で話していたという情報を聞き、御柱は英語であれば会話が通じると判断したようだ。相手に何かを話しかけ、相手もそれに答えるように声を出していた。


 問答無用で攻撃される可能性を冲方達は恐れていたが、驚いたことに原住民達は懐中電灯しか所持しておらず、武器に使えるようなものは何一つ持っていなかった。


 普通、森の中に踏み入れる時は何かしらの獣に襲われる可能性を考慮し、最低限の武器は持っていくはずだ。それもないということは、この森にはやはり動物がいないのか、もしくは動物がいても襲ってこないと思っているか、そう分かっているということだ。

 その辺りにも何かがありそうだと考えながら、冲方達は御柱の話が終わるのを大人しく待っていた。


 その中で冲方は懐中電灯を持った原住民の中に、先ほど出逢った女の子がいることに気づいた。冲方より少し若く見える外国人の女性の後ろに隠れており、冲方達を観察するように見ている。


「あの子だ…」

「どの子だ…?」

「あの子ね…」

「あの子ですか…」

「どの子…?」


 渦良や言葉の通じないアシモフを除き、楓と有間は冲方が先ほどに逢った女の子が誰であるのか分かってくれたようだ。冲方を含めた三人からの視線を受け、女の子が怯えたように女性の後ろに引っ込んでしまう。


「よし、話がついた。移動するぞ」

「え?どうなったんですか?」


 渦良の質問を完全に無視して、御柱が荷物を手に取りながら、アシモフに事情の説明を始めていた。英語の次はロシア語と、意味の分からない言語での会話が続き、冲方達は一切状況の把握ができていないが、御柱やアシモフが置いていた荷物を手に取ったのだから、両手を見せ続ける必要もなくなったのだろう。


 気づいたら、先ほどまで冲方達の前にいた原住民が少し先を歩き出していた。御柱やアシモフはそれを追いかける形で歩き始める。


「何があったんですか?」


 アシモフに対する説明が終わったと思われるところで、渦良が再度御柱に声をかけていた。流石に今回は答えるつもりのようで、御柱が先を歩く原住民を見ながら口を開く。


「この島の調査に来たと正直に説明した。正体不明の島を発見したから、諸外国から調査を依頼されて送り出されたとな。発見した日本が主体になったから、日本人で構成されていると説明したら、その部分に関して疑いは持たれなかったようだ」

「それで今はどこに向かってるんですか?」

「敵対するつもりはないと伝え、島の状況を把握できたら、即座に帰ると言ったら、何故か彼らの家に宿泊するように勧められた」

「それって罠なのでは…?」


 有間が不安そうにそう呟いた。確かに島の状況を調べられては困ると考えた原住民による罠の可能性が高いとは冲方も思った。


 しかし、それくらいのことは御柱も考えるはずだ。御柱は小さく頷きながら、冲方達の荷物に軽く目を向けた。


「だから、武器の所持を伝えた。襲撃を決意しても、犠牲が出ると判断したら躊躇いが見えるはずだ」

「でも、見ている限り、そんな瞬間はありませんでしたよ?」

「だから、案内を依頼した。本当に我々を泊めるだけなのか、武器を持っていたとしても対応できると考えているのか分からないが、どちらにしても、これは島の秘密を知るのに都合の良い展開だ」


 特に後者である場合、その対応手段が島の秘密と関連しているかもしれない。御柱がそのように思ったことは冲方にも想像できた。


「警戒だけは怠るな」


 最後に御柱が忠告するように言ってきた言葉に頷いた直後、唐突に周囲の木々がなくなり、森の中の開けた空間に出る。

 そこには木製の建物がいくつか並んで立っていた。絶海の島にある建物とは思えないほどにしっかりとしたログハウスだ。


「ここが我々の村です」


 振り返った原住民の男がそう言ってきた。冲方でも聞き取れる簡単な英語であり、その場所を村と表現したことに冲方は疑問を懐いた。


(自分達の村…?そう言うことは…?)


 その疑問を懐く中、先ほどの女の子を後ろに連れた一人の女性が冲方達の前にやってきた。一瞬、冲方はそのことに警戒したが、相手は特に敵意を見せる様子もなく、その女性が冲方に声をかけてくる。


「あの…よろしければ、私達の家に泊まりませんか?」


 英語で話しかけられた一言の中から、私達の家と泊まるという言葉を聞き取った冲方は、その提案の意味を理解して、素直に驚きを顔に出していた。

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