猿の尾は蜥蜴のように切れない(5)
届いた連絡に対して
傘井が二人を招集した理由は分からなかった。一方的に場所を指定し、そこに来るように書かれている。それは半ば命令のようだ。
「何の用だろう?」
「仕事じゃない?」
平然と答えた杉咲と違い、佐崎は連絡に内容の記載がないことを不思議に思っていた。傘井は仕事の時は仕事とちゃんと明言するはずだ。その記載がないということは仕事ではない可能性があると思いながら、佐崎は杉咲と共に指定された場所に向かうことにした。
そこは少し古びた印象の民家だった。その家の前に傘井は立っており、佐崎と杉咲を見つけるとすぐに手を振ってくる。
「良かった。ちゃんと来てくれたわね」
「何かあったんですか?」
早速、呼び出した用件を聞き出そうとした佐崎に、傘井は手招きしてきた。
「移動しながら説明するから」
そう言って、その家の人に声をかけることもなく、勝手に敷地内に入っていってしまう。その様子を不安に思った佐崎が大丈夫なのか聞くと、事前に許可は取ってあると傘井は答えてきた。
「そもそも、この家の主人がこの仕事の発端なの」
「仕事?これはやっぱり、仕事なんですか?」
「私のね。貴方達は違うけど」
傘井の返答の意味が分からず、佐崎は怪訝げに杉咲と顔を見合わせた。杉咲は疑問に思っているのかどうか分からない表情だが、今の言葉の意味は同じように分かっていないはずだ。
「元々、この家の主人が納屋に動物が入り込んでるって役所に言ったのよ。それで役所の人間が調べに来たんだけど」
「その動物が妖怪だった?」
「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
「それで俺達が呼ばれたということですか?」
「ううん。呼ばれたのは私だけ」
「はい?」
佐崎が首を傾げた時になって、傘井の案内で納屋に到着していた。そこで傘井は納屋の一部に開いた穴を指差し、「そこから入ってる」と言ってくる。
「ちょっと待ってください。呼ばれたのは菜水さんだけなんですか?」
「そう。昨日ね。だけど、私は失敗しちゃったの」
「どうして?」
「今の穴を見て」
佐崎は先ほど傘井が示した穴を見た。その穴は小さく、そこから入ったのなら、小型の動物の姿をした妖怪なのだろうと佐崎に想像させるものだ。
「小さい動物が一匹か、とても小さい動物…ネズミくらいのね。それが数匹、それくらいの穴に見えるでしょう?」
「そうですね。それ以上だと入り込んだというよりも、巣にされてるみたいです」
「でも、私は昨日、ここで数匹のサルと逢ったの」
「サル?それも数匹?」
「そう。合計で三匹は見たわね。狭さと暗さがあって、明らかに分が悪いと思ったわ。何より、そこにいたのが三匹だっただけで、他に何匹いるのか分からない」
佐崎は民家の近くにある山を見た。この辺りに動物が生息できるとしたら、そこくらいのはずだ。
「あそこにサルの群れがいて、その内の一匹が妖怪の可能性は?」
「あるわね。でも、そうだとしたら、一匹以外は傷つけられない」
そこまで言われて、佐崎はようやく納得した。傘井が二人を呼んだ理由がハッキリとした。
「そういうことですか」
「分かってくれたみたいね。どう?持ってきた?」
「一応」
そう言いながら、佐崎と杉咲が刀を見せる。ただ疑問だったのが、その場に二人しかいないことだった。
「涼介は呼んでないんですか?」
「あいつの復帰は週末。まだ早いから呼んでないわ」
「幸善君達は?向こうに協力していたのだから、こっちも協力を要請すれば良かったのでは?」
「私が仕事に失敗したから、こちらを助けてくださいなんて、恥ずかしくて他の隊に言えるわけないでしょう?」
「そういうことなんですね」
苦笑する佐崎に傘井は近くの山を指差しながら言ってくる。
「じゃあ、サル退治に行くわよ」
「分かりました」
「うん」
傘井を先頭に佐崎と杉咲は近くの山に向かって歩き出した。
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